エピローグ 山葵
――――――西暦202Ⅹ年火星は恐怖に包まれた。
''あの五寸釘女''が人類代表として地球から来訪するのだ。
6年前の地球遠征に参加した者の中には恐れをなして地中深く潜ったり、木星やアステロイドベルト(小惑星帯)まで避難して''訪問者''に備えるのだった。
そして今、太陽系最大の火山であるオリンポス山上空に降下してきた宇宙船を、彼らはアンゴルモア大王が乗っているかのごとく、遠く離れた所から戦々恐々と眺めていた。
オリンポス山の麓にゆっくりと宇宙船が着陸した直後、2つの隕石が宇宙船の至近に落下して盛大な土煙を上げる。
『『『誰だよ!刺激すんなよ!!』』』
声にならない叫びが彼らの胸中に渦巻く。
やがて土煙が収まると宇宙船の中から2本の樹木が、老紳士と老婆に先導されてフワフワと浮きながら地面に降り立った。
「は、ハロー?」
光太郎が恐る恐るスマホから挨拶した。
荒野は静まり返っており返事がない、屍だらけのようだ。
「火星に来たわよ♪」
それでも意に介さず両枝に五寸釘と出刃包丁と蝋燭をかざした夏乃が可愛く火星の荒野に向けて挨拶する。
『『ようこそいらっしゃいました!姐さん!!!』』
突然、荒野の至る所から数多の岩石が宇宙船の前に飛来し、ピラミッド状にテトリスの如く積み上がり「整列」した。
光太郎は唖然としていたが、夏乃は、一言「宜しくね♪」と満面の笑みでピラミッドに微笑んだ。
『『喜んで!!!』』
ピラミッドとなって唱和する火星岩石達。
ピラミッドの脇にはいつの間にか芽吹いた苗木が2本、ゆらゆらと新しい時代の到来を楽しむかのように揺れていた。
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【移民歴 17年 火星 オリンポス山麓 コロニー『山葵』】
火星で最初に誕生した人類と植人の街は地球のとある国にかつて存在した「西部劇」に登場するような荒野にポツンと出来た街である。
17年前、最初に人類初の有人惑星間航行宇宙船が着陸した場所でもあり、宇宙船自体は今も街の居住施設の一部として使用されている。
街の南北にはそれぞれ大きな林檎の木が守護神の様に街の入口にそびえ立っている。
この林檎の木は宇宙船の着陸時と「同時に」地上で芽生え、メキメキと成長して1年に1度不思議な林檎を沢山実らせる。
一見すると普通の林檎だが、邪な感情でかじると山葵味の林檎となってしまうらしい。
この不思議な林檎の実がこのコロニー街の名前となったのである。
何故、そうなるのかは火星7不思議の1つであるが、最初にこの地に降り立った宇宙飛行士二人は真実を知っているのだが今日に至るまで明かしていない。
しかしながら緑と水に乏しいこの地に二本の大木は多くの恵みをもたらしており、住民達の憩いの場となっていた。
「ただいまー!」
赤い大地を1日中耕して、茶色に日焼けした木目が目立つ1本の樹木がフワフワと玄関から入ってくる。
「おかえりなさい、あなた」
優しく出迎える薄茶色の細い樹木が枝葉を震わせて光太郎を抱きしめた。
「ただいま、夏乃」
光太郎が蔦を巻き付けて夏乃を優しく包み込む。
「「お父さんお帰りー!!」」
奥の部屋から『若い苗木』と12~13歳だろうか?一人の『女の子』がフワフワと駆け寄ってくる。
「お父さんとお母さんはいつまで経っても熱々だなー、ひゅうひゅう~」
女の子が両親を囃し立てる。
夏乃の葉が真っ赤に紅葉してしまう。
「こら一二三、家の中ではヒトにならないとダメじゃないか。春乃は浮かない、歩かないとダメだぞ」
光太郎は息子の一二三と娘の春乃を軽く叱る。
光太郎と夏乃の子供は生まれつき両方の形態を取ることが出来、植人の能力も発揮可能だ。
ちなみに夏乃は火星へ向かう途中で樹木に変化出来る能力を獲得している。
随伴していた久島一郎とチクシュループ婆の力添えも有ったのだ。
「一二三、春乃、今日は何をしていたんだい?」
光太郎が照れて赤面した葉っぱを誤魔化す様に聞く。
「「お父さんとお母さんのなれ初めのネット小説を読んでいたんだよっ♪」」
二人の子供は元気よく答えるのだった。
~「植人」完~
ここまで読んで頂き、心から御礼申し上げますm(__)m




