考える樹
【神奈川県横浜市神奈川区某所】
光太郎は相変わらずバスの中で立往生していた。
いや、まあ、そこに根付いてしまっているので仕方ないかも知れない。見た目は若木が生えているようにしか見えないのだから。
「……参ったなぁ」
光太郎はあの日、会社の同僚である山岸 夏乃に想いを伝えたかったのだ。
同じ会社のフロアーに居ながら違う部署の為、離れた所から眺める事しか出来ないのだが、それでも時折文房具を借りに行くついでにお話ししたり、休暇中のお土産を交換するなどそこそこ行けているのでは?なんて勝手に期待していたりする。
日々ノルマに追われていっぱいいっぱいの光太郎にとって、彼女の存在は唯一会社に出勤する動機になりつつあったのだ。
あの日、もっと彼女の人となりを知りたくて晩御飯を誘おうかと勇気を振り絞るつもりだったのだ。
バスの座席に根を伸ばす自分の足が恨めしい。もっとも、この姿で彼女に逢ったところで通報されて終わりだろうが。
しかしチキンでも光太郎は諦めない。「何か方法がある筈だ」「せめて想いだけでも伝えられないものか」梅雨の合間に顔を出した太陽の光を身体に浴びながら葉緑素をフル回転させて光太郎は考え続ける。
右腕の枝にはいつの間にか、つがいの鳩が羽根を休めているのだった。
ここまで読んで頂き本当にありがとうございましたm(__)m