~未改稿~
須賀官房長官が総理を呼びに応接室を出ていったので、光太郎は一郎に
「師匠、私はまだここに居ないとダメでしょうか?」と暗に、おうちに帰りたいのですが、と訴えてみたりする。
「これからが本番なんじゃ。すまんがもう少し、辛抱してくれんかのう?」
「おぬしの事も紹介するからの。そしたら想い人に早めに会えるかも知れんの。」
一郎は羊羹を摘まみながら光太郎に言った。
光太郎にとっては官房長官というテレビのニュースでしか見ない、別世界の人に出会っているのだ。さらにこれから総理大臣が来る!
「師匠、ちょっとお腹が痛いんだけど。」種子の姿にも関わらず、光太郎は気持ち的にお腹がどこにあるかわからないにも関わらず、一郎に弱音を吐く。
小市民の光太郎は、もはや羊羹かプリンどころではない。途中退場したくてしょうがなかった。
「我慢せい。総理大臣とやらに会ったら早めにお前さんを紹介して、想い人に会える様にお願いしてやるからのう。」
目の前にニンジンをぶら下げられた馬の気分で光太郎は項垂れて、コロコロと机の上で転がるしかなかった。
光太郎と一郎が念話でそんなやり取りをしているうちに、ドアがノックされ、最初にSPと思われる二人が一郎に会釈しながら室内を確認した後、部屋の角に移動した。
一郎がドアの方を見ると、50代半ばで精悍とした感じの、がっしりとした体格を持つスーツ姿の男性が早足で室内に入ってきて一郎の向かいに立ち、さっとお辞儀をした。
「初めまして、総理大臣の日向と申します。遠いところ、よくいらっしゃいました。」
と笑顔で挨拶した。
「久島一郎と言う屋久島のしがない古木の爺じゃ。突然来て迷惑をかけるの。」と応じた。
「二郎です。すまんですじゃ。」
「三郎です。羊羹なかなか美味じゃったぞ。」三郎さんちょっとそれは・・・と光太郎は思わず突っ込みを入れそうになった。
「それと、彼ですじゃ。」一郎は机の上に転がる種子を摘まむと日向に差し出す。
「?はぁ。」日向が訝しげに受けとると、
「お、お初にお目にかかりましゅ。石野光太郎と申します。33才、営業担当でしゅ。」
日向の頭の中に突然かみまくった若い男性の声が響く。
日向はワッと驚いて掌に転がる種子を両手ですくうように顔の前に持ち上げる。
「久島さん、彼は?!」日向が尋ねると、
「この前植人になった人間じゃ。ここに来る途中に出会ってな。初めての都の案内をしてもらったのじゃ、それと、想い人に逢いたがっておるようじゃしの。」
「は、はいっ、わた、私はあの、彼女に会いたい為に師匠っ、一郎さんにここまで連れて来てもらったのです。」
日向はどもりながらいっぱいいっぱいな感じで''喋る''小さいドングリのような実をまじまじと見つめた。
「総理、後で彼の願いを叶えてやってくれんかの?」
「承りました。確かに。」
日向は光太郎種子を大事に持ちながら、一緒に室内に入ってきた須賀に手渡した。
「光太郎君だ。久島さん達をここまで連れて来てくれた。後で話を聴いてやってくれ。」
須賀は日向から受け取ったドングリをまじまじと見つめて、
「確かに。畏まりました。」
と返事をした。
「官房長官の須賀から話を聞きましたが、まさかこのような事とは。驚きですな。」
日向が須賀に話しかける。
「''植人''は強い意思や想い、執着心の強い人間が樹木に生まれ変わったものじゃ。彼、光太郎は彼女に会いたいと強く願っていたのじゃろ。」
「じゃが樹木となって誰とも接触しない状態じゃとやがて意識が薄れ、しまいには普通の木になってしまうの。」久島は答えるのだった。
「それでお話とはこの植人、と言うのですか、彼らに関する事ですな。」日向が尋ねる。
「察しが早くて助かるわい。そうじゃ、この国にいる植人の世 話を儂らにさせて欲しいんじゃ。」久島一郎は日向に申し入れるのだった。
「植人となっても我が国の国民であることに変わりはありません。どうかよろしくお願いします。」日向は久島達に頭を下げるのだった。
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