9:覚醒
ちょっとグロいです。
私は、一目見てこの熊には敵わないと思った。
衝撃波だけで木を破壊したところをみて、確信した。
だから、猫ちゃんを助けたらすぐに逃げようと思っていたのに。
逃げ道が塞がれるってどういうこと!?
正直に言って、奴には勝てる気がしない。
どうすればいい?私にはペンダントがあるから、負けることはないだろう。でも、勝てない。それではダメだ。猫ちゃんを助けられない。
どうするんだ。このままでは猫ちゃんが殺されてしまう。
・・・いや、ちょっと待て。何かあったはずだ。ええっと、んーっと。
あ!そうだ!さっき熊が通ってきた道があるじゃん!
なぎ倒された木や、熊の体重によってへこんだ大地が逃げるのを妨げているけど 、一応道にはなっている。無いよりは、ましだ。
でも、今は熊が立ち塞がっている。
まずはコイツを退かさないといけない。
私は、猫ちゃんをしっかり抱き締めると、手頃な石を掴んで、熊に投げた。
それと同時に熊にレイピアを向けて、威嚇した。
熊は私の意図した通りに動かせたが、飛んできた石を片手でキャッチすると、握り潰して、ニヤリと笑ってきた。
そう、明らかにこちらを向いて笑ったのだ。
・・・腹立つわぁ。
っていうかコイツ絶対に知能高いよね?そうだよね?
仕留めたら熊鍋にしてやる・・・!
すると、熊がわざとらしく咆哮をあげて、こちらに近づいてきた。
ここが正念場だ。ペンダントの守護魔法は私の危機にしか反応しない。一歩間違えれば、私の腕の中で猫ちゃんが死ぬことになる。
緊張で足が震え、冷や汗が頬を伝う。
熊が前肢を私の頭に振るった。
私はギリギリで避けて、熊の脇をレイピアで切りつけながら駆けた。
剛毛のせいで熊には傷1つつかなかったが、多少のダメージは与えたらしく、熊の動きが一瞬止まる。私は、その隙に肩に掛けていた弓矢を茂みの向こうに投げ捨てて、熊が作った道を、全力で逃げた。
猫ちゃんを片手で抱えながら走るのは凄く大変だ。それに、そこらじゅうにある穴ボコやら木の破片に足をとられて、どうしても速度が落ちてしまう。
それでも結構な速さで走っているが、熊はもっと速かった。無駄に図体がデカイから一歩いっぽが大きい。それに、足を4本も使っている(当たり前だけど)。圧倒的に私が不利だ。いくら並外れた身体能力がある私でも、逃げ切れない。
案の定、熊が着実に近づいていた。私の息も切れ始めている。精一杯足を動かしたが、速度は上がらない。
もう、熊の前肢が届く距離だ。私は覚悟を決めると、グッと歯をくいしばって、天然のクッションである私の胸に猫ちゃんを押し当てた。
その瞬間、青く眩い光りが私の胸元から放たれた。それと同時に、足が地面から離れ、すさまじい速さで吹き飛ばされた。
ペンダントは、直接的な攻撃を防ぐ事はできるが、衝撃などの付属的な攻撃や、毒といった物質に対する防御はあまりない。そのかわりに、魔法攻撃はどんなものでも全て絶対に防ぐ事ができるので、よく分からない(つまり、魔法による『吹き飛ばし』には反応するのだ)。
そして、猫ちゃんを抱えているが為に受け身が取れない私は、なすすべもなく周辺の木に叩きつけられた。
一瞬息が詰まり、身体中の力が抜ける。その拍子に、猫ちゃんは私の胸のバウンドで近くの茂みの中に落ちてしまった。
でも、そのお陰でうまく隠れられている。
私は自分を叱咤して起き上がると、立ち止まった熊の方を向いて、また、腰のレイピアを引き抜いた。
シュッと剣が空気を切り裂く音が響くのと同時に、熊が唸り声をあげる。
逃げ切れないなら、戦うしかない。
私は駆け出した。
音も立てないほど軽やかに、しかし、力強く。
最初は熊の死角を狙う。
近くにあった木を利用して、熊の攻撃も届かないほど高く、飛ぶ。
景色がぐるぐると回り、色がぐちゃぐちゃと混ざった。
それでも、茶色い塊になった熊からは目を外さない。
スタッと着地をしても、熊は攻撃をしてこなかった。
否、できなかったが正しいか。
私は、わざと太陽のある方向に跳んで目眩ましを狙ったのだ。
まんまと罠にはまった熊は、何がなんだか分からないようで、ただひたすらに腕を振り回し始めた。
このくらいなら、避けられる。
スッと間を詰めて、熊の背後から斬りつけた。
今度は両手で持ち全体重をかけたので、この剛毛でも傷つける事ができるだろう。
しかし、その考えは甘かった。
この熊は魔物だ。しかも、Sランクに相当するだろう。つまり、知能が非常に高いのだ。
レイピアが熊に触れる直前に、目に追えないほどの速さで前肢が動き、私の目の前でレイピアが粉々に砕かれた。
最初から熊は目が眩んでなどいなかった。
そう、嵌められたのは私の方だったのだ。
驚きと恐怖のあまり硬直した一瞬の隙をついて、熊は鋭い爪がついた手で私を殴った。
その時、青く眩い光りが私の胸元から放たれ・・・なかった。私の胸元にあったはずのペンダントが、無くなっていた。
え、うそ。
私が吹っ飛んだ時に外れてしまったのだ、と気づいた時には、既に熊の大きな爪が私の脇腹を抉った後だった。
私は、抉られたそのままの勢いで地面に倒れこんだ。
脇腹を、とても熱く感じた。
地面と手が赤黒く染まっていて、鉄の匂いと生暖かい内臓の感触で、怪我をしたのだと理解した。
急に激しい痛みが襲ってきて、叫び声をあげようとした。が、口から出たのはゴポッという音と、血の固まりだった。
今まで経験したことのない痛みに、気絶したくなる。でも、ここで倒れたら猫ちゃんを助けられなくなる。
いや、それどころじゃないだろ。
脂汗をかいているが、どんどんと体温が下がってきた。震える体力も、もうない。
『猫ちゃんなんて、見捨てればよかったのに』
そんな後悔がふと浮かんできたが、頭を振って消し去った。
そんなの、今更だ。助けなかったら、それだって絶対に後悔する。でも。
・・・こんなに呆気なく死んでしまうの?
折角、せっかく素敵な人達に出逢って、前世で得ることのできなかった愛情を知って。
これから、いろんな事がしたかったのにっ!
まだ、バルドさんやミレディさんに恩返しもしてない。
嫌だ。もう、死ぬのは嫌だ。
こんなに悲しくて、苦しい死にかたは嫌だ。
熊が嘲り笑ってこちらに近づいてくる。
こんな奴に殺されるのなんて、ゴメンだ。
強い怒りと共に、熱いものが身体の奥深くから沸き上がってきた。
絶対に生きてやる。
いつの間にか、傷が塞がっていた。
無くなった血の代わりに、別の何かが身体中を巡っていた。
この感覚は・・・そう、魔力だ。
突然の出来事に驚いている熊の前で、何事も無かったかのように立ち上がった。
力がみなぎっている。
今なら、大岩も簡単に持ち上げられそうだ。
熊の動きも凄く遅くて、スローモーションを見ているようだ。動体視力も上がってるのかな?
今度は、私の番だ!
私は、先程の熊と同じように牙を剥いて笑った。
***************
僕を抱えた女の人はとても強かった。
でも、アイツには敵わなかった。
僕は吹き飛ばされた勢いで茂みに落ちて、隠れることができたが、女の人はとても痛そうだった。
アイツが女の人を殴って、女の人は傷ついてしまった。
ははうえが殺されたときのことを思い出した。
地面が赤く染まって、冷たくなる体。
僕は悲しくて悔しくて、仕方がなかった。
どうして僕や周りの皆が傷つかなければならないんだ。もし、神様がいるのなら、どうしてこんな理不尽が許されるんだ!
そう思ったとき、女の人から凄まじい濃さの魔力が溢れでた。
僕や熊が驚いてる目の前で、一瞬にして傷が塞がって、女の人は立ち上がった。
僕は女の人の雰囲気に既視感を覚えた。
以前に一度だけ会ったことのある孤高の存在。
何者も通さない硬い鱗に、鋭い爪と牙。
体に炎を宿した、あらゆる生き物の王者。
『ドラゴン』
見かけは人なのに、存在感がかの生き物と同じだった。
いや、少し見かけが変わっている。目が金色に染まって、爬虫類のように瞳孔が開いている。
突然の出来事に警戒した熊は、先制攻撃をした。
先程とは比べものにならないほどの速さだった。
でも、女の人はもっと速かった。
まるで、こんなのが攻撃?とでも言っているかのような余裕の表情で熊を受け止めると、突撃してきた勢いのまま後ろへ放り投げた。
後ろにあった木々は熊に潰され、軽くクレーターができている。
目を回して呻いている熊は、近づいてきた女の人に、怯えた顔をした。
「今までの分の、お返しだよ」
そう言った女の人は、近くの大きな折れた木を手にした。
そして。
「さようなら」
それは熊の胸を貫いた。
大きく目を見開いた熊は、暫く痙攣していたが、やがて動かなくなった。
女の人は、熊が死んだのを確認すると、安心したような顔をして、倒れてしまった。
僕は急いで女の人のそばに行く。
一生懸命に女の人の顔を舐めながら、この人についていこう、と心に決めた。
木漏れ日が、優しく僕らを照らしていた。
遅くなって
大変
申し訳ありませんでした・・・orz
お詫びに少しだけ字数を多くしました。
そして、次回も遅れる予定です・・・。
テストがあったり、なんだりで忙しいのです。
こんな私ですが、今後ともよろしくお願いいたしますm(._.)m




