隠蔽されている真実
[パティとサックスのお悩み相談室]
『Mさんからの相談』
最初は周りの目を気にして行動を起こしていたのですが、いつの日か気にしなくなりました。友人はいいんじゃないの、と楽観的に考えているようですが、別の友人は気にした方がいいと怖い顔をされました。俺はどちらを信じるべきでしょうか。
『アンサー』
気にして行動するべきなのは、相手が不愉快だと思わせないことであると思います。おそらくは、前者の友人はあまり不愉快ではないと考えを持っており、逆に、後者の友人は不愉快だと思っていたのでしょう。後者の友人の言葉が気になるようでしたら、本人に理由を訊くのも悪くはないはずです。ただ、その理由を訊ねても、不愉快になるようだと感じられましたら「ごめん」と素直に謝罪するがベストです。そして、その友人の前では気にしているふりをしたらいいでしょう。嘘をつくのは良くないことですが、優しい嘘という存在もあることは忘れていけませんよ。
できることならば、その友人に本当の自分が受け入れられたらいいですね。
誰かに呼ばれた気がした。だからこそ、あまり気分の良い目覚めではなかった。そして、瞼を開ければ、もっと気分の悪い目覚めだと確信する。
「アーク! よかった!」
いの一番に、ジョクラトルの顔が飛び込んできたからだ。野郎の面を目覚めて見るのは気持ちのいいものではないな、と上体を起こす。どうやら、自分――アークはベッドの上で眠っていたようだ。しかしながら、自身の記憶と現状が一致しないのは気のせいなのか。気になる、だからこそ、「昨日、俺は何をしていたんだ?」と確認をしてみた。
「長い夢を見ていたかもしれん」
それよりも、ジョクラトルの発言である「よかった」というのはどういう意味なのか。目覚め前の記憶がはっきりしなくて、あれが夢なのか。それとも、現実なのかがよくわからないのだ。
アークのこの疑問にジョクラトルが「昨日?」と片眉を上げた。
「昨日も何も……お前、ずっとレグルス宰相の魔法エネルギーの結晶に閉じ込められていたじゃねぇか」
どこかへと連絡を入れているのか、ジョクラトルはIDSHAREを弄りながらそう答えた。これではっきりとした。夢だとばかり思っていたものが、実は現実だということに。そうだとするならば――。
「あの女もだったよな?」
確か、記憶にはある。ルーメン民族の女が魔法エネルギーの結晶に閉じ込められている姿を目撃したのだから。その隙のせいで、自分自身も閉じ込められてしまったのだから。
「というか、ここはどこだ? まだインペリウム帝国の中?」
「いや、ここはグローリアだ。それも、〈インシグネ・ゲネリス〉。前に滞在していたところな。覚えているだろ」
どうやら、自分たちは無事にグローリアに戻ってこられたらしい。あの絶望とも言える状況の中、よくも脱出できたものだと感心する。
「やっぱり、あんたは強いと言えるな。だから、俺ともう一度本気で――」
「俺たちがグローリアの地に足を踏み入れることができたのは、俺の力じゃない。この国の将軍のおかげだよ」
状況把握ができないのは無理もあるまい。ジョクラトルは視線を窓へと移すと「カーリーはまだインペリウムの中だ」と答えた。
「カーリーもお前も結晶の中に閉じ込められた状態では、俺たちに為す術がなかった。唯一の手段が逃げることだった。その道中でスンムス将軍が条件付きでグローリアに招き入れてくれたんだ」
自分たちを邪険に扱っていたやつらはいない、今のグローリア連邦共和国には居心地は良くも悪くもない。ジョクラトルはそう皮肉りながらも、グローリアへと戻れるまでの経緯をアークに話すのだった。
◇
スンムスの誘導により、ジョクラトルたちはインペリウム帝国とグローリア連邦共和国の国境付近にある廃鉱山施設へと合流することとなった。実際にそちらへと足を運んでみれば、彼はお忍びで来た様子で、一人の部下と共にひっそりと待ち侘びた様子でいた。
「会えて嬉しく思う」
初めて見る、グローリア連邦共和国軍のトップに立つ存在。その人物はカリクルスブンやレガトゥスよりも物腰が柔らかい感じであった。だが、それはあくまでも表向きの雰囲気であるということをほとんどの者が気付いていたが――口には出さずして、代表としてジョクラトルが「こちらこそ」と愛想よくした。
「スンムス将軍殿とお会いできて、光栄に思います」
スンムスは自分たちと話をしたいと言っていたが、どんな話をしたいのだろうか。気になるジョクラトルは色々な想像を働かせる。一番思い当たることは、インペリウム皇帝を拘束するということだろうか。もし、そうだとするならば、それはあまりにも不可能な話。無謀な願いだ。
ニコニコ笑顔を作るジョクラトルに「あまり堅くはならないで、まずはパクス同盟軍とインペリウム帝国の現状を聞いて欲しい」と言われ、誰もが頷いた。
「先導役として、戦闘飛行機を墜とされたはずの君たちが生きていて本当によかったと思っている」
「ああ、この国の空を自由に行き来できると勘違いしたやつのせいで、あたしたちは死にかけたけどな」
裏表を気にしないソナがそう皮肉る。これにジョクラトルが制止を掛けようとするが、ドミナが「本当のことよ」と彼女に賛同するものだから、彼の立場としては冷や汗握る発言だとも言えた。しかしながら、スンムスは「彼女たちの言う通りだな」と反論する気はないらしい。
「パクス同盟軍におけるすべての作戦はカリクルスブン中将が考えたこと。それは、すなわち彼の上司である私の責任でもあるということだ」
「だったら――」
「そのことについては、また後日に話を聞かせてもらうつもりだ。今は有事。私はカリクルスブン中将のような真似はしないと約束する。だから、教えて欲しいことがある」
「それは何でしょう?」
カリクルスブンのような真似はしない。この言葉からして、彼のような事柄をスンムスがやりたがっているということは窺える。ただ、カリクルスブンのような手荒な真似はする気がないということだろう。何となく、答えがわかりきった面持ちでスンムスを見た。
「おそらく、君たちの中で誰かは知っているはずだ。彼が考えた人を生命エネルギーの結晶へと返還できる魔術工学の機械のことを」
「俺は知りませんね」
「いや、知っているはずだ。知った上で、インペリウム人をグローリアから逃がしたのだろう」
これは腹の探り合いだろうか。ジョクラトルはドミナの方を見た。彼女はカリクルスブンと多く関わっていることがあったから。しかし、彼女は何も発言することなく、じっとスンムスを見つめていた。それは何もドミナだけではない。誰もがスンムスという人物をよく知らないからこその、この場で情報を集めようとしているに過ぎない。
「……仮に、私が知ったとして、その機械を将軍殿は何にお使いにされるのでしょうか」
「全軍の者たちからほんの少しばかり収集して、合わせた物をインペリウムにぶつけたいと考えている」
「…………」
「君たちが私を疑うのも無理はない。だが、最初に言ったはずだ。私はカリクルスブン中将のような真似はしないと。二の舞にはならないと。人の犠牲なしに世界平和にならないことは軍人である誰もが知っている。だが、その犠牲を分散するならば? 一人の犠牲ではなく、多くの者の小さな犠牲を集めた物ならば? まだ敗北だと決まったわけでも、勝利が見えているというわけでもない。であるが、可能性ならば、まだあるはずだ。私はそちらに賭けたいと思っている」
スンムスは嘘を言っているようには見えなかった。だからこそ、ジョクラトルはドミナに視線を向けた。これに彼女は気付いたようで「その機械ならば、中将の執務室にあります」と答えた。
「中将は極秘であたしの監修のもと、製作に取り組んでいました」
ドミナのその言葉にスンムスは目を丸くした。その表情からして、本当の話であるかが疑わしいとでも言いたげ。この顔にルナが「そうなの?」と疑問を口に出してみるも、彼女が「ええ」と確かな情報を伝える。
「ただし、執務室と言っても、もう一つの執務室と言った方がいいかしら」
もう一つの執務室? それもカリクルスブンのである。これをスンムスもジョクラトルも知らないでいるようだ。二人して互いに顔を見合わせていたようだから。
「それは初めて聞いたぞ。あるのか?」
「もちろんよ。言ったじゃない。極秘で製作していたって」
「できたら、その場所を教えてもらいたい。それと……」
もう一つ、とスンムスが「受け入れたインペリウム人について」とザインの方を見た。
「その人物とも話をしたい。だが、彼ではないはずだよな? 元々、カリクルスブン中将が狙っていたインペリウム人とは」
「アークのことだったら……」
とても言いにくそうに、ジョクラトルは魔法エネルギーの結晶に閉じ込められたアークを安置した場所を案内した。その姿を見て、スンムスはずっと驚愕をしているようだ。彼の感嘆にジョクラトルが「レグルス宰相にしてやられました」と帝都内で遭った出来事を話した。
「彼一人だけでも、アークと同等……もしかしすると、それ以上の魔法エネルギー放出量があるはずでしょう」
「道理でこちらの考えが通らないわけだ。ところで、彼の戻し方はわかるのかね?」
「わかりません」
このことに悩ましそうな顔を見せるジョクラトルであったが、何かを思い出したかのようにクオンがドミナに「機械の名前、確か……〈オプファー〉って言うよね?」と訊いた。
「その元となった資料って、どこから手に入れたのか知ってる?」
「わからないわ。ただ、中将があたしに〈レーベン〉っていう魔術工学機器の設計概念図を持ってきたのよ。あたしはそれにできるだけ似せて完成させただけど……」
「現実ではありえない機械の設計図があったという時点で、考えるならばだよ」
クオンが言いたそうにしていることにジョクラトルが「嘘だろ」と表情を引きつらせた。
「中将は〈Suvi〉の資料を持っていたというのか?」
「じゃなきゃ、今頃のインペリウムもグローリアも……どこの国でも罪人の命は生命エネルギーの塊に変えられてしまっているさ」
「だったら、そこら辺も調べないと。それと、リビティウムさんも探さないとな」
リビティウムさん? ジョクラトルの言葉に誰もが首を傾げるが、ザインが「あの態度の悪い女か」とアドのことに気付いた様子。
「あの人も何か知っているのか?」
「おそらくはな。ミレル君たちから聞いたんだ。リビティウムさんは軍のサーバーだとか何かに侵入したからその容疑で指名手配されているって。もしかしたらっていう憶測かもしれないけど、カリクルスブン中将が隠した資料も知っているかもしれない」
ジョクラトルはスンムスの方を見て「軍で使用する電子機器は共用ネットワークでしたよね」と確認するように訊いた。
「何かしらの不正が行われないように、他からのユーザーが閲覧できないように、ファイルの保存先も何もかもが共用ネットワークに保管されているですよね。ただ、パスワードなどが設定されている場合は、設定した本人から了承を得てそのファイルに入ることができる」
「ああ。登録されていないIDは即座に撥ねるからな」
それならば、カリクルスブンが極秘に扱っていた魔術工学機器〈オプファー〉に関する資料は共用ネットワークのどこかにあるかもしれないし、彼が〈Suvi〉の資料をどこで手に入れたのかもしれないというヒントがあるのかもしれない。その “かもしれない” という憶測でしか突き止められないが、これに縋るしかないのだ。
これで決まった。自分たちがするべきことが。一応は帰る居場所が。ジョクラトルたちはこうして、チャンスを与えてくれたスンムスに感謝しつつ、グローリア連邦共和国へと帰還することができたのであった。
◇
グローリアへと戻れた経緯を聞いたアークは「それで、どうにかしたってか」とジョクラトルと同じように窓を見た。今の時間帯からして、昼頃だろう。とても綺麗な空がそこに見えていたから。
簡単に話を締めようとするアークにジョクラトルは「これでもかなり苦労したんだぞ」と苦笑いをする。
「〈Suvi〉とのコンタクトを取るのに、手始めにリビティウムさんを探さないとできなかったし。〈遺跡協会〉の人たちが〈Suvi〉の返却を求めて来たし」
「〈Suvi〉とのコンタクト? あのポンコツども以下のポンコツから何を聞けるというんだ?」
なんてポンコツたちを小バカにしたような面持ちでいると、軽く自身の頭に何かが当たった。どうやら、本物のポンコツどもがどこか怒り気味に《失礼ですね》と体当たりをしてきた様子。
《そろそろ、僕たちの名前を言っていただけません? 覚えてはいるでしょうに》
《そうですよ。心配しなくても大体何とかなっているアークを、わたくしたちは心配していたのですから》
どうやら、アークの死角にいたらしい。話し掛けようにも、ジョクラトルの説明が先だと我慢はしていたらしく――それでも、その我慢は限界が来たらしい。彼らも口を挟みたくなったとか。
《どの道、アークが結晶に閉じ込められて二年半も経っているのです。あなたが目覚めるまでの長い道のりを話したところで、何も問題はないでしょう。元より、現状把握が必要でしょうし》
《いえ、サックス。アークには情報を小分けしてあげた方が、理解が早いかと》
「確かにそうだな」
ポンコツたちの言い分に納得したジョクラトルは「二人に任せるよ」と部屋を出ていこうとする。
「俺も一年間だけ知らないことがあったりもするし、きっと他の誰よりもパティとサックスの方が詳しく知っていると思う」
そう言うと、どうも仕事が溜まっているらしい。ジョクラトルは部屋を後にした。これに付け加えるようにして、ポンコツ二号が《これでも、ジョクラトルはお忙しいのですよ》と言う。
《なんせ、ジョクラトルはグローリア連邦共和国軍の将校となられたのですから》
「そうなの?」
《将官クラスの執務室へと自由に出入りできるのがその階級かららしいので。それに、名目上掃除をするということでしかカリクルスブン中将の部屋には用がないですし》
「ああ、あの人死んだんだっけ?」
《そうです。スンムス将軍殿が出入りを自由にさせるために、特例でなられたようですよ》
アークは「ほお」と声を上げると、ベッドに身を任せて「じゃあ」とポンコツたちの方を見た。
「これまでのことをあいつよりも詳しく教えてもらおうじゃねぇの?」
《もちろんですとも》
二機は目玉の光をカチカチと点灯させると、最初にポンコツ二号が《わたくしから》と言うと、情報記録キーを取り出して、自身のボディに装填させると、話をし始めるのであった。
◇
ジョクラトルの指示により、シーフェとアクア、サックスはアドを探しにデア神殿へとやって来た。フィデスの反応がここにあるらしく、彼女の居場所はすぐに突き止めることができたのである。
《二度目の来訪ですね》
サックスがほんの少しばかり懐かしそうにする。その口ぶりにアクアは「そうなんですか?」とどこか怯え気味。彼女と自分が体験した〈OPERATOR〉は違うとわかっていながらも、まだ少しのトラウマがあるらしい。最初は一緒に行くことをためらった。だが、インペリウム帝国と他国の間はかなり緊張感状態となっている。自分たちに危険が及ばないようにして、すぐにでも敵を感知できる彼らと行くように、とジョクラトルから言われたのである。
そんなアクアの怯えたような質問にサックスは《はい》と敵意のないように目玉の光を点灯させてみた。脈拍が早いから、彼女が緊張しているとわかる。何に緊張しているかも、彼女の過去を知れば、どことなく理解できるのだった。
《ここにはアークとカーリー、パティにミレル殿も一緒でしたので》
「ミレルさんも一緒だったんですね」
《ええ。思えば、ミレル殿にはお世話になりっぱなしでしたね。きちんとしたお礼も言えずして……本当に残念です》
「うん……」
何だか、雰囲気が暗くなりつつある。ここでアクアが自分の出番だろうかと思ったりもしたが、ラクリモサが今はそのときではないと言われているような気がした。だから、「シーフェさん」と本来の目的のことを思い出すために、シーフェに声を掛ける。
「フィデスはどこにいるか、わかりますか?」
「あ、ああ。はい。フォード、案内してくれ」
自分たちと一緒についてきたフォードがシーフェの言葉通り、フィデスがいる場所へと向かう。アドはフィデスと共に逃げたはずだから、同じ場所にいるのは間違いないだろう。しかしながら、ここは考古学者が管理する場所でもある遺跡だ。誰かしらが、この場所でしばらく滞在したとしても見つかるだろうに。サックスは遺跡内に生命体反応や魔法エネルギー反応がないかどうかも調べたりしてみた。
一方でフォードは一切の迷いなく、自分たちをフィデスの居場所へと案内してくれている。行き先は遺跡内のずっとずっと奥。道中に見つけたフロースの花は素通り。
やがて、フォードは行き止まりである壁の前までやって来た。もしかして、ここに隠し通路や扉が? ここは自分にお任せあれ、とサックスが調べてみると――。
《二つの魔法エネルギーを感知しました。それも、グローリアの者です》
「きっと、フィデスとリビティウム先生のだ」
デア神殿にいるのは間違いないと、シーフェは壁に触れてみた。アドたちはどのようにして、この壁の向こう側へと向かったのか。気になるアクアもラクリモサを召喚して隠し扉を探してもらうと――。
「おわっ!?」
細かいところまで気を付けていないとわからなかった小さな扉の奥へと足を踏み入れて見れば、そこには――。
「フィデス、リビティウム先生」
こちらを見て、目を大きく見開かせたアドが。そして、その傍らにはフィデスもいた。ただ、彼の場合は魔法エネルギー切れに近いと言った方が正しいだろう。ほんの少しだけ弱々しい動きを見せた後、床に寝そべってしまったのである。
シーフェたちの登場に、アドは「えっ?」と混乱はしている様子。
「もしかして……軍の? にしては、若過ぎるよね?」
「一応、俺たちはグローリア連邦共和国軍であることには間違いないです」
「嘘っ。じゃあ、あたしを逮捕しに!?」
それだけは勘弁だとして、動かないフィデスを盾にし始める。この言行にサックスは《顔見知りではないのですか?》と不審そうにしていた。
《パティの話では、シーフェ殿とミレル殿がフィデスに指示を出されたのですよね? リビティウム殿を助けろ、と》
「そうだけど……あっ。俺、先生とはそんなに顔を合わせたことなかったのが原因かもしれない……」
「ん~? あたしを逮捕しに来たわけじゃない? ていうか、君――どこかで会ったことある? なんか、リーキタス君に似てない?」
「ミレルのことだったら、俺と従兄弟同士ですよ」
従兄弟同士と聞いて、アドは何かを思い出したのか「あぁ~」と声を上げた。そして、ようやくこちらに対しての警戒を解いてくれたかと思えば――。
「誰だっけ?」
「俺、先生にリーキタス二号君ってあだ名をつけられたんですが」
「冗談だよ。覚えているよ、リーキタス二号君。あれ? じゃあ、そっちの女の子は? あたし、会ったことあるっけ?」
「い、いえ、私は……初めまして、アクア・ヴィテと言います」
「あ~、うん。よろしくね。そんで、君らが助けに来たってことは……」
本当に冗談だったのかは甚だあやしいが、そこばかりを突っ込んでも仕方ないため「先生の力が必要なんです」と本題へと入る。その傍ら、アクアもどこか不安そうな表情でアドを見ていた。
「ミレルが言っていた、軍のサーバーへの不正アクセスで得た情報を教えて欲しいんです」
「情報を? 何? リーキタス一号君はグローリアの連中にでも捕まってるの?」
「いえ、ミレルは……」
本当のことだというのに、口にし辛かった。言うべきだとわかっていても、口ごもる。だが、ここは気持ちの問題があるだろうとサックスが理解してくれていたため《わたくしからご説明しましょう》とこれまでのことを説明するのだった。
それらの話を聞いたアドは「なるほどね」と元同級生の死について悲しむ様子はないようであった。元々がこのような性格だからなのか、それとも別の理由で淡白とした態度でいるのか。そこがわからないが、とにかく、彼女は友人の死を過剰には反応しないようにはしていた。そうしていると、アドは「訊くけど」と二人と二機に目を鋭く光らせる。
「グローリアのやつだとしても、誰の差し金でこっちに来た?」
まだこちらを疑ってはいる様子。もちろん、シーフェたちにとって嘘をつく意味がないため、「ゲヌスさんの指示です」と答えはした。しかし、アドは「本当に?」とそう簡単に信じてはくれないらしい。
「もし、そうだとするならば、ゲヌスの旦那とかリーキタス一号君あたりが来て欲しいもんだね」
《ですが、ジョクラトルは〈遺跡協会〉の人たちの対応に忙しいし、ミレル殿は……》
「死んだ。それぐらい知ってる」
そちらもであるが、と「〈遺跡協会〉だって?」そう片眉を上げてみせた。この表情にアクアは肩を強張らせる。
「そいつらが旦那に何の用よ」
「〈Suvi〉の返還を求めてるんです。元々、カリクルスブン中将が〈遺跡協会〉から……いや、俺の家からパクった〈遺跡協会〉が……」
「俺の家……ああ、そういうことね」
流石はグローリア民族。察しはとても鋭い。アドは瞬時にして、自分の御用案件を理解把握する。であるが、一つだけ彼らに訊ねたいことがあるから「ねえ」とここには自分たち以外に誰もいないというのに、周りを気にし出した。
「中将って、今何してんの? 普通、〈遺跡協会〉の連中の対応ってゲヌス旦那じゃないよね? 中将だよね? もしかして、失脚でもした?」
失脚ではないのは確かだが、シーフェとアクアは顔を見合わせた。事実を口に出しづらいからである。そう困惑を見せていると、サックスが《亡くなりました》と顕著も見せずに発言をした。この言葉にアドはと言うと――。
「嬉しいね」
人の死でここまで純粋な笑顔を見るのは初めての二人だったが、次のアドの発言ですぐに真顔へと変わった。
「やっと、冤罪で逃げ回らなくてもいい」
「えっ!?」
それはどういうことだ、とアクアは「軍のサーバーに侵入したんですよね?」と小声でサックスに訊ねるも、聞こえていたらしい。アドが「それは濡れ衣だよ」と肩を竦めていた。
「軍のデーターサーバーに不正アクセスなんて、小心者のあたしができるわけない。するなら、中将個人のIDSHAREへハッキングぐらいよ」
アドは大きなため息をつく。
「そもそも、世の中嘘だらけだって見抜けなきゃダメじゃん。なぜに中将が嘘の罪状をでっち上げたのか。それは世間に知られたくない秘密があったから。要はタヴーに触れてしまったってわけ」
そう言いながら、地面に置いている数枚の紙を手に取った。そして、それらをシーフェとアクアに差し出す。
「あたしもそうなんだけど、一番の可哀想なのはリーキタス一号君だよね。彼、本当は優秀な学生だったのに。あまりにも真面目過ぎるから、頭が堅い先生方に落ちこぼれだなんて、レッテルを貼られてしまったし」
「それって……?」
「あれ? 従兄弟なのに、知らないの? リーキタス一号君が落ちこぼれだなんて言われている理由」
「そ、そんなの訊けるわけないじゃないですか……」
そう言うシーフェにアクアも頷いた。それもそうか、とアドは頭を掻いた。
「リーキタス君はね、論文で〈光の論争〉を題材にしたんだけど、その内容の結論が先生たちを怒らせちゃったんだよね」
可哀想だよね、と何度も口にするアド。事実、彼女はどこか憂いに満ちた目で動かないフィデスを見つめているのだった。




