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100年後だけれど、まだ乙女ゲームの真っ最中!?  作者: 鶯埜 餡
ヴィルトゥエル・ベグリッフ

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36/52

『憎むもの』

少しだけ残酷表現が出てきます。

 ヨハネス帝の晩年の真実。

 アンジェリーナは気持ちが重かった。決して彼女の責任ではないが、スベルニアという国の真実を知ってしまうのは後ろめたかった。

 そして、今の彼女には、前世の『相馬奏江』としても、誰かを強く想う、ということはなかった。なので、罪を犯してでも、ミスティア皇妃、いや、ミスティア王女をそれでもなお、望むヨハネス帝の気持ちは理解できていなかった。

 そんな鬱屈とした気持ちで階段を下りていると、正面には光があった。その光を求めてアンジェリーナは駆け出した。幻想のもののはずなのに、質の良いじゅうたんは彼女の足をもつれさせた。

 驚きの声を短く上げてアンジェリーナは前につんのめった。来たる衝撃から身を守れず、階段を転げ落ちるはず(・・)だった。

「――――――――え?」

 やってくるべき衝撃が来ないことに驚き、体勢を整えようとすると、動きが封じられた。

「―――――――――――――――?」

 ようやくここで、誰かのぬくもりに支えられていること気付いた。

「えっと、あの―――――――?」

 そっと顔をあげると、そこには『相馬奏江』にとっては震えるほど嬉しいはずの姿があった。

(ちょ、ちょっと待って、あのフリョ、ユリウス・スフォルツァに抱かれている―――――――――!)

 嬉しすぎて身動きが取れずにいると、茶髪の男性はおずおずと声を掛けてきた。

「大丈夫、かな?」

 その声は以前、『彼女』がハマった時の声で、そこからさらに渋みがかかっているのがまた良かった。

「は、は、はい――――!」

 多少声が上ずってしまったことは見逃してほしい。だが、彼はそんな彼女の様子を気に留めることなく起こしてくれた。

「足元を見ておかないと危ないよ、お嬢さん」

 彼はゲームそのものの青い瞳で、アンジェリーナに注意してくれた。



 フリョ・フリュンデ。またの名をユリウス・スフォルツァ。

 アンジェリーナ・コレンスが存在している世界では、悪女、アリア・スフォルツァの異母弟であり、彼女たちが起こした事件によって、リーゼベルツを追放されて、傭兵として各地を放浪した後、トワディアン王国で騎士となり、最終的に騎士団長にまでなった人物。

 彼の優良な武術の血は子孫に受け継がれ、彼の子孫は騎士団長になっており、先代の騎士団長もまた、彼の孫であり、ニコラス・フリュンデは次期騎士団長として目されており、それが原因で、事件に巻き込まれた。

 『シュガトリ』では、前作『ラブデ』で見せていたわんこ系騎士のイメージはなくなっている。スフォルツァ事変により国を追放されており、姉たちへの恨みや自分が止めればこうはならなかった、という後悔が最初はにじみ出ており、ヒロイン・ナターリエも最初は近づくことはできなかった。しかし、彼女もフリョも宰相暗殺事件を追う王太子を手伝ううちに、次第に距離が近づいていったのである。最終的に、自らの過去を知っているラスボスとの戦いの後、ヒロインと結ばれるか否かは決まってくるのだが、『相馬奏江』としてはヒロインが女騎士となるルートが好きだった。


 その彼が、今ここにいる。だが、なぜかアンジェリーナは過去の記憶以上にときめくことはなかった。

「君は表情が良く変わるな」

 ユリウスはアンジェリーナの頭をなでた。

「いつかの彼女を見ているようだ」

 ユリウスは目を閉じて懐かしそうに言った。『彼女』とは、『本編』主人公(ベアトリーチェ)のことだろうか、それとも『続編』主人公(ナターリエ)のことだろうか。

「そんな君を試さなきゃいけないんなんて、この塔はどうにかしている」

 ユリウスはため息をつきながら、アンジェリーナの手を離した。そして、無表情になり、おもむろに彼女の首に手を当て、力を加えれば簡単に彼女の首を締められるような格好にした。アンジェリーナはその冷酷な彼の雰囲気に、だから無駄にときめくことはなかったのか、と理解できた。


『この身に宿りし災厄、怨恨を燃やすために必要な触媒とは何か』


 アンジェリーナはユリウスの問いかけが理解できなかった。

 カルロス王・ヨハネス帝の時は、彼ら自身のことだということに思い当たらねばならなかったので、そこで引っかかるところであったが、すでにユリウスの場合は自分のことだと言っている。だが、彼に降りかかった災厄。

「―――――――――あなたはスフォルツァ姉妹・そして叔母のせいでリーゼベルツを追放された」

 史実通りであれば、そうなる。

「だけれど、何かピースが足りない」

 そう。本当の歴史ならば、すでにその三人は処刑されている。だが、一人だけ、そうではない人物がいる。じりじりと加えられる力にアンジェリーナは、考えることによって痛みを逃がした。

「――――――――――ミスティア王女」

 彼女は叔母・フレデリカの娘ながら、処刑されなかった。そればかりかヨハネス帝の強引な外交により皇妃として迎え入れられている。それがたとえ彼でなくても反発しただろう。

 なんで、自分は追放されるのに、彼女は迎え入れられるのか。しかも、それが正しい行いをしている者であれば、まだその気持ちは薄らいだものの、ミスティア王女は黒に近いグレーだ。本当のところはなにかしらやっているに違いない、とアンジェリーナは考えているし、ヨハネス帝の言葉からもうかがえる。


「そう、ね―――――――触媒とはこの世のすべて。もっとも、いうなら、スフォルツァ家とリーゼベルツ王家、そして、ヨハネス帝、ね」


 だんだんと強くなる締め付けに意識がもうろうとしているアンジェリーナの解答にユリウスは締め上げていた指を一気に離した。肺に勢いよく空気が入って来たアンジェリーナはせき込んだ。

「すまない。君を傷つけたら、あいつ(・・・)に怒られるな」

 ユリウスは元のわんこ系と言わしめるような表情に戻っていた。

(あいつ―――――?)

 アンジェリーナはぼんやりしていたせいか、それが誰のことであるか分からなかった。

「少しだけ休んでいきなさい」

 彼はアンジェリーナを寝かせた。


「少しだけ昔話をしよう。

 ()はもともと、父親が愛人に産ませた子供だ。僕の存在にいち早く気付いたのはアリアという姉だ。彼女は僕と母親を引き取ることをエレノア夫人に進言した。そうして僕と母親は本邸に移った。その後は姉が活躍しているのを横目で見るしかできなかった。

 でも、僕も少しだけ頑張りたいと思って、無理したら怒られちゃったんだ。でも、僕は後悔していない。それが少しでも姉のためになるなら僕は、命だって投げ出すつもりだったから、ね」

 そう言った彼の表情は晴れやかだった。だが、アンジェリーナにはどこか引っかかる言葉だった。

「ねえ。あなたはベアトリーチェのために動いたんじゃないの?」

 その質問に、ユリウスは低く笑った。

「いや、彼女のためには動く気はなかった。というか、彼女でさえ(・・・・・)姉のために動いたんだから僕が動かないのはおかしいだろう?」

 ユリウスの質問にアンジェリーナは体を起こして、反論しようとした。

「あな、た、何を言っているの?だって、アリア・スフォルツァは――――――」

 だが、ユリウスは笑ったままだ。

「さて、ね?僕は気づいたらベアトリーチェという人と一緒にいたけれど、どこで出会ったかなんて覚えていないよ?それに、姉は処刑されていないよ?」

 その言葉にアンジェリーナは戦慄を覚えた。

(何かが狂ってきている――――――?そうよ、そもそも本当に彼女は処刑されたの――――?)

 偽造(・・)された歴史書。ユリウスの言葉。

 本当のことが分からなくなってきた。そして、心の中でIFの可能性を考えてしまった。

『アリア・スフォルツァが処刑された歴史こそ作り物ではないのか』

 と。

 考えすぎてしまったアンジェリーナはユリウスに指で絞められた時と同じ、もしくはそれ以上に力んでしまったのか、意識がもうろうとなり、その場に倒れこんだ。

「すまないな。だが、事実はいずれ明らかになる。君がそれを明らかにするんだよ」

 ユリウスは消えかかる身体でアンジェリーナを丁寧に整え、指を鳴らした。金色の光が弾ける。

「ニコラス、お前の勝ちだ。早く元の世界へ戻りなさい」

 彼が消え去ったあとには、アンジェリーナが残されていた。

なぜ『シュガトリ』の攻略対象であるフリョとしてではなく『ラブデ』攻略対象であるユリウス表記なのかは、まあ、そんな理由なわけですね、はい。

この会話の真相は…?ということで、続きます。

そして、ゲーム内の彼の出自に気付いていたラスボスとは…??

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