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100年後だけれど、まだ乙女ゲームの真っ最中!?  作者: 鶯埜 餡
アルドルノフ事変、という名の戦争

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野営

 その日は天候も悪くなかったという事もあり、野営するにはある意味良かった。

 最初は、ネックレスやピアスとかの宝石を売って路銀を稼ぐ、という方法も考えたが、加工の方法などによって身元がバレるかもしれない、という懸念があったため、それの方法を採用しなかった。同じく身なりの良い二人が街にある安宿に泊まるとなると、噂が広まるのを恐れた。もし、先ほどの襲撃が二人を狙ったものだとしたならば、と二人で話し合った末諦めた。先ほど立ち寄った馬屋は二人の急を要している雰囲気から、しばらくの間は馬を借りてもいい、と言ってくれので、ありがたくその好意を受け取った。

 そして、今は街はずれの森にある洞窟に身を寄せていた。

 ここに来るまでの道中で、明日の夜明け前に洞窟を出発し、皇都へ向かう、という算段を立てていた。



「キュシー、ここで捌かせてもらうね」

 エミリオは小動物を片手に洞窟まで来た。どうやらこの辺りには野生の動物もいるようで、エミリオがうさぎなどの小動物を即席の罠で仕留めてきたみたいで、護衛用のナイフで内臓や食べられない部分を手早く取り除いていった。

 彼女はその様子を見て、驚いた。

「エミリオは騎士団に在籍してないわよね」

 彼は、アンジェリーナの質問に笑いながら答えた。

「してないさ。でも、昔、色々やらかしたから、多少の事は出来るんだ」

「そう」

 確かに公爵領は王都と比べてかなり自然が豊かでいいところ、と聞く。なので、小さい頃は冒険でもしたのだろう。

「君がまさか野営するって言い出すとは思わなかったよ」

 エミリオの言葉に一瞬、どう返すべきか迷ったが、結局はエミリオと同じように答えることにした。

「ええ。私も色々ありまして、ね」

「そうなんだ」

 アンジェリーナの実家、コレンス侯爵家の領地は王都に近いところだが、アンジェリーナ(・・・・・・)としてはあながち嘘ではない。

 そう、奏江(・・)としてならさんざん経験はある。彼女は学生時代、登山部に所属しており、様々な山に登った事があり、その経験からこのあたりの地形も見ていたのだ。とっさの出来事にアンジェリーナ(侯爵令嬢)としてではなく、彼女が野営する、と言ってしまった時は少し、失敗した、と後悔したが、幸いにも、エミリオがそこで疑問に思ったことをおくびにも出さなかったので、一息つくことができた。

「でも、そのおかげで、襲撃者たちには狙われにくくなったでしょう?」

 アンジェリーナの言葉にエミリオは苦笑いした。


「キュシーはこれから(・・・・)どうしたいの?」

 夕ご飯を済ませ、火の始末を行った後、エミリオから問いかけられた。

「え?」

 アンジェリーナはどういう事かと思った。今、この瞬間からの予定ならばすでに決めてあるではないか。彼女の戸惑いに、エミリオは、

「今ここでの話ではなく、国に帰ってからの話だよ」

 と補足した。

「君は女性ながらも王族付きの秘書官、という立場にいる。だけれど、君自身の能力で今の立場にいるっていう事を本当に理解している人は何人いるのかい?」

 エミリオの指摘にアンジェリーナはぐっと詰まった。

「僕が言うべき事では無いのかもしれないけれど、君の美しさ、そして、次期宰相候補の娘というくだらない(・・・・・)理由で秘書官になったのだと思っている貴族が多いんじゃないかな」

 エミリオはいつもの軽薄さを潜めて忠告した。それに反論する事が出来なかったアンジェリーナだった。

「勝手な願いだけれど、僕は君に幸せな人生を歩んで欲しいって思ってる」

 アンジェリーナはその言葉に困惑した。エミリオは恋人でもなんでもない。そもそも実家同士で見てみると、政敵同士なのだ。彼にそんな言葉を言われる謂れはない。だが、それを突っぱねる気力もない。アンジェリーナはええ、ありがとう、と力なく言った。

「そうね。一度、考えてみようかしら」

 彼女の言葉にエミリオは国に帰るまでにゆっくり考えて、とだけ言って、立ち上がった。

「じゃあ、僕は外を見張っているから、キュシーはしっかりと休んで」

 と言って、外へ行った。

 アンジェリーナはそれがエミリオの気遣いであることにすぐに気付いた。

(そうね、当たっているわね)

 アンジェリーナは1人になった後、目を閉じて考えた。

 アンジェリーナとして生活し始めてからまだ、長い時間は経ってない。だが、"アンジェリーナ•コレンス侯爵令嬢"が何故、秘書官になったか、一番、安全が保証される王妃付きの女官では無く、自ら危険を掴みに行ったのか、解っている(・・・・・)。だが、先ほどの質問は、今のアンジェリーナにはそれを成し遂げる力はあるのか、その覚悟はあるのかとエミリオに突きつけられたものだった。

(まだまだねぇ)

 すっとため息をつき、彼の問いに答えられるように考えたが、うまくまとめられなく、いつのまにか眠ってしまっていた。


 アンジェリーナが目覚めた時には既にエミリオは起きて、朝食の準備をしていた。

「昨日はよく眠れたかな」

 彼はアンジェリーナに串焼きを渡しながら、聞いた。

「ええ。昨日はありがとう」

 エミリオは見張り番をしていたのだから、眠れていないはずだ。しかし、しっかりと睡眠をとったはずのアンジェリーナよりも気分がよさそうなのはなぜだろう、と思いつつも、ありがたく受け取った。

「じゃあ、今日は皇都へ向かおう」

「ええ。その前に一つ聞かせてもらえるかしら」

 アンジェリーナはエミリオの目をしっかりと見た。

「あなたはこの先、どこへ向かうつもりなのですか。皇宮は皇帝陛下も皇太子殿下も出征されています。それなのに皇宮へ向かう意味があるのでしょうか」

 その問いにエミリオは苦笑いをして答えた。

「別に皇宮だけが皇都にあるわけじゃない」

 アンジェリーナはその答えに驚いた。言われてみればそうではないか。

「僕が目指しているのは、ね――――――ゲルッテン伯爵邸だよ」

 あの赤い髪の男――――カールに会いに行く。それが、エミリオの目的だった。

活動報告でもお伝えしましたが、今期の更新よりしばらくの間、毎週木曜10時に更新させていただくことにいたしました。

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