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100年後だけれど、まだ乙女ゲームの真っ最中!?  作者: 鶯埜 餡
アルドルノフ事変、という名の戦争

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アルドルノフ事変

「厄介な人に目をつけられたみたいだね」

 そんな言葉と共にエミリオは楽しそうに笑いながら、戻ってきたアンジェリーナを出迎えた。

「ええ。全く」

 アンジェリーナは玉座の近くでゲオルグに叱られているカールを見ながら答えた。ため息混じりに答えた彼女はそう言った。

 その直後、突然、会場の出入り口付近が騒がしくなった。

 既に皇帝夫妻や皇太子、宗主は会場にいる訳だから、余程の飛び入りゲストが登場しない限りはこんな騒がしくならないだろう、と思ってエミリオと目を合わせた。彼も思い至る事が無いのか、無言で首を横に振った。

 しかし、その原因はすぐに分かった。一人の武装した兵士が会場に駆け込んできたのだ。皇帝が彼の元に近寄って、何事だ、と尋ねた。すると、その兵士は跪き、


「申し上げます。つい先程、南の方角の砦から狼煙が上がったのが確認できました。狼煙の色は赤、リーゼベルツ軍が攻め込んできたという意味を持っておりました」


 と言った。兵士の言葉に会場全体がざわめいた。エミリオも驚いたのか、アンジェリーナの手を握りしめた。

「そうか」

 皇帝はそう呟き、周りを見た。そして、宗主、そして、アンジェリーナたちの方を見た。

「ちょうど、この場に証人もいる」

 皇帝の言葉にアンジェリーナは嫌な予感がよぎった。エミリオも同じ事を考えたのか、より強く手を握りしめた。



「我が国にリーゼベルツの狗どもめが入り込んできよった。奴らの息の根を止めるべく我々は迎え撃つ」



 皇帝は宣戦布告を行った。アンジェリーナはそっと皇帝の背後にいる皇妃を見ると、今にも倒れそうで、女官に支えられている。

 その後は、皇帝と皇太子をはじめとするこの国の高官達は緊急の会議により席を外し、蓮祭りどころではなくなった貴族たちはそれぞれの身の振り方を話し合っていた。女性達も夫や父親から今後どう過ごすか言い渡されていた。宗主はいつの間にか消えており、他国からの客はアンジェリーナたち一行のみとなっていた。

「じゃあ、僕たちも帰りますか」

 エミリオの提案にアンジェリーナは迷いなく頷いた。

 本当は皇妃のそばにいてあげたい、と思ったが、この国が戦時下に置かれることだし、他国の人間である自分ができることはないだろう。それに遅かれ早かれ国から早急の帰国を促されるに違いなかった。


「我々は帰国させていただきます」

 翌日、アンジェリーナたちは皇妃に出立を告げた。朝早く出征した皇帝と皇太子には、昨晩のうちに帰国することを伝えてある。

「そう」

 皇妃は相当なショックだったのだろう、たった一晩というのに、非常にやつれて見える。

「あなたはこれから何をするの?」

 皇妃の問いかけにアンジェリーナは一瞬、驚いた。

「同じ女であっても、非力な私とは違ってあなたは賢いし、力だってある。たとえ役人ではなかったところでもあなたはその頭を使い続けたでしょう。だからこそ問いたいのです。


 あなたはこの先、どうするの」


 皇妃はやつれてはいたものの、かなりしっかりとした口調で尋ねた。その問いに、アンジェリーナははっきりと答えた。

「わかりません」

 彼女の答えに皇妃は何か言いたげだったが、失礼を承知でアンジェリーナはさえぎった。

「今は宰相が暗殺されかけ、こちらの国に迷惑を及ぼしたことに対して動く、すなわち、国のために動いています。ですが、本当に自分がしたいことはまだまだできない立場です。なので、自分の夢をかなえるために上に上がる、それが一番しなければならないことです」

 アンジェリーナの言葉に皇妃は落ち着きを取り戻した。

「しかし、仮にも私は侯爵家の一人娘。いずれは結婚をしなければならない。どちらが早くたどり着けるか、私にはわかりません。なので、私は妃殿下に分からない、と申したのです」

 ミスティア皇妃は少しため息をつき、そうね、と言った。

「私にできることは少ないですが、何かあったら頼ってきなさい、ゲオルグもゲルッテン伯爵もあなたのことはとても気に入っているみたいなのですから」

 皇妃は笑いながら言った。その直後、後ろで舌打ちする音が聞こえたが、前を向いていたアンジェリーナには誰が音をさせたのかまではわからなかった。



 行きがけと同じように、アンジェリーナとエミリオは馬車に乗り込み、ニコラスやロレンソをはじめとした騎士たちが周囲を護衛しながら、行きと同じ道を使い、王国へ戻っていった。

 行きとは異なり、エミリオとともに和気あいあいとした雰囲気だった。

「これが王国までと思うと、残念ね」

 アンジェリーナは心からそう言った。エミリオも全くだ、と残念がった。


 順調にその日は進み、夕暮れに差し掛かった時、あともう少しで宿のある街のはずれだった。

「ねえ、エミリオ」

 アンジェリーナはそっと窓の外をうかがった。エミリオも何かに気付いたみたいで、唇に指をそっとあてた。

 その瞬間。



「――――――――――――――敵襲だ!」

 騎士の誰かの叫び声が聞こえてきた。その直後、剣戟と思われる高い金属音が聞こえてきた。

「お二方ともお逃げください――――」

 アンジェリーナたちの乗っている馬車の扉が乱暴に開かれ、そう言ったのは、ニコラスだった。アンジェリーナとエミリオは顔を見合わせ、頷くと、一目散に馬車から降りた。どうやら襲撃者たちは騎士たちに手間を取られて、二人が下りたことに気付かなかったみたいだ。

「でも、どこへ―――?」

 アンジェリーナは困った。おそらく襲撃者たちはアンジェリーナたちだということを知って狙ったのだろう。そうすれば、王国へ戻る、ということも把握済みだろう。

「一度皇都へ戻ってください。僕たちも追いつきますので」

 ニコラスは即座に答えた。エミリオもうなずいた。

「それが最善だろう」

「はい。馬屋がこの先にありますので、そこまで走っていただければ、なんとかなるはずです」

 ニコラスは、襲撃者たちは僕たちが抑えておきますので、と言って二人を引っ張っていった。

「気を付けて――――」

 アンジェリーナはそういうほかなかった。エミリオもみんな戻ってくるんだよ、と言った。

 ニコラスは何も言わなかったが、はっきりと頷き、襲撃者の方へ向かって行った。


 それから二人は言われた場所に馬屋があったので、そこで馬を貸してもらい、皇都へ戻った。

「でも、この時間からは皇宮へ入れないわ」

 アンジェリーナの問いに、エミリオはそうだな、と答えた。


「今日は野営でもいいわ」

 アンジェリーナはため息をつきながら、そういった。侯爵令嬢としては経験してないが、『奏江』としてならある。もっとも、公爵子息であるエミリオも野営なんてやったことがなく、危険だからやめよう、というかな、とダメ元で提案してみたが、

「そうだね。そうしよう」

 と、二つ返事で答えられ、すんなり決まった。

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