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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
020-金属ナトリウム 全4話
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020-金属ナトリウム 3 <ジオキサンの乾燥-2>


 「さあ、準備は整った..。 けど、こわいなあ。」

 そこで同じ部屋にいた先輩に声を掛けた。

 「今からジオキサンの乾燥と蒸留を行います。…大丈夫っすよね?」

 「ナトリウムによる乾燥かい? まあ、大丈夫だろう。」

先輩は興味のなさそうな声で無責任に答えた。


 500mLの瓶から予備乾燥プレ・ドライジオキサンを少しだけ注ぎ込む。金属ナトリウムの欠片の表面から水素の泡がプクプクと思ったよりも大量に発生する。

 「ダダダ、大丈夫っすよね?」

 「この程度なら大丈夫だろ?」

 泡が出るのは想定内だけど、泡の出方は激しい。残りのジオキサンを2回に分けて注ぐことにした。びくびくしながらジオキサンをフラスコの7分目くらいまで注ぎ入れた。泡の出方は最初の注ぎ込みのときよりも沈静化している。

 「じゃあ、少し放置して、水素の泡が出なくなったら。加熱してみようかな。 先輩! 30分くらいしてから加熱します。」

 「良いんじゃないの?」

実験の現場も見ないで了承の返事をする先輩はお気楽だ。


  ♫ ♫ ♫ ♫ ♫


 ジオキサンをフラスコに入れてから30分儀。山本君は加熱還流のためにオイルバスのスイッチを入れた。いつの間にか先輩はお昼ご飯を食べにいってしまった。

 フラスコの中の金属ナトリウムの表面は白くなっていた。その隙間からぷくぷくとわずかに泡が出ている。


 「まあ、大丈夫そうっすねえ。」

山本君は誰もいない実験室でぼそっとつぶやいた。


 オイルバスの温度は80℃を越えた。スターラーがからからと周り、金属ナトリウムの小片を跳ね飛ばす。その度に少し派手に泡が出るけど、気にするほどではない…のかなぁ。

 「まあ、大丈夫そうっす。」

山本君は自分を納得させるためにそのように呟いた。


 オイルバスの温度が95℃を越えてしばらくした頃、ジオキサンの様子が少し変わった。

 「そろそろジオキサンの沸点(102 ℃)ですかねえ。まだ少し温度が低いと思うんですけど。」

それとほぼ同時にフラスコ内が激しく泡立った。山本は慌ててフラスコに目を移した。フラスコの中のナトリウムが液体状になり、フラスコ壁面が金属光沢で鏡のようになったのが目に映った。

 融点(98 ℃)以上に加熱され液化した金属ナトリウムは撹拌され直系1 mm以下の小さな液滴になり、フラスコ内のジオキサン中のわずかな水分と効率よく反応し、大量の水素ガスとともに吹き上げた。直径1 mmもないナトリウムの小粒が室内に散乱した。


  ♫ ♫ ♫ ♫ ♫


 「うっわ! 熱っち!」

山本の大きな叫び声に隣室の安野が反応した。安野は炭酸消火器を抱えて、隣の部屋に飛び込んだ。

 山本君の白衣の上に小さなオレンジ色の炎が2つ3つ見える。よく見ると、ドラフト周りにいくつもの小さなオレンジ色の炎が見える。

 「息を止めろ。白衣を脱げ。」

安野は怒鳴ると、炭酸消火器で山本君の白衣の火を消した。それから、部屋のあちこちで燃え上がる小さな炎を消して回った。


  ♫ ♫ ♫ ♫ ♫


 その日の午後、山本君は部屋の電気を消して、あっちでポッ、こっちでポッと燃え上がる小さなマッチの炎のようなナトリウムの発火を炭酸消火器で消して回った。


 「何で僕はこんな目に会わなければならないんだろう。」

 「それはね、君がタイパにこだわって、いいかげんなプレ・ドライのジオキサンを使ったからだよ。自業自得だね。」

安野は静かなそれ故に凄みのある声で、山本君と彼を放置した先輩を叱った。


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