閑話-15 安全勉強会-2 <大声>
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「はい。じゃあ次の想定だ。 ボヤでドラフト内の有機溶媒に引火した。真っ黒な煙を上げて炎がドラフトの天井にとどいている。さあ、どうする?」
「先生を呼びにいきます。」
「先生は学会で大阪に出張中だとしよう。さあどうする?」
「…逃げます。」
「オレなら火災報知器のボタンを押します。 オレ、一回押してみたかったんだ♡。」
先生はそのつぶやきを聞いて苦笑した。
「それから?」
「他の部屋の研究室の学生に知らせます。」
「具体的には?」
「603室、学生準備室、604室です。」
「それから?」
「逃げます。」
《冬彦君はそこで逃げ出すんだ。》
「もう逃げちゃうんだ。片山ン(かたやまん)。君はどうする? 」
先生は院生に話しを振る。
「….う〜ん。ボクも逃げるかな?」
「太井先輩! どうする?」
「608室の薬学部の女子学生にも声を掛けます。」
やっと求めていた答え?が返って来た。大学院棟は工学部だけではなく、同じ6階にも薬学部や理学部やあ農学部の研究室が入っている。
《まあ、邪な心が見え隠れしているが、…いい流れだ。》
先生はほくそ笑んだ。
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先生はニマニマしながらセミナーを続けた。
「まあ、黒煙が出ているのなら、逃げ後れると煙に巻かれることもあり得るから、同じ階の住人に避難を促すのは必須だな。でも、どうやって知らせる?」
「そりゃ、各部屋を訪ねて…扉をノックして。。それから「火事ですよ」って…」
「…火事のときにそんな悠長なことじゃダメ難じゃない?」
「でも、小学校の時、『おはしも』ってならったけど。「騒いじゃダメ」って先生に叱られたことがある。」
『おはしも』は小学校で地震や火事の避難時に生徒に守らせるべき事項の標語だ、『押さない』の『お』、『走らない』の『は』、『喋らない』の『し』、そして『戻らない』の『も』で、『おはしも』だ。地方に寄っては『走らない』ではなく『駈けない』で、『おかしも』で教えることもある。だから、小学校の避難訓練では騒いだり、声を出すと先生に叱られる。
さて、これをどのように説明しようか?
「う〜ん。中学校の時、地震が起きたら「地震だ!火を消せ!」と大声を出せと習わなかったかな?」
「確かに、そう習った憶えも…」
「いや? ボクは『黙って机の下に潜れ』って習ったけど…」
この辺りになると、習った内容すら地域によりま逆だ。
《困った。》と先生は呟いた。
「それな。TPO により異なるんだよな。」
「「TPO?」」
「そう。TPO。Time、Place、Occursionだな。時と場合と状況により取るべき行動は異なるんだよ。 小学校では一人の先生が40人以上の生徒を避難誘導するから『ざわつく』と指示が聞こえない、聞いていないこともあるから、生徒を黙らせるのが正しい対応になる。大きな揺れの地震では、『めまい』と思ってしまう人が多いから、『地震だ!』と周りに知らせるんだな。それに、大声を出すと、自分が落ち着くという効果もある。」
「なるほど。」
「だから、状況によって取るべき対応はことなるということですね? でも、今回の想定ではどうするのが正解ですか?」
「わからんなあ。でも、私なら大声で「火事だ。避難!」てどなるな。」
「何か恥ずいなあ。」
「自分の恥ずかしさよりも人の命だろ?」
学生さんたちが少し騒つく。
「去年だったかな、県北で大きな地震があったとき、この辺も震度5で揺れたろう。あの時私は別棟でディスカッションしてたんだよ。」
「あった、あった。すぐに先生が6階まで掛け戻り、飛んで来たんですよね。でも階段を駆け上がった先生の息が切れてて、死にそうになってましたよね(笑)。」
「うるさいなあ、仕方ないだろ。エレベーターを使うわけにはいかないから6階まで走ったんだよ!。 でだな。あの時、私は工学部1号館の廊下を走りながら「地震だ火を消せ、扉を開けろ(脱出路確保)」って怒鳴りながら走ったんだ。 だれも動かなかったし、翌日2階の研究室の教授先生に「先生も塩基やなっ。」て揶揄われたよ。」
その話しを聞いて、が悪政たちはそろって苦笑した。
「先生が大声を揚げたら、うるさかったでしょうね。」
「それで皆、落ち着いちゃった、わけか。」
「で、先生、恥ずかしかった?(笑)」
「我が行動に一辺の悔いもナシ。」
先生は真面目な顔で、でも少し耳を赤くしてそう宣言した。学生はそんな先生の渾身のボケを放置すること無く笑ってあげた。




