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地龍の後悔

二話投稿の二話目です。

「三年ぶりですね、地龍様」 



 ミズチあらため、水龍公子のお披露目の日。

 周辺諸国の王族の、成人した若者を祝う大規模な宴の席で、地龍はナミ姫と再会する。



 姫の顔形が変わった訳ではないし、蛇の尻尾は相変わらず隠されている。

 しかし、心からの笑顔には華があり、思わず見惚れてしまった。

 ……恋をしているからだろうか? 

 久しぶりに会う姫を、地龍は美しいと感じた。


 

「もう三年も経つのか……姫、あの時は本当にすまなかった」


 姫を傷つけたことを、地龍はずっと後悔している。


「三年も前のことですよ? わたしはもう気にしてません。だから、地龍様もお気になさらず。謝罪は、とっくに受け取っています」


 艶やかに笑って、姫はあっさり地龍を許した。

 その水に濡れたような黒髪を飾るのは、真珠と……(水龍)の角。

 

────水龍も蛟の頃、無くした角の代わりに珊瑚をさしていたな……。


 二人の絆を見せつけられた地龍は、無性に昔の自分をぶん殴って地中に埋めたい衝動に駆られ、天を仰いだ。


「そんなに浮かない顔をしないでください。せっかくの祝いの席ですよ? ほら、本日の主役達の登場です」



 姫の言葉通り、光に照らされた花道を、本性をさらした新成人たちが行進する。

 色鮮やかな龍たちが頭上を舞い、整った毛並みの猫や、つんとすました狐、色っぽいトカゲらがねり歩く。


 先頭を切るのは水龍で、こちら──というか姫──にぶんぶん手を振っていて、姫は感慨深そうに手を振りかえしている。

 暖かい空気が二人の間を流れていた。



 曇りのない目で見た姫は、龍の性質に理解があり、包容力のあるしっかりした女性だ。

 妻として、得難えがたい姫だったのだと嫌でも思い知らされる。


「ふふ、懐かしい。わたしの時を思い出します」



 地龍は姫が成人した年に開催された、お披露目の宴を欠席していた。

 その年はたまたま公子の成人がおらず、龍がいないなら顔つなぎの必要はないと考えていたのだ。


 ……どこの国が主催だったのかすら、覚えていないとは……。


 地龍は過去の自分の、視野の狭さに愕然とする。

 あの頃は、切り捨てた中に大切なものがあるなんて思いもしなかった。


 黒歴史に悶えている間にも、儀式は粛々と進んで行く。

 老龍の長ったらしい祝辞が終わると、解放感から一気に場が盛り上がる。


 ……その絶妙なタイミングで、姫に光が当てられた。

 壇上では、人の姿になった水龍が待っている。



「え……なにが起こってますの?」

「主催者権限で用意した舞台だ。各国には事前に話を通してある。────早く行ってやってくれ」


 醜態をさらした地龍を、水龍は見捨てなかった。

 うっかりで潰されかけたのに、一緒に変わって行こうと手を差しのべてくれて、二人三脚で頑張ってきた。

 どんなにたくましく育とうが、地龍にとってはいつまでも可愛い弟で、その幸せを祈らないわけがない。


 戸惑う姫の背を、地龍がそっと押す。




 舞台に上がった姫の手を取り、水龍はその場に跪いた。


「再会してから、実は今日が三回目の顔合わせなんです」


 いたずらが成功したという表情で、水龍が続ける。


「ナミ姫。ぼくは優しくて芯が強く、可愛いあなたを愛しています。どうか、ぼくと結婚してください」

「……!! わたしも、愛しています。一緒に、海へ来てくれますか?」

「姫、あなたとならどこまでも」


 思わぬサプライズに涙ぐむ姫を、水龍が抱き寄せた。

 盛大な拍手が二人を祝福する。




 …………地龍も、多少引きつってはいるが、笑顔で手を叩いた。


 未だに姫の鱗を肌身離さず持ち歩き、あの日の鮮烈な一撃を思い出す度に胸はときめく。

 しかし、地龍は誰よりも近くで弟の努力を見てきた。

 大人しく可愛かった水龍が地龍に意見するようになり、重臣たちとも侃々諤々(かんかんがくがく)やり合うようになった時は驚いたものだ。


 片角をあざけられてもめげずに前を見続けて、権力に興味がなく、必要もなかった末の公子なのに、姫のために竜宮を継ぐ決意をした時から帝王学にも打ちこんだ。

 血を吐くような努力は、陰口を叩いていた者さえ水龍を認めるほどで。


 姫と水龍は、互いを高め合える素晴らしい関係を築いている。



 戦いにのめりこんで弟を殺しかけたり、手酷くフッた姫に即手のひらを返したり、兄としても男としても地龍はダメだったが……愛し合う二人を引き裂く愚者には、成り下がらない。




 不意に肩を叩かれて地龍が振り返ると、雷龍が立っていた。


「おいおい、何だよその情けないつらは。もっと喜べねーのかよ」


 そういう雷龍の笑顔も地龍と同じような有様で、目も当てられなかった。

 雷龍もまた、姫のことを引きずっているが……それでも二人の前途を祝福してくれている。



────そういえば、コイツは水龍のことを昔から弟分のように可愛がっていたな。


 地龍と姫の縁談の時にも、笑顔で祝おうとしてくれていた。

 血の気は多いし口は悪いが、友のありがたみを噛みしめる。


「……雷龍。今日は、朝まで飲まないか?」

「仕方ねーからお前のヤケ酒に付き合ってやるよ」


 地龍の、破談のあとに始まった恋は叶うことなく砕け散ったが……仲睦まじい二人の姿を見ていたら、これでいいのだと素直に思えた。







 期待はずれ姫~破談のあとに始まる恋~ 完。

最後まで読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです(*^-^*) ミズチの純愛に癒されました☆ そして地龍へのざまぁが良い感じに決まってスッキリ! サンゴの簪と角を交換するエピソードが素敵ですね。
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