第十九話 タイムパラドックスは起きない
同時ダブル投稿をするぞー!
おう!
2011年、6月29日、午後4時30分
俺はセイン――、いや、セイン(偽)に過去に戻ったとしても異世界への通行手段が無ければいくことはできない。
なら、俺が以前に、異世界に行ったとき同様、あの穴に入ればいいのだ。そうセイン(偽)に教えられた。(これは失敗した記憶の中での話しでもあることだ)
今なら、この時代ならば、可憐を、暁や美希を助けることができるかもしれない。
だけどそれはもう一度試されたいることで、俺の“記憶の中の俺が”可憐に護符を渡したところで、可憐の死は変わらなかった。
俺の世界では、記憶の中とは違って、普通の魔物に殺されるのではなく、記憶の中の俺が渡した護符に宿る俺の魔力をたどって、魔王の手下NO2が殺しに来ていた。
つまり、記憶の中の俺のせいで、余計に“形の残らないくらいな殺され方をした”。
多分、別の方法でも無理ではないかと考えてしまう。過程は変わるが結果は変わらない。
そうは思いたくない。
だが、そうおもって期待していても、突き落とされると思うと思考を断念してしまう。
だから、今を変えても無理なんだと自身に言い聞かせる。
でも、この世界での可憐はどうなる? そう考えると、躊躇してしまう。本当にこのまま何もせずに異世界にいくのか? このまま、二ヶ月間の失踪をした俺の理由を話さずに可憐を悲しませるのか?
(やめろ、やめてくれ!)
考えるな!。
そう何度も自分の頭に言い聞かせる。
必死になって考えているうちに時間はやってきた。
同日、7時19分
俺はこの住宅街で、あの穴に落ちる。
俺が落ちる穴の付近の家の瓦の上で待つ。
俺が落ちるであろう場所を監視していると、そばに走っている“俺”が現れる。
そして現れた俺に対して、あの穴が出現する。どうやら、なにか俺のときとは違った様子は見受けられない。
そして、その俺は穴に、黒い触手なようなもの絡めとられ、穴へと吸い込まれていった。
(いまだ!!)
決して、タイムパラドックスは起こさぬように。
しっかりと魔法で気配を遮断。その上から気での気配遮断も怠らない。
それらを行ってから、目の前の穴へと飛び込んだ。
刹那、視界が、空間が、時間が、“俺”自身が、“世界に置いてかれた”気がした。
何も無い空間で一人。
色という概念がない世界に一人。
何も見えない空間で一人。
何もかもに置いてかれた世界で一人。
時間の存在を無くした空間で一人。
もはや自分が誰で、どのように生きてきたか、どのようにしてここに来たのかを忘れそうになっていた。
「ぁぁぁぁっ」
視界が霞む。
もう、何も見えない。
感じない。
自分という存在が消えていく。
(俺には…やることが…あるんだ!)
「理なんか、越えてやる!」
言葉を放った瞬間、世界に色が戻る。
何も無かった世界に暗闇が存在する。時間の概念が復活する。
意識が遠ざかっていくのを持ちこたえ暗闇のトンネルを抜ける。
自分に意識を保つように言い聞かせ、何とか意識を保ち続ける。
そうして、わずかな光が、この暗闇という暗黒しかない世界から少しだけ。
それが少しずつ大きく。
視界一杯に光が溢れ、輝いていく。
(…………来る!!)
おそらく現れるであろう衝撃に身構える。
ズドン! とはいかなかったが、その代わり自分で覆っていた魔法の障壁に衝撃が襲っってきた。
その衝撃は直接は伝わってくることはなかったが、障壁には多少のダメージが加わる。
それに視界いっぱいに光が溢れ出している。
そこには、たった一週間だったが、とても懐かしく感慨深い思いがこみ上げてきた。
そんな感情に浸りそうになっている時に気づいた。
(ここは、召喚の場だ。すでに“俺”とリリスの会話は始まっている)
タイムパラドックスを避けるため、細心の注意を払い出入り口から外にでた。
その後も城内では注意は怠らず、一番身の隠すのに適した場所で一つ。
「もし、本当に俺が二回目だとしたら一回目の俺がいる可能性はあったが、召喚の場には俺と最初に召喚された俺しかいなかった。つまり、親殺しのようなパラドックスは起きないということか」
このことで、少なくとも親殺しのパラドックスは起きないことがわかった。
もしかして、俺の、記憶の中の俺がいるかもしれないと思ったが、いなかった。
存在するのは、俺と、召喚されたおれだけ。
つまり、記憶の中の俺とは世界が違うのではないか。
不幸な未来を変えるために、本来死ぬはずだった俺を生かし、未来を変えた。それはもとから確定していた。
すでに、世界は変わっている。
なら今俺がいるのは、世界を線として考えると、②から分岐した③の世界で、そこから未来から飛んできた巫女に会えるのか?
そもそも、時間跳躍をしてどのように世界が変わるのかが分からない。
過去を変えたら、過去から未来すべてが再構築されその世界ではその世界一本だけの世界なのか、過去を変えた未来から、未来を変えた本人を残して分岐が起きるか。
その場合、過去にとんだ本人は、もう分岐したほうの世界に乗るから同時に二人存在する。
それは大丈夫なのか。
今のところ、俺の状況は後者だ。しかし、多分だが、記憶の中の俺自身が、死ぬはずであった俺と鉢合わせたことで死ぬという結末に至ったのではないかと思っている。
それは、記憶の中の俺が証明していることと同じ。しかし、それはあくまでこの、未来でエリスが死に、日本が、地球が壊滅に向かう世界でのことである。
だがしかし、この世界に到達するために過去に飛んだ巫女の行動を遮ったとしたら、世界は変わる前に戻るのか? それとも、遮ることに成功しても、その後にはまた未来から来た俺という矛盾を生じさせないために俺の召喚はされる因果が作られているのか。
それか、おれ自身が世界の理からはずれるのか。
ただ、わかってるさ。
もし、巫女の行動を遮り万が一世界がもとの世界に再構築されるのだったら、俺は死んでいる可能性が高い。そうでなくては、見ず知らずの巫女さんにDNAなど渡すはずもない。
この俺が向こうの《世界が変わる前》世界に行くには、俺という存在が理から外れなければならない。
それをするにはどうすればいいか。
それが分からない。
最後に、なぜセイン(偽)には、巫女が変えたらしき世界の未来の世界だけを認識できないのか。
☆
すくなくともエリスが死ぬということを記憶の中の俺と、セイン(偽)がそれを見たことによって確定した未来なはずだ。②の世界にしろ③にしろ。
つまり、未来歩行から来る人間がいる時点で未来は確定してしまっていると考えるべきだ。
だから、誰も未来から来ていないし、何かが遭ったらしき世界から逃げてきた巫女は未来を見ていないから確定はしていない。
いくらでも未来を変えることができるのではないか。
だが、引っかかる。
なぜ、セイン(偽)はその巫女が変える前の世界を認識できていないのか。
あきらかにおかしい。奴は言っていた。自分がどこの可能性世界線だろうとパラレルだろうと、存在を許されている世界全てを認識できると言っていたのに。
セイン(偽)が嘘をついているのか。
いや、そんなの何の得がある?
少なくとも奴は何も知らない。
ということは何かしらその世界ではあるはずだ。
それは、その世界に言ってみないと分からない。
とりあえずは試行錯誤を続けなければ。
しかし、現実は決してうまくいくのはほんの極僅か。
「会いに行くしかない。セイン(偽)に」
そして、迎えるあの時。
“運命は変わらなかった”。




