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君とまた一年後。

 学校祭準備も着々と進んでいき、本番は明日となった。


「学校祭、成功させるぞー!」

『おーー!!』

皆の声が教室に響き渡る。

クラスが一致団結して行事に取り組む、とても良い雰囲気だ。


企画のグループは劇を演じるのでなおさら盛り上がっていた。

落ち込んでいた良樹も今となっては皆を引っ張っているリーダー的存在だ。


「りょうー、帰ろう」

「今いくよ!」


僕らはここ最近一緒に帰ることが普通になっていた。

なので周りのクラスメイトに僕らは付き合っているのではないか?という疑惑が持たれていた。

「あ、宮守さんと遠藤君だ」

「この前あだ名で呼び合ってたよね」

「宮守さんが友達だからって言ってたけど、どーみても付き合ってるよなぁ」


玄関に向かうまでに聞こえてきた会話だけでもこんな感じだ。

千歳にも、もちろん聞こえているはずだ。どう思っているのだろうか。


「僕ら何か噂になってるよね。ちぃはどう思う?」

「噂は広まっちゃうからね~どうしたものかな~」

そうは言っているが、表情は満足げだ。

やはり時が経ってもどう考えているのかがわからない。

もちろん僕と一緒に居ることについては嫌ではないのだろうけど、、わからない。


「学校祭、楽しもうね」

「もちろんだよ。全部回ろう」


いよいよ明日、千歳と2人きりで学校祭と後夜祭だ。とても楽しみでたまらない。

もちろん楽しみな気持ちでいっぱいだが、明日は僕が頑張る場でもある。

彼女にいいところを見せたい。好きになって欲しい。

そう思っていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


そして当日、簡単なホームルームが終わった後自由行動となる。

僕ら展示グループは終日自由時間で企画など、披露が必要なグループはそれが終わってから自由時間だ。

僕と千歳は展示グループなので終日2人きりで学校内を見て回る事ができる。


「ちぃ、よっしーの演劇を観に行かない?」

「いこいこ!」

視聴覚室へ向かうと、開演前の良樹が迎えてくれた。

「おー!来たか来たか2人とも!観て行ってくれよ!俺の最高の演劇を!」

「最初はどうなるかと思ってたよ。なんせちぃのこ、、、」

「おーーっと!そこは紳士協定だろう?」

「結んだ覚えはないが」

「私がどうかしたの?」

「いえいえ!!宮守様は演劇を心置きなく楽しんでくださいな」

「、、さま?」


こんなやり取りをして、演劇が始まった。

題名は、、[白雪姫(改)]だ。

何が変わったのだろうか?と思っていると、、

突然りんごが意思を持って一人で歩き出した。

そして物語はりんごが主体で進んでいく。

まさかのりんご役は、、良樹だ。

主役をやると思っていたのだが、、、いやある意味主役か?


だが、思わず見入ってしまうほど面白い。ギャグ要素もかなり多く、僕も千歳も笑っていた。

そして、演劇が終わると大拍手が鳴りやまなかった。


「よっしー、見直したよ。面白かった」

「だろー?脚本は俺が考えたんだぜ?」

「大谷君が?すごいね!面白かったよ」

「ハッ。宮守さんが俺の名前を、、、!」

「?」

「いえ!残りの公演も頑張れます!!!」

「そう?なんだ?頑張ってね」


「あざーーっす!」と元気良い返事を後に僕らは他の展示物を観に回ることにした。


「ちょっとトイレに行ってくるね」

「うん。ここで待ってる」


トイレをしながら考える。

今日は千歳をエスコートするんだ。

まずは、飲み物をさりげなくプレゼントして、、、回る順番も考えてきたし、、、よし!大丈夫だ。

トイレを出ると近くで彼女が待っていた。


「歩いたら喉乾いちゃうからね。これどうぞ」

早速先手を打たれてしまった。しかも僕が好きな飲み物をくれた。

「、、ありがとう」

いや、まだだ。

回る順番も考えてあるのだ。

緻密に考えたからいいルートなはず。


「回るルートなんだけど、これはどうかな?」

またも先回り。しかもとても効率の良いルートだ。文句ひとつ思いつかない。

「うん。完璧すぎるルートだね」

「でしょ!緻密に計画したからね!」

僕も緻密に計画したはずだったんだけどなぁ。

彼女が満足そうだから良しとするか。

全然格好はつかないけど。


歩いていると見覚えのある顔がいくつかあった。

「おーりょーまじゃん!」

「久しぶりだね」

「言うて数か月前まで一緒にいたけどな!」


中学の同級生だ。高校生になったとたんに久しぶり感が増す。

「それはそうと、横は、、彼女さん?なわけないか!」

「なわけないって、、どうしてだよ~」

「だってその、不釣り合いだろー!一般人代表のりょーまとだぞー?」

うーん、、棘があるなぁ、、、

「私たち、そんなに釣り合っていないと思いますか?」

割って入ったのは千歳だった。

「いや、だってりょーまですよ?物凄く普通じゃ、、、」

「それは”あなた達にとって”では?」

「それにーー」

「私たちがどんな関係でもあなた達には何も関係ないと思うのですが」

「そ、、そうですね。すまん、りょーま」

「僕は別に、、、」

「いこっか、りょう」

手を引っ張られて連れていかれた。

そして周りに人がいなくなったところで彼女が

「こ、怖かったぁ」

そう言った。無理をしていたのだろう。

「怖いのになんであそこまで言ったの?」

「だって、、りょうが悪く言われるのがなんか悔しくて、、」

「ありがとう。僕は大丈夫だよ」

「それと、ごめんね。今日、僕がちぃをその、、、エスコートしようと思ってたのに、全然うまくできなくて。これじゃあ不釣り合いって思われるのも納得かなって、、」

「そんなことないよ」

彼女は優しく言う。

「今日はすごい楽しいよ。まるで昔に戻ったみたいに感じるんだ~」

「それに、りょうの優しさは私が一番理解してる。昔から。だからーー」

「私の前だけでは、頑張りすぎなくていいんだよ」


そういう彼女の目は優しさで溢れていた。

こういうところだ。

僕が昔から好きなところ。僕を一番見ていてくれる。

僕も勇気を出すべきなのかな、と。

そう思った。


ーーーーーーーーーーーーーー


学校祭後半になると、展示の順位が発表される。

うちのクラスは、、、3位だった。

もちろん1位になるために頑張っていたが、ほかの皆を含め落ち込んでいる生徒はいなかった。


「ちょっと悔しいけど、限られた予算と時間で大健闘だと思う!それに、遠藤君と宮守さんのおかげで画用紙も和紙も手に入ったし!あれがなかったら結構ヤバかったからね!」

「村田さん、安芸君、役に立てて良かったよ。来年同じクラスになれたらまた1位を目指そう!」

「それはそうと、、私たち付き合い始めました!」

「えっ、おめでとう!」

教室では拍手が巻き起こる。

元々一緒にいたことが噂されていた2人だったが遂に、か。

どうやら学校祭で付き合い始めるカップルは多いらしい。

話によると他クラスでも数組誕生したと聞いた。


そしていよいよ終盤、後夜祭だ。

うちの高校では豪華に打ち上げ花火が上がるらしい。

なので、花火が見やすい近くのサイクリングロードに移動した。


間もなく花火が打ち上る。


ドーーーン!


「すごい綺麗だね~」

「高校でやるのは勿体ないクオリティだね」

「も~、雰囲気ないなぁ」

目が合う。そして千歳は笑う。


「来年も、またその来年も一緒に見たいな」


少しの間、花火の音が鳴り止む。

言うなら、今しかない。

僕なりの告白を。


「ちぃ」

「うん?」


「僕はちぃが好きだよ」

「りょう、、」

「だけど、まだ答えは言わなくて大丈夫」

「それは、、、?」


これは僕なりに悩んだ末の決断だ。

「僕はまだちぃの横に並べていないんだ。少なくとも僕はそう思ってる。だからーー」

「一年後、また同じ場所でもう一度言わせてほしい。”ちぃが好きだ”って」

「答えはその時までとっておいて欲しい」


千歳と再開してまだ数ヶ月、一度別れた僕たちだ。本当は今すぐにでも付き合いたいが彼女にはもう少し友達という立場で僕を見ていてほしかった。

あの時彼女を悲しませた僕がもう二度と同じ思いをさせないように。もう、すれ違わないように。


「りょうが決めたことだもんね。わかったよ、待ってみる」

千歳は変わらず優しい表情でそう言う。

「ありがとう、我儘言ってごめんね」

「だいじょうぶ。でも、期待して待ってるからね?」


また大きな花火の音が聞こえる。

僕の告白を待っていたかのように。


「綺麗だね」

「とても」

2人の距離が近づく。

自然と手が重なり合う。

そして重なった手に力がこもる。

お互いの顔は恥ずかしくて見れないけれど。

今はこの時間を、この瞬間を、かみしめるように。

繋がれた手から伝わるお互いの鼓動を少し感じながら、後夜祭は幕を閉じる。




高校一年生、夏の初め。

後夜祭での情景は一生涯忘れることはないだろう。

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