乱戦
ワイトとシロは猛ダッシュで階段を駆け登っていた。
ケイには残るカードを全て捨てて逃げるように指示した。ここから先は足手まといにしかならない。カードを持っていなければ敵に見つかる可能性はかなり低い。
「キーノ。上手くやってるかな?」
「分からんが、さっき赤のカードの波動が殆ど感じられなくなった。多分キーノが箱にカードを入れたんだ」
「それじゃあ!」
「いや、喜ぶのはまだ早い。カードを持って逃げられて初めて成功だ。謎の男の動向も気になる」
「そうなんだ! じゃあ早く合流しないと!」
「ああ! それに尽きる! 急ぐぞ!」
シロはそれ以上聞かなかったが、気付いていた。
今階段を登っている最中、ワイトは加速のカードを使っていない。
シロを助けるために使った完全回復のカードで力の殆どを使ってしまったのだ。
シロはワイトとの付き合いは長い。
だからこそ直感的に分かっていた。
ワイトに残されたカードの力は恐らく、中程度のカード一~二回分。
シロはぎゅっと拳を握った。
――私が頑張らないと!
そして二人は十五階に辿り着く。
「ガハッ!」
そこで二人の目に最初に飛び込んできたのはキーノが壁に叩きつけられる光景だった。
ボロボロになったキーノ。そしてその目の前に立ちはだかる謎の男。
謎の男はワイトが一番最初に見た格好でマントのような黒布で全身を覆っている。見えるのは口元だけだ。
「キーノ!」
シロが叫び、キーノの元に駆けようとすると、護衛の六人が壁となって立ちはだかった。
「くっ!」
シロが近くにいる男に急接近する。
そして、急所看破で相手を沈めようと手を出した瞬間だった。
すぐに別の男がシロに対して攻撃を仕掛けようとする。
シロはとっさに出していた手を引っ込め、仕掛けてきた男に対して攻撃を仕掛けようとする。すると、男は攻撃の手を止め、身を引く。同時に別方向からまた別の男がシロに対して攻撃を仕掛けようとするが、シロが反撃しようとするとすぐに身を引き、別の者の攻撃を待つ。
――こいつら!
ワイトはすぐに気付いた。
相手はシロを倒す気がさらさら無い。
Dランカーも含めた四~五人が常にシロに攻撃を仕掛けている。
いかにシロでもやられてしまいかねない状況だが、相手にはその気がない。
万が一、倒しにかかって想定外の反撃を受ければ、突破されかねない。
だから、とにかく動きを封じる事だけに専念している。
ワイトはその隙を狙ってキーノの元に駆けつけようとした。
しかし、Eランカーが一人立ちはだかる。
茶髪にカラフルなTシャツとその辺を歩いているチンピラのような風貌だが、れっきとしたEランカーだ。
「てめぇはお呼びじゃねえんだよ」
Eランカーの男はニヤリと笑う。
「くっ! 加速!」
キーノは加速で逃げようとする。
箱は左手に持ったままだ。しまう時間が無かった。
しかし、あっという間に謎の男が目の前に立ちはだかる。
――ダメだ! 速い!
キーノが次の手を考えるよりも早く、謎の男は動く。
加速で一気に距離を詰めると、強化された掌底を思い切り叩き込む。
キーノは超反応も併用し何とかガードするが、壁まで吹っ飛ばされ、叩きつけられた。
「がっ!」
背中から思い切りぶつかったキーノはよろめきながら立ち上がる。
「キーノ!」
シロが叫ぶ。
何とかキーノの元に向かおうとするが、相手の絶妙な連携に阻まれ、一歩も進めない。
「どいてぇ!」
シロは近くにいる男を攻撃しようとするがやはり身を引かれる。
その隙を狙って駆けようとすると、すぐに別の者が攻撃を仕掛けてくる。
それらの攻撃すら無視して突撃するような隙を見せれば、今度こそ本当にシロを潰しにかかるつもりなのだろう。シロもそれが分かっているからこそ相手にせざるを得ない。
「キーノ! シロ! くそっ!」
ワイトは目の前の男に向かって、突然銃を取り出し、弾を三連続で放つ。
「なにっ?」
男はとっさに超反応で躱す。
弾は全てゴム弾だった。
ワイトは男が躱す方向と逆方向に体を向け白のカードを取り出す。
――あと二回って所か! 加速!
男は回避していたため、ワイトの動きにとっさに反応できなかった。
「ちぃ!」
ワイトは男を抜き去った。
しかし、
「てめぇはお呼びじゃねえって言われなかったか?」
シロに絡んでいた別のEランカーが一人、突然ワイトの目の前に現れた。
そして、手元を思い切り蹴られる。
「しまっ!」
加速のカードが吹き飛ばされ、壁に飾ってあった絵画と壁の隙間に挟まってしまった。
同時に、ワイトに抜き去られた男が体勢を立て直し、ワイトに向かって、連撃を仕掛けてくる。ろくにカードの力を使えないワイトはその多くを貰ってしまった。
「が! はっ!」
ワイトはたまらず、身を引き、距離を取る。
「あぶねぇあぶねぇ。助かったぜ兄弟」
「いいって事よ」
そう言うとワイトを妨害した男は再びシロの相手に戻る。
「ったく雑魚のくせにヒヤヒヤさせんじゃねぇよ。もっともてめぇ如きあのお方の所に行った所で何も出来ねぇだろうがな」
男は憐れむような目でワイトを見下す。
ワイトは男を睨むようにして見上げる。
そして、突如、男を躱すようにして走った。
「はっ! 加速もなしにどうにかなると思ってんのか?」
男はすぐにワイトの前に立ちはだかる。
ほんの少し走った所でワイトは再びゴム弾を二連続で放つ。
が、男はそれを余裕で躱した。
「当たらねぇなぁ!」
しかし、ワイトは躱した男の事は見ていなかった。
躱されたゴム弾は謎の男に向かって一直線に進んでいく。
ワイトが加速もなしに走ったのは、目の前の男と謎の男と自分が一直線上になる瞬間を狙っていたからだった。
謎の男は当然それを問題なく躱す。
しかし、キーノはその一瞬を見逃さなかった。
謎の男が弾を躱すためにほんの一瞬体勢を崩す。
その瞬間だった。
――今しかない!
キーノは右手で加速を即座に取り出した。
――ワイト君が作ってくれた。これが最後のチャンスだ! 加速!!
部屋の入口に向かって猛ダッシュする。
謎の男はすぐに追ってこられない。
キーノは振り返る事すらしなかった。
背後からの電撃等、少しくらいのダメージなら覚悟の上だ。
ただ入口だけを見て手を伸ばす。
――間に合って!!
あと十メートル、五メートル、四、三…………。
超加速しているキーノにとって、三メートルは目と鼻の先だ。
――間に合った!
キーノは思わず確信し、笑みを浮かべる。
と、同時に、キーノの真横に黒色の影が現れた。
キーノは視界の端に現れた黒色だけでそちらを向くこと無く現状を認識した。
頭が真っ白になる。
謎の男は箱を叩き落とすべく、手刀を繰り出す。
キーノは意地で左手を広げるようにして躱すが、その瞬間、ボディーがガラ空きになってしまった。
その隙を謎の男は見逃さなかった。
――しまっ…………。
キーノが現状を認識出来たのはここまでだった。
謎の男の拳がキーノの腹に直撃する。
「ガハッッッッ!!」
キーノの体が宙に浮く。
口から真っ赤な血が吹き出る。
そして、キーノはそのまま地面に両手両膝を付き、倒れ伏してしまった。




