ラストステージ
二十一時四十五分。
キーノを除く全員が指定の場所に集まっていた。
ワイトはスマホの時計を確認しながら、腕を組み目を閉じ待つ。
ケイから事情は聞いていたため、たちまち慌てることは無かったが、焦ってはいた。
――間に合うのか……。
時刻は一分、また一分と過ぎていく。
「キー姉……」
心配そうな表情を浮かべるケイ。
「ワイト。キーノに電話したら?」
「いや、状況は理解出来てる。電話しても邪魔するだけになる可能性が高い。もし俺の予想通りの方法で向かったんなら、もうそろそろ…………」
ワイトがそう言った瞬間だった。
「みんな!」
「キー姉!」
キーノが猛ダッシュで向かってきた。
「遅れてごめん!」
「いや、大丈夫だ。それより箱は……」
「この通り」
キーノは内ポケットから箱を取り出し、ワイトに見せつける。
ワイトも一目見て、嘆息した。
「半端ねぇな…………。これだけの箱がよく…………」
「だよね。やっと役者が揃ったよ!」
「だな。よし! 行くか!」
ワイトの一声に全員が強い意志を込め、頷いた。
七人はマンションの手前までやってきた。
時刻は二十二時半。
「情報屋の話によると入口付近にサーチ役で一人待機しているらしいが、そいつは無視する。どうせサーチを使う前に倒したところで俺達が来たって事は分かるようにしているはずだ。なら、余計な時間と力は使うべきじゃない。入口付近だからいざとなれば逃げられる。だから倒されても助けには来ない。相手もそれを見越して単独配置なんてしてるんだろう。奪われないようにするためにろくなカードも持ってないんだろうしな」
「そうだね。それでいいと思う」
「倒して人質にするのは!?」
シロがドヤ顔で提案してきた。
「どう考えても相手が無視してくる! 第一、どうやって相手に連絡を取る!? それと要求を飲まなければコイツに危害を加えるって、俺達の誰にそんな拷問みたいな真似が出来る!? 却下!」
ワイトは一呼吸置くと、静かに、しかし、力強く言った。
「行くぞ!」
全員が頷き、駆ける。
マンションの入口に着くと、キーノはすぐに管理人室に向かい、警察手帳を取り出した。管理人室には警備員が常駐している。
「警察です。このマンションに指名手配犯が潜伏しているという情報があります。申し訳ありませんが、調査させて下さい」
「ええ!? わ、分かりました」
警備の男は入り口の扉を解錠した。
――これで三回目。
七人は一斉に中へ入る。
キーノの正装、ワイトのカジュアル黒シャツ、シロの黒作務衣、ケイの黒Tシャツ、親衛隊のヤンキースタイル風黒服。
全員黒っぽい服装をしているが、明らかに異様な雰囲気の一団が通り過ぎていくのを、警備の男はぽかんとしながら見つめていた。
このマンションは一階あたりがかなり広い。登るための手段は、通常のエレベーターが六つ。非常用のエレベーターが二つ。そして階段が二つ。内廊下方式になっており、エレベーターは全て中央に密集している。階段は非常用であり、通常は使えないが、キーノが事前に話を通し、使えるように開放されている。
エントランスはまるで高級ホテルのようだった。二階部分までの吹き抜けになっており、壁も光をきらびやかに反射している。
七人はまず中央のエレベーターを目指し走る。
途中、ワイトは内ポケットからサーチのカードを取り出した。
「行くぜ!」
――サーチ!
ワイトを中心にカードを探知するための波が球状に広がっていく。
サーチは、範囲を狭める代わりにカードの探知精度を上げる方法と、探知精度を下げる代わりに、とにかく広範囲のカードを探知する方法がある。今回は後者の方法だ。
「どう? ワイト君?」
「ある程度予想はしてたが……。思った通りだ。至る所からカードの反応が出やがる……。俺達を困惑させるためにどうでもいいカードを設置しまくってるな。金に物を言わせてカードを潤沢に使ってやがる」
「そんなにカード落ちてたらマンションの人達が拾ったりしないかな? 拾われたら移動するカードが増えて敵味方の判断が付きにくくなるよ」
シロが問いかける。
「カードに全く触ったことが無い一般人にはカードは見えない。稀に先天的に見える奴もいるらしいが、今はそんな可能性は考えない」
「え!? そうだったの? カードって誰にでも見えてるんじゃないんだ!」
「今更かよ! ってもまぁ、お前はそうだよな。とんでもない偶然でカードに触ってしまったんだよな」
シロが一番最初に触ったのは、自分を殺しかけた赤のカードだ。そのせいでシロはカード使いの世界に足を踏み入れる事になってしまった。
七人はエレベーターの前まで来た。
「もう一回!」
――サーチ!
二回目のサーチ。
これにより、一回目の位置から移動しているカードがあればそれは敵だ。
ワイトは慎重に、移動しているカードが無いかどうか、そして、密集しているカードが無いかどうかを探る。密集しているカードを探すのは、カードを持っていて、あえて一切移動しない敵を探すためだ。
「とりあえず、二階までには誰もいなさそうだ。だけど早速三階に三つ反応があるな……。動いてはいないが……」
「二階まではエントランスで目立つからかな。三階のは、どうなんだろう……。待ってるのか囮なのか……」
「俺は囮だと思うな。たった三人じゃフルメンバーの俺達相手はきついはずだ」
「私も賛成。ひょっとしたら挟み撃ちにするために待ってるとかも考えたけど、そうだとしても行くしかないしね」
「だな。俺もそう思う。よし! ここで分かれるか。親衛隊。あんたらはまずエレベーターで三階まで登ってくれ。俺達は階段で上を目指す。ここからは携帯で連絡を入れる」
「よし分かった」
「みんな、気をつけてね」
シロが三人に声を掛ける。
「力が漲ってくる! これが気合増加のカードってやつか!」
「いや、そんなもん使ってねぇから」
七人は四三に分かれ、ワイト達は階段へ向かう。
親衛隊には適当なカードを何枚も渡してある。
ワイト曰く、それらは全てとんでもないゴミカードばかりだった。
『〇.一パーセントの回復』
〇.一パーセント? 毛を抜いたときの痛て! ってのが消える程度か? ゴミ!
『〇.〇五秒の記憶消去』
〇.〇五秒!? 動画でもそんな時間抜けてても分からないだろ! ゴミ以下!
『一秒間の犬の気持ち』
一秒だけ犬の気持ちになれる。あいつ何で急に吠えるんだろ。存在価値も無し!
全て全く使い道が無く、売ることすら出来ないようなカードだが、サーチには引っ掛かるのだ。
階段で二階を越えた所でワイトは再びサーチを使った。
「三階のカードはやっぱり動いていない。囮でほぼ問題なさそうだ」
「よくよく考えたら、挟み撃ちは相手としても三人もの戦力を置き去りにするわけだから考えにくいよね。ただでさえ外で一人使ってるんだから」
「確かにそうだ。よし。このまま登るか」
ワイトは三階に辿り着く。
――サーチ!
やはり三階の反応は動かない。
「よし。このまま登ろう」
ワイト達は四階へ向かう。親衛隊にもエレベーターで四階へ向かうよう連絡した。
「エレベーターで一気に十五階まで行きたいね」
シロが呟く。
「だな。だけどエレベーターは待ってる人に止める権利があるからな。十五階に向かう途中で大人数で迎え撃たれたらはい終了だ」
そして四階。
――サーチ!
ここでワイトが反応した。
「いる! 八階に一、二、三……。かなり多い! フェイクも入ってるのか? 十人超いる!」
「来たね! ケイちゃん!」
「うん!」
「加速と跳躍、腕力強化、認識消去、無効化、それと、制限撤去のカード出して! 全部一番効き目の強くて持続時間の長い奴でね!」
「分かった!」
「あ、あと一応、単発型の電撃のカードも出しといて! 三枚だけ! あるかな!?」
「あるよ!」
ケイは手際よく指定されたカードをポーチから取り出す。
(一番強いカードばっかり! キー姉の本気モードだ!)
制限撤去だけは箱に入ったままだ。これだけはいかに比較的消耗が少ない部類の赤のカードと言ってもやはり赤のカードだ。そのまま持ち歩いていては消耗が大きすぎる。
「あ、そうだ。あと、回答看破も出して」
「分かった!」
キーノはカードを受け取るとそれをそのままワイトに差し出す。
「信じてるよ。ワイト君」
「サンキュー」
ワイトはカードを受け取り、内ポケットにしまった。
(このカード、やっぱり結構きついカードだな。かなり力を取られる……)
「ワイト君、相手の動きは?」
「待ってくれ」
――サーチ!
「まずい! 階段に向かってきてる!」
「よし! まず登れるだけ登ろう! そして遭遇しそうになったら階段を出よう!」
「だな! 行くか!」
四人は階段を駆け上がる。
時刻は二十三時を回った。




