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世界を超える紫  作者: 素人
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緊急事態

 その一時間半後。

 キーノとケイが近くのファミレスで軽食を取っていると、突如、キーノのスマホにメッセージが届いた。

『都内某所にて爆弾テロ発生! 犯人からの声明より、カード使いによる犯行であると断定! 近場で対応出来る職員は直ちに急行願う! 繰り返す…………』

 ――爆弾テロ?! こんな時に! どうしよう……。私の管轄だ。

 キーノは頭を抱える。

 もう突入まで二時間を切っている。今他の事に力を使うわけにはいかない。まして再起不能の怪我など論外だ。そもそも自分はもう執行官ではないのだ。現場に向かう義務は無い。

 いや、だからと言って……。

 キーノが必死で考えていると、急にスマホが鳴った。

 ワイトからだった。

『あ~、あのさ。今、爆弾テロが起きてるんだってな』

「耳が早いね。そうなの。私、どうすれば……」

『偶然聞いたんだけど犯人はそんな大層な奴じゃないっぽい。それ、俺が対応するから。アンタは行かなくていいぞ』

「君が? ってか君今何してるの? 風の音? 何かゴーゴー言ってて聞き取りづらいんだけど!」

『ああ。気にしないでくれ。とにかくアンタは行かなくていいから。こんな所で力を使うわけにはいかないしな。俺を信じてくれ』

 そう言うとワイトは一方的に電話を切った。

 キーノは訳が分からなかったが、ワイトがそこまで言うのだ。実際自分は何が何でも問題を起こすわけにはいかない。ここはワイトを信じて待つ事にした。

「キー姉、どうしたの?」

「いや、何でもないよ」

 キーノがスマホをしまおうとすると、再び電話の音が鳴る。

 今度は所長からだった。

『もしもし。キーちゃん。すまねぇ! ドジッた!』

 キーノはその言葉を聞いて心臓が跳ね上がった。

「もしもし! 所長さん! どうしたんですか?!」

『やっと箱が完成してな。今そっちに届けに向かってるんだが…………渋滞に引っ掛かちまった……』

 キーノは目の前が真っ暗になるような思いだった。

 なぜ先程電話を掛けた時にこの事態を想定出来なかったのか。

『この調子じゃあと何時間掛かるか分かったもんじゃねぇ! くそっ! どうすれば!』

 キーノは必死で考える。

 なぜこんなタイミングでこんな大規模な渋滞が……。

 いやいや、今はそんな事もうどうでもいい。

 問題はどうするか、だ。

「所長さん! 今どの辺ですか?!」

『今は…………この県に入って二個目のパーキングエリアを越えた所だから……』

 ――遠い!

 キーノは心の中で叫んだ。

 今キーノ達がいる場所から四十キロメートルは離れている。

 ――どうする!?

 緊急車両を使って急行するか?

 いや、渋滞している場所では効果を発揮するか怪しい。それに緊急車両を借りるには警察に話を通さなければならない。そこでもしキーノが警察権を持っていないことがバレれば、無駄に時間を食うだけだ。不確定要素が大きい。

 ならば、加速のカードで走っていくか? 

 いや、いくら何でも距離が遠すぎる。不可能ではないが、相当量の力と体力を使ってしまう。これでは箱が手に入っても本末転倒だ。

 ――どうする!? どうする!?

 キーノはスマホで地図を見ながら必死で考える。

 ――何か! 何か手はないのか!

 ケイはキーノの言葉を聞いているだけで十分状況を理解できており、あえて何も言わなかった。

 今何かを話しかけるのは間違いなく邪魔になる。

 現在時刻が二十時過ぎ。赤のカードの臨界時間=発動時間は午前一時だがそんなギリギリになるわけにはいかない。一時間以上前にはカードに辿り着くとすると、二十四時までにはカードに辿り着きたい。そうなると、やはり当初のワイトの話通り、二十一時半~二十二時には突撃したいところだ。

 つまり、二時間足らずで四十キロメートル離れた場所に行って戻ってくる。

 ――そんな事。出来るわけが……。

 心臓が発する嫌な鼓動を必死で抑え、キーノは考える。

「直通の電車でも出てればいいのに……」

 ケイは思わずぼそっと呟いた。

 キーノはその言葉を聞いてはっとした。

 地図を少し引いて見てみる。

 ――新幹線の駅が……近い。

 今、所長が足止めを食っている場所から新幹線の駅まで、直線距離ならかなり近い。車の場合、高速から降りてそこから駅に向かう関係上かなりの時間が掛かってしまうのだが、あくまでも直線距離なら近い。そして新幹線なら、十五分もあれば目的地に到着する。

 キーノは大慌てで駅の時刻表を調べる。

 該当の駅に停まる新幹線は……。

 そして、めまいを起こす。

 今から十分後に発車する電車の次は……一時間後。

 いくら何でも十分後に駅まで向かうのは無理だ。

 キーノは覚悟を決めたように目を閉じた。

 ――やるしかない!

 選択肢は二つに一つ。

 今から十分後に発車する電車の発車時刻を遅らせてもらうか、本来なら停まらない電車に無理矢理停まってもらうか。

 どちらにしても、まともな方法では無理だ。

 警察権を使うか、急病を装って無理矢理停まらせるか、脅迫するか。

 キーノは考えた。

 どの方法でも迷惑がかかるのは間違いない。ならばどの方法を取るか。

(本来停まらない電車は大勢の人が利用するタイプ。速達性を重視して小さい駅には停まらない。なら、停まった時に影響が大きいのは大勢の人が利用するタイプ……)

 キーノはもはや決めつけとも言える内容で結論を出した。

 実際には、どの電車が遅延しようが、接続や通過の問題で他の電車にも必ず影響が出る。どの電車を遅らせるのが最善か、と言われても正解を出すのは容易ではない。

 キーノは凄まじい勢いで立ち上がった。

「ケイちゃん! 先に集合場所に行ってて! 私も後から必ず合流するから! それと、加速のカードだけ貸して!」

 ケイは特に何も突っ込まず返答する。

「うん。分かった。はい、カード」

「それと! ありがとうね! ケイちゃんの一言で助かったよ!」

 それだけ言い残すとキーノはカードを手にし、猛ダッシュで店を後にした。

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