第96話:シュヴァイゲンのターン
更新かなり遅れてすみません。
「我々の仲間を一員に?」
リザードマンは外見から魔物だと思われがちな種族だという事は以前イレイザさん達から聞いて知っていた。
あたしはこの世界の事は解らないけれど、確かにリザードマンが他の種族と仲が良さそうに話している場面はお酒の出る食堂でさえ見る事はなかった。
それは、外見の違いから来る偏見が当然のように存在するというわけで、リザードマンを仲間にするというのは本当にあり得ない事なのだろう。
長の訝しむ口調がそれを認識させた。
フリューゲルさんは長の問いに敢えて言葉を紡ぐ事はなく話を続けた。
「当初はイレイザと私しかいなかったパーティでしたが、私達は彼のその人となりを気に入って仲間に誘いました。
彼は今の長のような表情をされて、『ありえない』と拒否しました。
事情は長もご存じかと思われますが、リザードマンは一種族としてギルドに認められてはいるものの魔物と間違えられる事が多く、厄介事を作る原因になるからです。
厄介事を好む者は存在しない。面白半分で誘うのは間違っている。
そう言って頑なにパーティを組んで貰えませんでした。ですが、そのやり取りの間に新しくメンバーになった人間の女性が彼を説得しました」
ナーデルさんの事だ。
あたしは彼女の思った事は隠さずに、いの一番に聞いてきた姿を思い出しながらフリューゲルさんの言葉に耳を傾け続けた。
「タクトは初対面の彼女を睨み付けました。その視線は憎しみさえ籠っていました。
ですが、彼女はその視線に怯む事もなく、頑としてパーティに入ってくれない彼にこう言いました。
『リザードマンが理由とかって意味分かんないんだけど。
私達は君が気に入ったから一緒にパーティを組もうって言っているんだけど?
君はどうやら私の事を嫌っているみたいだけど、私は君の周りの空気が好きだと感じたし嫌われる覚えはないよ。
そりゃあ私も親にオオトカゲの魔物について聞いた事あるけど、話を聞いた時に「アレ?」って思ったよ。だって、血が青くて蜥蜴みたいな外見ってだけで魔物だって決めつけてるんだもん。それってオカシクナイ? てか、そいつら絶対目ん玉腐っていると思うんだよね。
君の瞳は風がなくて鏡の様になった泉のように綺麗な瞳をしている。
とっても思慮深くて優しい人だと私の心が感じた。
そんな人が魔物とかってありえないし、厄介事を進んで持ち込むような存在であるわけがない。
だからさ、私達と一緒に戦ってみんなにリザードマンは魔物なんかじゃないって事知らしめようよ。
でさ、このメンバーでギルドのスターパーティになって英雄として世界中にシュヴァイゲンの名を轟かせるんだ。
世間が有り得ないと言い続けていた異種族パーティが英雄になるっていう伝説を私達で作るんだよ。
ね? 考えるだけで楽しくなってこない?
イレイザの戦闘能力にタクトがいれば鬼に金棒でしょ? 魔法だって魔族のフリューゲルなら魔力の心配ないし、遠距離攻撃やサポートは私に任せてよ。私は人間だけど、弓の腕はエルフにだってひけはとらない自信あるから。
絶対無敵なパーティになるって!
だから、ねぇ、一緒にやろうよ。後悔は絶対にさせないよ』とね」
「今なんと言った!?」
フリューゲルさんが話を続けようとしたら長がそう叫ぶように言い、話を中断させた。
「後悔は絶対にさせないよ、と言いましたが」
フリューゲルさんがそう答えると、長は首を振って否定し、焦れたように口を開いた。
「名前だ! リザードマンの若者の名前だ!」
「タクト、と、言いましたが……」
自分の両肩を掴んでくる長に少し怯みながらも、フリューゲルさんはそう答えた。
すると、長は祈るように何事かを呟き、続けて聞いてきた。
「タクトは、我息子は今何処に!?」
そう問われ、私達は言葉を失った。
まさかタクトさんが長の息子だったなんて。
どうしよう。タクトさんは既に亡くなっている事を正直に話すべきなんだろうか?
だけど、タクトさんは人間に殺されたわけで、それを話したら余計人間を滅ぼす決意を固まる事になってしまうのではないだろうか?
あたしが悩んでいるとフリューゲルさんがあたしに話すように促した。
「ミレイさん。君から話すべきだ。一番近くで見ていたのは君なのだから僕より話せるだろう?」
一人称が『僕』に戻っている。
フリューゲルさんも思っていなかった状況に動揺しているのだと思う。
「隠すわけにもいかないだろ? あたしが話せるもんなら話したいけど、あの時は意識が殆どなかったから詳しく話せない」
あたし達の様子で、タクトさんは死んだという事が伝わったのだと思う。
長は何度も口を開こうとして失敗したと言った仕草を繰り返し、やがて深呼吸をしてから震えた声を響かせた。
「頼む。教えて欲しい。む、息子は死んだのか?」
あたしは戸惑いながらもハッキリと頷いた。
それを目にした長はいつの間にか浮かせていた身体を椅子に深く預けて片手で顔を覆った。
そして、そのまま暫く動かずにいたけれど、やがて顔を覆ったまま絞り出すような声を上げた。
「お、教えてはくれまいか? 息子は、タクトは何が理由で、ど、どのようにして死んだのかを……」
交渉はもしかしたら失敗するかもしれない。
だけど、今目の前にいる人物はタクトさんのお父さんなんだ。ならば、当然知る権利がある。
あたしは覚悟を決めて全てを話す事にした。




