第85話:お風呂と言えば女子トーク
入浴体験で、お風呂の虜になって貰おうと気合いを入れたのに、それが一瞬で吹き飛ぶ状況が目の前にあった。
同性として見逃せないもの。
そうです。胸です。胸と書いてバストと呼ぶアレです!
この二人。胸大きいなぁとは脱衣所で思ってはいたけど、本当に大きいんだもん。
なんと、浮力のせいでそれが浮いているんだよ!?
確かに脂肪は軽いから水に浮くっていうのは知っているけどさ、本当に浮いているのを見たらそりゃあ驚くでしょ⁉
それが2×2で4つもプカプカと優雅に浮かんでいる。
しかも二人が動く度にその胸が波を作りあげて対流している。
何なの!?その強烈な破壊力を持つ兵器は!!
「おぉ!確かに肌が滑らかになっておる!」
「まことでありんすね!肌の上を水滴が丸くなっていんす!こなたのような水滴は数年見た事ありんせん」
嬉しそうに二人は声を上げる。その度に胸が湯の上をバシャバシャ音を立てて泳ぎ出す。てか、胸の谷間の水が溜まり過ぎなんですけど!
あたしは自分の胸に手を当ててみた。
当然まっ平らで水溜まりなんてあるわけもなく、子供らしいもちもちの肌の感触があるだけだ。
なんだろう。この敗北感。
美人で色っぽくて、胸まである。
いや、胸だけじゃない。
ファティマ様は痩せているのにほどよく筋肉がついていてボディが引き締まっているし、エーデルさんは標準体型だけど、理想の場所にまるで狙ったかのように脂肪が付いていて妙に色っぽい。
完全に負けている。
「ふ、不公平だ……」
脈絡のないあたしの呟きに、二人は訝しげにあたしを見た。
「おいおい、ミレイちゃん。急に元気がなくなったが、どうしたんだい?」
急に落ち込んだあたしを心配してイレイザさんが声を掛けてくれたけど、そんなイレイザさんの胸もデカイ。
しなやかな筋肉の持ち主で、腹筋だって割れているのに胸はちゃんとあるのよ!柔らかそうなデカイ胸が!!
「だって、みんなスッゴい美人でスタイルだっていいのに胸まであるなんてズルいよ!」
その一言に、ファティマ様とエーデルさんは女としての何かを刺激されて期限良さそうに広角を上げたけど、イレイザさんはあたしを慰め始めた。
「ミレイちゃんはまだ子供なんだからしょうがないって!大人になれば胸なんて勝手にでかくなるって」
その言葉にハッとなったエーデルさんは、イレイザさんにそっと耳打ちした。
「え?マジか?……大人のミレイちゃんの胸も殆ど変わらない、だって?」
うっ、そういえばエーデルさんはおとなのあたしを知ってるんだっけ?
だけど、それをワザワザ教えなくてもいいじゃないかぁ!
ほら、イレイザさんがめっちゃあたしの胸を見てる!!
そして、哀れな子を見るような視線をファティマ様まで投げてるし!
「ま、まぁ、アレだ。胸があると動きづらいからないほうが、いいと、うん、思うぞ?」
「何も胸の大きさで魅力が決まるわけではない故、安心するがよい」
そのセリフ、視線と口調が噛み合ってないんですけど!
「い、いいもん。どうせあってもモテるわけじゃないし」
半分自棄になってそう言うと、ファティマ様の動きが止まった。
「モテるわけないだと?トールはそなたを好いておるではないか」
「え?トールさん?」
何故そこでトールさんが出てくるのだろう?
そう疑問に感じているあたしを気にする事なくエーデル様は続けた。
「この私が全力で何度も迫ったというのにあの者は暖簾に腕押し状態で全く靡かなかったのだぞ?
それだというのにそなたの隣に満足げに立っておった。しかも、さも隣にいるのが当然と言った顔で」
「そうでありんす!いったいミレイちゃんの恋人はどちらの殿方なんでありんすか?
常にミレイちゃんの隣にいたカッツェ様なんでありんしょうかぇ?
それとも、アーティファクトの武器をミレイちゃんに贈るぐらいでありんすからトール様なんでありんしょうかぇ?」
いやいや、何でそうなる?
脈絡のない質問に動揺してはいたけれど、同時に箱根に行った時に出くわした女子グループを思い出していた。
彼女達は周囲を憚らずキャピキャピと女子トークを繰り広げていた。
という事は、女性とコミュニケーションを取るには、恋ばななるものは避けては通れない道だったりす、る?
だ、だけど、こんなあたしを支えてくれる二人をそんな目で見たらあまりにも失礼だよね?
「カッツェさんは初めて出来た友人で、トールさんは国の一番の長老で、その立場からあたしが少しでもやり易いようにフォローしてくれているだけです。
だ、だからそんな存在じゃないので二人に失礼になる事を言わないで下さい!
トールさんならさらりと受け流してくれるかもしれないですが、カッツェさんはこれから出会いがあるかもしれないので、そんな噂が立ったりしたら折角のチャンスを逃す可能性がありますからっ」
そう答えると、イレイザさんが助け船を出してくれた。
「トールという人は判らないけど、カッツェは恋愛感情とは違うと思うぞ」
あぁ、貴方は神か。神なのか。
イレイザさんを拝みたい衝動に駆られながら、あたしはその意見に同調した。
「ですよね!友人ですもん!」
「いや、それともちょっと違うな。なんだろ?鬼教官?スパルタ教育を施すお兄さんだな。家族を相手にしているような、そんな感じがするな」
「なんだ。それは?」
ファティマ様の疑問にイレイザさんは旅をしている間の出来事を話して聞かせた。
すると、エーデルさんの表情が険しくなっていき、ついに爆発した。
「なんという事でありんしょう!女性の扱いといわすものがなっておりんせん。いかほどミレイちゃんの為だとはいえ殿方と違い女性の身体はデリケートに出来ていんす。ミレイちゃんが無理しようとしたら助けてあげるべきだといわすのに、寧ろ推奨するとはまことになっておりんせん!」
「いや、それはあたしが自主的にやった事だから。それに龍人族はスパルタ教育社会だし」
「龍人族が?そのような事耳にした覚えがないが」
初耳だと首を捻るファティマ様にあたしは思わず呟いた。
「え?だって、トールさんも……」
「彼も何かしたんでありんすか!?正直に話してくんなまし!」
あ、ヤバい。失言だった。
エーデルさんの剣幕にあたしは顔を引き攣らせた。
「え、円月輪の操作を覚えるまでは水も飲ませてくれず、倒れるまで修行を続け、た?みたいな……」
「うっわぁ、水もかよ。龍人族マジ鬼教官だな」
イレイザさんがそう呟くと、エーデルさんはますます激高し、顔が真っ赤になっていった。
「あ、そ、そろそろ30分経過したのでお風呂から出ないと、お肌に悪いですよっ」
そんな言葉で誤魔化せるか正直不安だったけれど、流石は女性というか先ずはファティマ様が「それはいかん」と慌てるようにして風呂から出ると、エーデルさんも先程までの怒りは何処に行ったのやらファティマ様に続くようにして風呂を出て行った。
イレイザさんはもう出なくてはならないのかと残念そうにしていたけれど、女子力の高い二人の変わりように、あたしは苦笑せずには居られなかった。
☆
脱衣所で休憩しながらも言われた通りに消臭水でしっかり保湿を行うと、ファティマ様は嬉しそうに肌の感触を確かめていた。
「この消臭水にまさかこのような使い方があるとは思わなんだった。触れてみよ。スベスベだぞ」
「お気に召しましたか?」
「うむ!」
満足げに頷くファティマ様にあたしは追い打ちを掛けた。
「ですが、湯の花ではこの効用も弱いのが欠点です。温泉その物ですともっと効果が実感出来るのですが……」
入る事が今は出来ないので残念ですというニュアンスを込めてそう言うと、ファティマ様と同じように肌の感触を確かめていたエーデルさんがそれに食い付いてきた。
「本物はこれより効果があるのか!?人間の生き血よりもかっ!?」
生き血!?今、さらりと怖い事言ったよ、この人!!
あたしが咄嗟に首筋を庇うと、ファティマ様は我に返って安心させるように続けた。
「今は血を飲ませてくれる領民に少量ずつ分けて貰っておる故、襲う事は決してしない。安心すると良い」
安心しろと言われても何となく首を庇わずには居られない。
だけど、ふと疑問に感じてあたしはファティマ様に聞いてみた。
「ファティマ様の国の領民は人間なのですか?」
「そうだ。私は自然が好きでな、森の管理や田畑を潤すのは人間が秀でている故、人間を住まわせておる。税金は一応あるが、金の代わりに血を三月に一度コップ一杯ほど提供すれば免除となる。そのお陰で人間が集まってのう、我ら一族にも血液が行き届く故、助かっておる」
人間は血さえ提供すれば税金を払う義務がなくなるから生活が潤う。しかも三ヶ月に一度、コップ一杯程度なら日常生活に支障は無い。吸血鬼側も金より血液を安定的に供給されれば食に困る事はない。
そう考えると、上手く共存関係が成り立っている。
ならば、魔族の特質を人間に理解して貰えればいい関係が築けるはずだ。
争いが無くなれば勇者の兄さんも命を賭けるような危険を侵さずに済むはずだ。
そうすれば、もし兄さんに出会えなくても兄さんは無事にこの世界で生きていける。
その為には、温泉観光という事業を成功させて、様々な種族が交流出来る場所を作りあげないと!
当初は赤龍の民を救う為の街作りだったけど、今は違う。
これは、長い目で見れば戦いをなくすきっかけになる重要な事業なのだ。
あたしは、決意を新たにこの後の仕上げに気合いを込めた。
あぁ、文章長くなってしまいました……ガラケーの方、読みにくくてすみません。




