第6話:龍神国の事情【1】
「そなた、牢屋をかなり面白空間に変えたらしいな」
「すみません。ついやり過ぎちゃいまして」
取り敢えず謝ってみる。でも、あの環境は病気になる事を説明し、自己防衛の為である事を訴えた。
「言っておくが、ジェイドがそなたを気に入ったのは、それが原因だぞ」
魔法が使えるならあの牢屋は簡単に壊す事が出来るのに、改造する事に全力を注いでいる姿が、好ましく思ったらしい。
そして、牢屋の中の状況は長はテレパシーの遠隔操作でずっと監視という名の観察を続けていたそうな。
「脱獄したら無罪を証明できないじゃないですか」
この国に入国審査があるのかは不明だが、不法入国の上に脱獄なんてしたら罪の上塗りである。
「ほう。やはりそなたは賢いな。流石は転生者と言ったところか」
え!?何で知ってるの!?
「これでも我は神と名乗っている。そなたの事情は既に把握済みだ」
「なら、璃人兄さんの居所が判るんですか!?」
早速兄さんと合流できる!
合流したら街で普通の生活を送ろう。
そう考えたのだが、色好い返事はもらえなかった。
「すまぬ。期待には答えられぬ。恐らく何処かの街の教会で召喚されているということしかわからぬ」
召喚?
なんかRPGものっぽいフレーズが来た。
詳しく事情を聞くと、何でも異世界から転生してくる者は、基本教会で召喚の儀式で招かれるそうだ。
で、招かれた者は『勇者』として世界を平和に導くらしい。
つまり、あたしのようにいきなり空から降ってくるなんて事は前例がないらしい。
「……なんか嫌な予感がするのですが、今まで教会で召喚された人達は今はどうされているんですか?」
もしかして、勇者の使命を全う出来ずに死んでしまったのでは?
だとしたら、一刻も早く兄さんを見つけないと再会する事なく終わってしまう可能性がある。
「そなたが恐れている事は決してあり得なかったわけではない。だが、殆どの者は勇者を辞めて一般人になったり、冒険者になったりしている。
そなたが望むのなら、冒険者に転職した者で良ければ紹介は可能だ」
「是非!」
大した情報は得られないかもしれないと付け加えるように言われたが、教会について詳しく知っている者である事に間違いない。
今は、少しでも兄さんに繋がる情報を集めるのが先決だと訴えると、龍神は条件をあたしに掲示してきた。
「紹介する代償としてそなたの力を借りたい。
真実を述べると、処刑の有無を判断するというのは口実でな。そなたの力を借りたくてここに呼んだのだ」
なるほど、まだるっこしいやり取りは、取引材料を探していたのか。
そうなると、先程の外出は意図的に行ったに違いない。
出かけている間に取引できそうなものはないか観察していたに違いない。
この龍、意外に頭脳派なのか?
「で、あたしに何をやらせようとしているのですか?」
「簡単に言えば、この国から争いを無くして欲しいのだ」
簡単に難題を吹っ掛けてきた!
「そもそも何故争うようになったんですか」
龍神が言うには昔は仲良くやっていたらしい。
比較的土地の豊かな白龍の地から野菜が交換材料として提供され、狩猟民族である黒龍の地からは魔物の肉、緑龍の地からは飲み水、岩ばかりで作物の実らない青龍は民族特性の飛行能力を使い、海から魚介類や魔物を仕留めて交換、黄龍の地はドワーフ並みの鍛冶能力で武器や防具を交換材料にしていた。
だが、地の利がなく、これといった能力もない赤龍の民族は彼らから保護を受けて生活していた。
傍から見れば穴だらけなこの生活でも少数民族だったから上手くやってこれた。
しかし、外敵がいないこの国は長い年月と共に人口の増加してきてしまった。
そうなってくると、食糧問題が浮上するのは当然の結果だろう。
まずは、黒龍の地から魔物が供給されなくなった。
狩り過ぎて魔物が減ったため、自分の部族を養うのが精一杯になったからだ。
次は青龍から魔物の供給がなくなった。
理由は長い年月と共に飛行能力が出来る民の数が減った為、魔物のような大型の荷物を運べなくなってしまったのだ。
こうなってくると食糧事情は困難を極めた。
赤龍の民への施しは無くなり、鍛冶技術しかない黄龍の民も頼みの綱だった黒龍の民が交換に応じなくなり、青龍の民との交換で細々とやりくりするしかなくなった。
白龍の民だって無尽蔵に野菜が採れるわけではない。
悪循環が悪循環を呼び、首が回らなくなった所で事件が起きた。
飢えた赤龍の民が白龍の集落を襲い、貯蔵倉庫から備蓄用の食料を盗んだ。
その際、食糧を奪われまいとして戦った白龍の民の何人かを連れ去ったのだ。
憤る白龍の民をなんとか鎮めた青龍の長は、白龍の長を率いて赤龍の集落へ向かった。
そこで龍神様は話を区切って長の様子を窺った。
「ジェイド」
「解っています。全ては対策を取って来なかった俺達が悪い」
「その事ではない。このままではその娘はそなたに殺されるぞ?」
龍神様気が付いて下さいましたか。
そう、あたしは今、死にそうになっていた。
長のあたしを抱きしめる力が強過ぎて腹部が圧迫され、呼吸もままならない状態になっていたのだ。
「す、すまない!」
慌てて長はあたしを解放してくれたけど、その瞬間、空気が一気に肺に入り込んだ事で咳が止まらなくなってしまった。
そして、話はあたしが落ち着くまで中断となってしまった。




