第56話:スケルトンの軍隊
今回、文章長めです。
話の都合上、日によって長さがバラバラになってしまい、すみません。
日が暮れる。
太陽は西の地平線へと沈み、代わりに冷気が草原中に漂い始めた。
そして、陰鬱な空気が迫って来るような感覚に、あたし達は周囲を警戒した。
「来るぞ!」
タクトさんの声に目を凝らすと、100を越える鎧を着たスケルトン達が横二列になって真っ直ぐ進んでくる。
前列は右手に剣を左手には盾を持っており、後列は弓を持っている。
それらが規則正しい動きで真っ直ぐあたし達の方に向かってきている。
「イレイザ、タクト!右側から狙え!」
フリューゲルさんの言葉に二人が飛び出し、スケルトンに斬りかかる。
左から攻め込めば盾で防御されただろうけれど、右側は盾の防御はない。
結果、攻撃は見事にスケルトンにヒットし、バラバラになった骨が宙を舞う。
そこに透かさずナーデルさんの火矢が骨に降り注ぎ、スケルトンの骨は再生する事なく灰になっていく。
フリューゲルさんは指示をある程度与えると、詠唱を始めた。
だけど、それを妨害するかのように後列のスケルトン達が弓を構えて上空へと矢を放った。
空高く飛んだ矢は限界高度で止まり、次の瞬間あたし達を目掛けて方向転換をして来た。
50人ほどのスケルトンが一斉に放った矢は雨のように降り注ぐ。
「『アースウォール』‼」
カッツェ兄さんが上空にアースウォールを展開してくれて矢はあたし達に届く事なく土の壁に突き刺さる。
「『ファイアーストーム』‼」
透かさずあたしは炎で攻撃する。
そして、詠唱の終えたフリューゲルさんの『ファイアーストーム』があたしの炎と混ざりあい、大きな炎の渦となってスケルトン隊の中央に炸裂した。
骨が炎の中で乱舞し、次々に灰となって消滅していく。
これで右翼と中央が消滅し、残すは左翼のみとなった。
これが人間の兵なら士気が一気に下がり逃走してくれるところだけど、アンデッド系にはそれは期待出来ない。彼らは一つの目的をただ遂行するだけの存在だからだ。
既に死んでいる者が死を恐れるわけがないというのも理由らしい。
よって、左翼のみとなってもスケルトン達は最初と変わらずにあたし達に襲いかかってくる。しかも、一気に積め寄ってきた。
こうなると魔法は使えない。
カッツェ兄さんは弓兵が落としたロングボウを手にしてナーデルさんに渡した。
「お前、こいつを使えるか?」
「任せて!私に使えない弓はないよ」
ナーデルさんの返答に満足したように頷くと、彼女とフリューゲルさんをスケルトンの攻撃射程範囲外まで空を飛んで連れていった。
そこからナーデルさんは、ロングボウを構えて矢を放つ。
今度は矢を一度に何本も放つのではなく一本ずつだ。
だけど、その矢は狙った場所に的確に命中し、確実にスケルトンの数を減らしていく。
その間もイレイザさんとタクトさん、そしてあたしは攻撃の手を緩めない。
だけど、円月輪を放ったその隙を突いてスケルトンの一体が剣をあたしへと振り降ろしてきた。
「『プロテス』‼『ファスト』」
逃げ切れない!
そう感じた瞬間、フリューゲルさんの声と共に身体が軽くなり、あたしは咄嗟にフライを使って上空へ逃げた。
あ、危なかったぁ……にしても、さっきの魔法詠唱省略してなかった?
フリューゲルさんを見ると、苦しそうに片膝を突いていたけれど、それでも詠唱省略で『プロテス』と『ファスト』を唱え続け、全員にかかったところで動けなくなった。
あれは、魔力切れの症状だ。
魔力値がどの程度あるのかは判らないけれど、先日のワーム戦での魔力消費が影響したらしい。
魔法の効力が切れていないから意識は辛うじて保っているだろうけれど、時間の問題に違いない。
効力が切れるまでに殲滅しなきゃ怪我人が出る。
あたしは円月輪を投げては戻ってくるまでの間に残った円月輪を振り回してスケルトンを斬り刻み、至近距離で『ファイアーボール』を打ち込み続けた。
『ファイアーストーム』のような広範囲魔法が封じざるを得ない状況でも、『ファイアーボール』のように単体にしか攻撃出来ない魔法は逆に使える。
流石に何度も唱え続ける余裕がないため無詠唱に切り替えて放ち続けた。
カッツェ兄さんは剣の刃に炎を纏わせて斬りつけると同時に灰にさせていっている。
そして、全てのスケルトンが消滅して戦いは終了した。
「お、終わった」
イレイザさんがそう呟いてその場に崩れ落ちた。
そしてそれに続くようにタクトさんも武器を杖代わりにして座り込み、カッツェ兄さんはナーデルさんとフリューゲルさんをあたし達の傍に連れてきた。
「フリューゲルさん、大丈夫ですか?魔力切れですよね?」
あたしがそう聞くと、フリューゲルさんは弱々しく頷いた。
「ごめんね。魔力回復しきれていないうちに魔法を使い続けたから、ね」
上級魔法は魔力を大量に消費する。
だけど、それよりも詠唱省略をしたのが一番の原因らしい。
なんでも、本来魔法は魔力を大量に使うそうだ。
よって、魔法を使える者はほとんどいなかった時代があり、少しでも魔力消費を減らす為に生まれたのが詠唱だという。
詠唱で魔力の調整を構築すれば半分以下の消費で済む。
だから、現代の魔法使いは必ず詠唱をするようになったそうな。
そして、その時の流れと共に無詠唱を使える者はいなくなったのだという。
「回復するにはどうすればいいいんですか?」
この質問にはイレイザさんが答えた。
「寝るのが一番だね。熟睡すれば多少は回復してくれるから。
アイテムを使うとしたらマジックポーションにエリクサーが一般的なんだけどさ、高いからホイホイ買えなくてね。だから、マジックポーションが少ししかなくってさ」
持っているのに使おうとしないって事は使いたくないわけがあるって事か。
「本命の賊に遭遇した時用に使わないようにしていた」
タクトさんの言葉にフリューゲルさんもすまなそうに頷いていたけれど、飛んでもない話だ。
「気持ちは解りますが、今使ってください。そんな状態で本命に遭遇したらそれこそ命取りです。
そして、本命と遭遇した場合ですが、フリューゲルさんは補助魔法に専念してください」
「いや、だけどそんな事したら……」
敵が有利になる可能性が高くなると言いたいのだろうと勝手に判断したあたしはフリューゲルさんの口を手で塞いだ。
「幸いあたしの魔力はまだ少ししか減っていません。あたしは攻撃魔法は出来ても補助魔法が使えません。ならばフリューゲルさんは補助魔法に専念してもらって攻撃はあたしとカッツェ兄さんにやらせた方がいいと思うんです。
先程の戦いであたしは攻撃を受けそうになりました。
ですが、フリューゲルさんの補助魔法のお陰で回避する事が出来たんです。
お願いします。そのようにやっては貰えませんか?」
フリューゲルさんはそれでも何か言いたそうにしていたけれど、あたしに引く気がない事を悟ると渋々マジックポーションを飲んでくれた。
だけど、その対価は大きなものとなる。
攻撃魔法の使い手が一人減ってしまった事により、あたし達は苦戦を強いられるようになってしまうのだから……




