第38話:少なくても最高
美味しそうな匂いに惹かれて目を開けると、トールさんのにこやかな笑みに迎えられた。
「やぁ、おはよう。ミレイさん。よく眠れたかい?」
ん?なんだかオカシイ。
なんだか違和感を感じる。
「ご飯の支度が丁度出来たところだ。こっちにおいで」
なんだろう?いつもと変わらない口調だし、笑顔も変わらない。
一生懸命考えてみたけど全く思い付かないあたしは、取り敢えずトールさんに従って席に着いた。
そして、目の前にあるものを見てビックリした。
なんと、野菜に果物、そして魚もあるのだ。
量は青龍の集落で食べていたものよりかなり少ないけれど、栄養バランスはかなり良さそうなそれをじっと見つめていると、トールさんは申し訳なさそうに謝った。
「これしかなくてごめんね。この量が精一杯なんだ」
「いや、とんでもないです!この食事のバランスの良さは初めてです!なんか、嬉しいやらビックリしたわで……これ、本当にあたしが食べていいんですか!?」
「うん。勿論だよ」
「やったー!頂きます!」
いやん、どうしよう。何から食べよう。
まずはやっぱりお野菜で、それからお魚でしょ?で、最後に果物を味わうのが鉄板だよね!?
あたしは食べる順番を決めると、野菜をゆっくり味わうように口に運んだ。
口の中に青臭さと苦味が拡がる。
元の世界に例えるとゴーヤのおひたしのような凄い苦味だ。
だけど、それが如何にも野菜を食べていますといった感じでスッゴく美味しい!
量は一口で食べ終わる位しかない。だから、それを少しずつ取ってじっくり味わった。
魚は青龍の集落では一匹丸々だったけど、トールさんと半分ずつだ。
それでもどう調理しているのか骨まで食べれて、しかも微かな塩味の優しい味わいがなんとも幸せな気分にさせてくれる。
最後の果物も水分たっぷりで一噛みするだけで果汁が身から溢れてくる。その果汁もあっさりしていて微かな甘味があるという素晴らしさ!
こんな夢のような食事が出来るなんて、今まで生きてきて本当に良かった。
「そんなに美味しそうに食べて貰えるとは思わなかったよ。まぁ、果物は切っただけだけどね」
ん?この口振り。もしかしてトールさんが作ったの!?
凄い!コックさんになれるよ!
「ミレイさんは大袈裟だね。私より巧く作れる人間は大勢いるから」
「そんなことないですよ!本当においしか……っ」
解った!違和感が漸く解った!
「トールさん。なんで、神子様と呼んでいたのに急にあたしの名前を呼んでくれたんですか?」
「何も言われなかったから普通にスルーしてくれていたのかと思っていたよ」
口調で全く気付かなかったけど、そう言えば言葉使いも敬語が完全になくなってる!
あたしが寝ている間に一体何が起きたの!?
「実はね?私も神子だったわけだし、私ぐらいはこうして気楽に話せる相手がいるのもいいんじゃないかなぁって思ったんだよね」
嘘だ。
トールさんは長会議でも調子のいい口調だったけど、あれは本心を感付かせないために敢えて気軽そうに言っていた節があった。
という事は、これからかなり真面目な話をしようとしているに違いない。
そんな気がしたので、あたしは適当な相槌を打たずにじっとトールさんの目を見た。
すると、トールさんは何とも言えない表情で笑った。
「君、実は人間観察得意でしょ?」
唐突にそんな事を言ってきた。
確かに人間観察は得意だ。顔が怖いと言われ続けたあたしは、外に出る時は周囲の顔色を見ながら変な事に巻き込まれないように目立たないように行動してきた。
そうしなきゃDQNな方々に目を付けられたりして苦労する事になるからだ。
だから、笑顔一つでもその変化に敏感だった。
「まぁ、バレちゃったら仕方ないか。早速話をするけどいいかい?
言っておくけど、楽しい話じゃない。だが、神子、いや魔力値が異常に高い君は知らなきゃいけない事だから、ね」
間違いなく碌な話じゃない。
そして話を全て聞き終えた時に、その予感は正しかった事を思い知らされた。




