第36話:まともな武器を手に入れました
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最初はあたし一人で行くつもりだったのだけど、龍人族の長達の猛反対に遭いカッツェさんが同行する事になった。
現場監督はトールさんが引き受けてくれるとの事だったので、開拓の方は大丈夫だと思う。
だけど、旅をする準備に武器や防具は欠かせないとの事で、カッツェさんは武器を鍛えにハインツさんのところへ行き、あたしはトールさんに呼び出されて彼の家に来ていた。
長の中では遥かに最年長なのに偉そうなところは一切なくて気さくな物腰のせいか、あたしには緊張はない。
本当なら緊張しなければならないのかもしれない。
何故なら一番偉い人物といってもおかしくない相手だし、何より只者では決して纏う事が出来ない雰囲気を持っている。
砕けた口調に騙されそうになるけど、絶対に敵にしちゃいけないタイプだ。
ジェイドさんみたく甘くはないし、セレナさんのように包み込む優しさもない。かといってハインツさんのように厳つくないし、ハイドさんのように如何にも武人ですという雰囲気もない。
その気になれば笑顔でどんな残酷な事でもやってのける恐ろしさを秘めていると言った方がいいのかもしれない。
そんな人物なのに緊張する事が出来ないのは危険なのかもしれないけれど、味方ならこれほど頼もしい相手はいないに違いない。
トールさんは、あたしがそんな評価をしているという事に恐らく気付いている筈なのに全く気にならないのか、にこやかにあたしを迎え入れてテーブルに案内するなり早速本題に入った。
「神子様は武器らしい武器をお持ちではないと聞いていたので、もし良ければこちらの武器はいかがかと思い用意したんですよ。と、言っても昔龍神様経由で貰ったものなんですが、巧く使いこなせなかったのでタンスの肥やしになっていたものなんですけどね」
一応敬語だけど、崩れた口調でそう言ってテーブルに置かれたそれは30cm程の丸い武器だった。
丸いのに一目で武器だと判断出来るそれはリング状になっており、リングの外周には鋭い刃が光っていた。
「大変貴重な武器という事で、自由に扱えるように百年くらいは頑張ってみたんだけど相性が悪いのか巧くいかなくて諦めた代物だけど、神子様ならきっと使いこなせると思うんですよね」
……あたしが出来ると思った根拠が知りたい。
だってこれ、チャクラムだよ。ヴィシュヌ神が使っていたといわれるあの武器ですよ。
リングの内側に指をかけて回転させるように投げたり、刃の部分を指で挟んでダーツのように投げて使うアレですよ。
いきなり上級者用の武器を出されても困る。
だけど、定規なんかに比べれば遥かに役に立つ武器だし、何より中二チックな武器を使えるようになったら楽しそうだしカッコイイよね。
それにこのチャクラム、白金らしき装飾は所々なされているけれど、刃の部分は透明でクリスタルのように光を放っていて綺麗なのだ。
これを自在に使えるようになるだけでも魅力的だと思いません?
「是非使わせて頂きます」
「神子様ならそう言うと思ってましたよ。では、早速試してみましょう」
ん?試す?何処で?
そんな疑問を抱くあたしをよそに、トールさんは意気揚々と林に近い森の奥へとあたしを連れていった。
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「これは……なんなんですか?」
試し投げの場所として案内されたのは、大岩を隠すかのように多い尽くされた蔦が繁る小さな広場だった。
その蔦は樹液なのだろうか透明の粘着力がありそうなゼリーを垂れ流し、そのゼリーはまるで生き物のようにうねうねと動いている。
「スライムだよ」
え?スライムってあの始まりの街の周辺に出没し、冒険者がレベルアップする間苦しめるゲームの王道キャラの事!?
いや、だけど、スライムって青くて丸い可愛い存在じゃなかった?
目の前にいるのはどちらかというとアメーバーだと思う。
「このスライムはまだ生まれたてだから敵を認識する事も出来ない状態なんだよ。だから攻撃しても反撃はして来ない。時々親だと誤解して飛び付いてくるのが厄介なとこだけど鍛練にはいいと思いますよ。
一応彼らも魔物だから一応体の中央に核がある。それを破壊すれば死ぬからやってみてください」
やってみてくださいと言われてもなんか良心が咎めるのだけど……
だって、生まれたてを殺すなんて可哀想でしょ?
「あ、もしかして可哀想とか思っているのかな?
スライムも魔物だからね。早めに駆除しないと民を襲う危険な存在となる。
彼らは雑食だから成長すれば民だけではなく農作物も食べてしまう。確かに生まれたては無害だけどそのままにはしておけないんだよ。ですから良心の呵責に悩む必要はありません」
という事は、害虫駆除と同じと考えればいいのか。
田畑を害虫から守る蜂だって都会にいると駆除されちゃうもんね。
……よし、やるぞ。
「お、やる気になって頂けたようだね。では、まずは私がお手本を見せるから同じようにやってみて下さい」
トールさんはそう言うと二枚のチャクラムを両手に持ち、指をリングの中に入れるとそれを回転させ始めた。
そしてスライムに狙いを定めると、二枚同時にそれを投げた。
トールさんの手から離れたチャクラムは円を描くように飛んでいき、その軌道上にいたスライムの身体を斬り付けて再びトールさんの手に戻ってきた。
斬られたスライムは赤く光る核を傷付けられて八方に散らばって霧のように消えていった。
「まぁ、こんなところかな。一方向にただ投げるだけでもいいけど、そうすると武器を回収しなきゃならないから相手に攻撃の隙を与える。それを予防する為に5枚あるわけだけど、敵がそれで全滅してなきゃ危険だという事には代わりはない。だから、こんな風に円の軌道をイメージしてその軌道上で敵を仕留めて戻ってくるように投げるのが一番だと私は考えている。
他にも礫のように投げる方法があるけど、これを手元に戻させるには投げる時に指先で下側に力をかけるようにして投げる。そうすると後退回転がおきるから手元に戻ってきてくれる。力加減が難しいから数をこなして身体に覚え込ませるしかない」
そう言いながらトールさんは、ダーツのようにチャクラムを投げて再びスライムを仕留めて戻ってきたそれをキャッチした。
凄く自然にクリーンヒットさせているけど、本当にこれで才能がないのだろうか?
あたしは、そんな疑問を抱きながらチャクラムを受け取った。
36話でやっと定規が武器ではなくなりました。
でも、定規、一度も使われる事なく終わりましたね……




