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第21話:初めての商談【1】

 



「初めまして、神子様。私はグリック商会を経営しておりますユーリ・グリックと申します。

 こうして御目に掛けて頂く機会を与えて下さり誠に有り難く存じます」

「……ミレイ・サトーと申します。この度は遠路よりの御足労ありがとうございます……」


 応接室で待っていた男を見て少しがっかりした。

 いや、別に彼が悪いワケじゃない。

 RPGのような世界だから、RPGのようなマントを羽織った煌びやかな男をイメージしていたからだ。

 ほら、例えばギリシャ神話とか古代ローマの人みたいに膝丈まであるチュニックで、帯を巻いて着用するヤツ。

 あれを想像していたのに、19世紀位の格好なんて……詐欺だ。


「この姿はお気に召しませんか?」


 つい、顔に出ていたのか、グリックさんは自分の服を引っ張りながら困ったように微笑んだ。


「神子様ならこの姿、御気に召して頂けると思っていたのですが、残念です」


 やはり先進的過ぎたか?という呟きが聞こえて来た。

 ん?先進的ですと?と、いう事は彼の格好は標準じゃないって事だよね?


「あの!一般的な人はどんな格好をされているのですか?チュニックとかスブクラですか!?」


「ちゅ、ちゅにっくといわれる物がどのようなものかは不勉強で申し訳御座いませんが存じ上げません。ですが、平民は襟は無くこうして頭から被るスリット付きのシャツで、飾りは御座いません。

 貴族は首から顎を覆うかのような襞がついたシャツや襟が方を覆うほどに大きなレースの襟をしたものを好まれております」


 よし!辛うじて中世だ。

 やっぱりRPGはそうじゃなきゃだよね。

 RPGのような世界に来て、RPGを感じない服装というのはなんか残念だもん。


 ほっとして、グリックさんを見ると、彼は何かを観察するようにあたしを見ていた。


 はっ!いけない!ここには商談に来たのであって雑談をしに来たわけじゃない!

 つい、脱線してしまったけれど、この商談が龍人族の未来を左右するといっても過言じゃない。

 あたしは、気を引き締めて本題に入る事にした。


「つい、取り乱してしまい申し訳御座いません。どうやらグリックさんは先進的な感性をお持ちのようですね?」


「ええ。商人たるもの、常に世情に通じなくてはなりませんが、同時に新しい風を呼び込む事も重要と心得ておりますので」


 グリックさんは、あたしの表情が変わったのを見て、目を光らせた。

 本題に入ったと認識したに違いない。

 ならば、先程の話題を利用して話を勧めよう。


「先程の話からすると、一般の方は動きやすい服装で、貴族は飾りのついた生地の多い服を好んで着ていらっしゃるようですが、洗濯はどの程度されているのでしょうか?」


「……一月に一度あればいい方だと存じます。裕福な貴族等は常に新しい服を購入されておりますね」


「では、入浴はいかがでしょうか?」


 微かにグリックさんの眉が動いた。

 世情を知らない相手との商談が上手くいくわけがないと感じたのか、瞳の色が呆れたような色に染まっていった。

 だけど、流石は商人。その様子はほんの一瞬で、直ぐに商人独特な作り笑いを浮かべて答えた。


「街には沢山の人々が住んでおりますが、水は都心部であればある程貴重なものです。小さな桶に満たした水に生地を湿らせて身体を拭くのが主流であり、入浴となると大貴族でもない限り困難と存じます」


「確かに。グリックさんは大商人だとお聞きしています。そんな方でさえ臭いがキツイ」


 そう言われ、グリックさんの表情は明らかに不快なものに変わった。


「失礼。本日は商談という事で窺ったのですが」


「侮辱を与えるために呼んだのか」という、怒りの感情が伝わってくる。

 後ろで、奥さんがおろおろしているけれど、あたしは平静を装いながら首を振った。


「勿論、商談ですよ。成程、理解しました。仮にも名のある商人ともあろうお方が簡単に感情を剥き出しにされる。

 つまり、臭いに関してはグリックさん自身も気にされてはいるが、どうしようもないと諦めていらっしゃるわけですね?」


「……神子様が香水を好まれないとの事でしたので、敢えて使わなかったのです。それでも衣服は本日初めて袖を通した物です。ですから香水を敢えて使わなくても臭いを抑えられると判断したというのにそれを台無しになさるのは如何に神子と言えどあんまりでは御座いませんか?」


 思った通りだったらしい。

 グリックさんは平常心を保とうと格闘しながら悪臭の弁明をしている。

 このくらい怒らせれば充分かな?


 あたしは、ミョウバン水の入った瓶を机の上に置いた。


「まずは、先程の無礼な言葉を詫びさせて下さい。香水を拒んだのは、この水を試して貰いたかったなのです」


「それは?」


「魔法の水です」


 あたしは訝しがるグリックさんに笑顔でそう返答した。




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