第19話:禁止令と飴ちゃん作戦
例の方法であたしは人を集めると、早速禁止令を発令させた。
「皆の者よく聞くがよい!今後、人肉を食する事を禁止する。例え死体であっても口にしてはならぬ」
人々から困惑の声が上がる。
この様子だと、襲った事はなくても人肉をみんな食べていたに違いない。
「私の命に逆らい、人肉を相変わらず口にしている者を発見したら即座に罰を与える」
そう告げて、あたしは雷を上空で光らせて脅した。
「だが、私とて鬼ではない。代わりに私が食物を与えようではないか。
そうは言っても貴様らはまだ私の仕事を手伝ってはおらぬ。
よって、まずは具の殆どないスープを与える」
具が殆どないと聞いて落胆する人もいたけれど、それ以上にスープでも人間らしい物が食べられると聞いて、喜ぶ人の方が多かった。
彼らだって好んで人肉を食べていたわけではないのだから当然の反応だろう。
「まだ喜ぶには早い。私の前に整列して並び、手にした食事は私の慈悲と思い、一口ずつゆっくり噛み締めながら飲め。
一息に飲み干した者には、私に対する侮辱と判断し、二度とそのものには恵む事はない。心しておけ」
こう脅しておけば、一気飲みとかはしないよね?
言われた通り一列に並び始めてるし。
あたしは空に雷撃を放ち合図をすると、まもなくジェイドさんと青龍の民が大きな鍋を担いで広場に降りてきた。
辺りを磯の良い香りが漂い、鍋の中には湯気が美味しそうに立ち上っているスープが入っており、人々の視覚と嗅覚を刺激する。
そして案の定、まともな食べ物の臭いに我慢出来なくなった者が列から飛び出し駆け込もうとした。
久し振りなのだから無理はないとは思う。
だけど、そんな人間にはあたしは容赦なく雷撃をお見舞いする。
酷いとは思うけれど、最初が肝心だ。
ここで、赦してしまったらこの先も同じ事になる。
勿論、焼けるほどの物ではなく、痺れて動けなくなる程度に力は抑えている。
その程度でも、雷の光を大袈裟に光らせれば、充分周囲には恐怖を与える事が出来るのだから。
「私の言葉に従わなければこうなる。その事を脳髄に叩き込むがよい。
さて、馬鹿の相手をしていては折角の食事が冷えてしまう」
あたしは土魔法で器を作り出し、その器にスープを入れて並んでる人達に手渡した。
あたしの手から直接渡す事で、あたしの慈悲を噛み締めろという意味合いを込めている。
そして、受け取った人達は、言われた通りに一口ずつゆっくりスープを味わっている。
「カッツェ」
「はっ」
特に打ち合わせをしていた訳じゃないけれど、カッツェさんはそう畏まって応答してあたしの口元に耳を近付けた。
「ちょっと集落を回って、動けない人がいるか見てきてくれる?こんな状況が続いているんだから絶対いると思うの」
「はっ。ミレイ様、御前を失礼致します」
カッツェさんは恭しく頭を垂れると、上空へと消えていった。
ねぇ。ちょっと聞きました?
今、初めてカッツェさんがあたしの名前を呼んでくれたよ!
神という事にしているのに、『神子』と呼ぶのはおかしいからだと解っているけど、名前を呼ばれるのって嬉しい!
つい、口許が緩みそうになるのを抑えながら、あたしは給仕を再開させた。
☆
給仕が終わり、暫く経ってからカッツェさんが戻ってきた。
やっぱり動けなかった人がいたらしい。
なので、直接家を訪問しする事にした。
弱っている人こそ栄養を摂って貰わなきゃ手遅れになる。
扉を開けて中に入らせて貰うと、その家には列に並んでいた少年がいた。
彼は、横になっている母親らしい女性の口元に先程のスープに入っていた肉を近付けていた。
あの場所にいた人には一椀ずつしか渡してない。
それなのに、その器の中身はあたしが盛った量のままだ。
と、いう事は、あの肉は自分の分を食べずに、それを母親に与えようとしていたのだ。
いい子だ!自分だって食べたいのに、それを我慢して分け与えているなんて!
(良かった)
まだ、思いやる心を失っていない人がいる事にあたしは胸を撫で下ろした。
大丈夫だ。この地の民は必ず救える!
あたしを見て怯える子供に、それは自分で食べるように言って新しい器に具を入れずに注いで、匙で掬ったそれを彼女の口元に運んだ。
だけど、彼女は弱々しくそれを飲む事を拒否した。
「口に何かを入れるのは辛かろうが、入れねば死ぬ。子を残して逝きたくなければ食うがよい」
子供の為だと言われて、動かない親はいない。
まして、この少年が自分の分を分け与えようとするほどの親だもん。
大切に育てたに違いない。
そして、あたしが思った通り彼女は微かに口を開いた。
あたしは、彼女の首を横に傾けて一匙のスープを流し込んだ。
彼女の喉元が動き、上手く飲み込めたのを確認すると、傍で見守る少年に母親の食事の仕方について色々説明した。
まだ、怯えている様子はあったけれど、母親が食事をしてくれる為なら何でもするといった様子で耳を傾けていた。
これならば、任せても問題ないだろうと安堵したあたしは、その家をあとにして次の家に向かった。




