第18話:本当の気持ち
「お疲れ様でした」
部屋に戻って椅子にもたれ掛かるあたしを見ながらカッツェさんは複雑そうな表情でそう労いの言葉をくれた。
「なんか、変だったかな?」
「いや、そんな事もないですよ。ただ……」
カッツェさんが言いたい事は十分理解している。
「……恐怖政治は良くないと言いたいんでしょ?」
あたしの返答にカッツェさんは目を見開いた。
「判っていて何故、あんな事を……?」
「だって、早く終わらせたかったんだもん」
そう、いつまでもこんな事に裂いている時間はない。
あたしは、早く兄さんを捜しに行きたいんだ。
「セレナさんの言葉にさえ耳を貸す状態にない人間を優しく扱っていたらいつまで経っても終わらない。こうしている間にもこの世界の何処かで、璃人兄さんが危険な目に遭っているかもしれないんだよ?」
「ならば、見捨てれば良かったじゃないですか」
「見捨てる?龍神と約束した事を破ったりしたら、手掛かりが入らなくなるし、兄さんにも顔向け出来なくなるよ。それに……」
「それになんですか?」
溜息交じりにそう問い返すカッツェさんに、あたしは見過ごせない理由を述べた。
「赤龍の民の姿は、他の龍人族の近い未来の姿だから」
「未来の姿、ですか?」
「そうだよ。空を飛べる青龍の民達はまだ安心だけど、他の民達は違う。黒龍の民達は魔物がいなくなれば飢えるだけだし、黄龍の民達だって取引してくれる存在がいなければ終わり。緑龍の民の水は白龍の民の作物を育てるのに必要だけど、黒龍と黄龍の民が赤龍の民のようになれば安全の為に集落を隔離するかもしれない。そうなったらもう絶滅を待つだけになってしまう。
そうなるのが解っていて見過ごせると思う?
あたしなら助けられるかもしれないのに見ていないフリなんて出来ないよ」
そう伝えると、カッツェさんはいきなりあたしに跪いた。
そして、整った顔を朱に染めてそのまま床に頭を擦り付けるかのように頭を下げた。
「神子、すまなかった。
神子が眠っている間、私は彼等を助けようと思ったのは間違いだったと思わずにいられませんでした。
初めはどんなに襲われても神子には初志貫徹して貰おうと思っていたのに、あっさり意見を翻してしまった。
神子には関係ない事だというのに、その神子を私達が利用したにも関わらず、赤龍の民を見捨てろなんて思ってしまいました。
それなのに、神子は何とかしようという思いを強めた。
私は、自分が恥ずかしいです」
放っておいたらそのまま五体倒置でもしそうな勢いだ。
いやいや、ちょっと待って。あたしはそんなに偉くない!
そんな風に言われるような人間じゃないよ!
あたしは、狼狽えながらカッツェさんに頭を上げるように言った。
「カッツェさん、あたしにそんな事しないで。
偉そうな事言ってるけど、あたしだって今すぐ兄さんを捜したい気持ちがあって、強行手段取っちゃったワケだし。それに、いつか青龍の集落も同じ状況になっちゃったらカッツェさんを失う事になっちゃう。
あたしの唯一の友人がいなくなっちゃう未来が嫌だからという、邪な思いも手伝ったというのもあるし」
「……私がいなくなるのは、嫌なんですか?」
「嫌に決まってる。初めての友達なんだよ?絶対に失いたくない」
兄さんに一刻も早く逢いたい。でも、カッツェさんも失いたくない。
近い将来の事もあるけれど、恐怖政治にしようと思ったのはこれ以上カッツェさんが傷付くのは耐えられない。
もし、万が一の事があったらと思うと怖い。
ボッチにはもう戻りたくない。
いや、それでも兄さんが無事だという事が分かって、尚且つカッツェさんが元気で過ごしているという事が分かっている状態ならボッチでもいい。
だけど、この世界の何処にも二人がいない本当の意味でのボッチにはなりたくない!
偉そうな事を言ったけれど、これが本当の気持ちだ。
あたしは、自分の為に強引な方法に出たんだ。
だけど、その事はカッツェさんには伝えたくない。
あたしの我儘で行動しましたなんて言ったらきっと絶交されちゃうから。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、何故かカッツェさんは機嫌が良さそうに口元に笑みを浮かべている。
「解りました。では、私は死んだりしないように頑張りましょう。で、神子は龍人族の未来を健全な方向へ向かえられるよう全力を尽くしてください」
あ、いつものカッツェさんだ。
あたしは、嬉しくなって元気良く頷いた。
「そうと決まったら早速カルデラに向かいましょう。父上が痺れを切らして待っていると思うので」
「あ、そっちはカッツェさんだけ行ってもらってもいいかな?あたしは、広場で皆を集めてから雷を空に打ち上げて合図するから、そうしたら例の物を持ってきて欲しい」
「了解しました。では、私は先に失礼します」
踵を返して去って行くカッツェさんに手を振って見送ると、あたしも行動を開始するべく広場へと向かった。




