㉛ 新しいメンバー
道すがら、鷹志が由理子に尋ねる。
「そう言えば、さっき時空転移した、九尾の狐さんの復活の日付が、随分未来だったような……?」
「そうよ。アレは約26年後の未来だった。」
「……つまり、1999年には何事も起こらないのでは?」
「物事は、実際に観察されるまで、確定はしないのよ。」
「途中をすっ飛ばして未来だけ見ても、安心できないと?」
「そう言う事。いつも伯爵がそう言ってるじゃない?未来は、実際に体験するまで未確定だって。」
「ああ、そうだったね。」
「でも、伯爵に教えてもらったあの日時でしか、確実に九尾の狐に会う手段が無かったのよ。だって大抵の場合、彼女は時の権力者の隣に居たから。そんな所に無理に訪問したら、命が幾つ有っても足りないでしょ?雪子姉さんならヤルと思うけど……鷹志だって、私が危険な事をするのは、嫌なんでしょ?」
「うん、イヤだな。」鷹志は即答した。
そんな事を話しているうちに、赤いビートルは、無事に名護屋テレビ塔の地下駐車場に戻って来た。二人は玉藻前を連れて、エレベーターで亜空間レストランにたどり着いた。
エレーベーターのドアが開くと、目の前にサン・ジェルマン伯爵が、にこやかな笑顔で待ち構えて居た。珍しくバーテンダーの服装だった。まあ、何を着ても良く似合うのだが……。
「ようこそ、玉藻前殿。さあ、こちらへどうぞ。」
彼は早速、妖狐を窓際の景色の良い席に案内し、イチゴのショートケーキの乗った皿を出し、アールグレイの紅茶をテーカップに注いだ。
「さあさあ、まずはお寛ぎ下さい。」
珍しく、随分、丁重なもてなしぶりだった。
「まるで王族のような扱いですね。」
鷹志がコソコソ伯爵に耳打ちする。
「何を言っているのです。今、貴方が目の前にしているのは、千年以上生きた神なのですよ。」
伯爵もコソコソ答える。
「あの時は世話になったな。」紅茶を一口飲んで、妖狐が呟く。
「いえいえ、私は簡単なアドバイスをしただけですよ。貴女は、アナタ自身の能力で、危機を切り抜けたのです。」
へりくだった感じで言う伯爵。
「あの場所で、岩に閉じこもって休眠しなければ、あのしつこい二人の武者に滅せられていた。」
「無事に目覚める事ができて、何よりです。」
「それで……何か私に頼み事が有るのだろう?」
「ええ、簡単な事を一つだけ。」
「何だ?申してみよ。」
「今から3年後の1999年7月某日。この地球に、何かしらの危機が訪れます。その時に、私共の味方に成っていただきたいのです。」
「構わんぞ。お安い御用だ。」
「ありがとうございます。心強いです。」
「それだけか?」
「それだけです。」
「あい分かった。ではそれまでの間、現世をブラブラ眺めに行くとしよう。どうやらニンゲンどもの生活ぶりも、随分変わってしまったようだしな。」
そう言うと九尾の狐の玉藻前は、その場からフッと消えてしまった。
ティーカップの中身も、皿の上のケーキもちゃっかり無くなっていた。
それはまるで、お供え物をちゃんと受け取った、神様のような振る舞いだった。
「由理子さん、鷹志君、ご苦労様でした。お陰様でまた、チームの強化が叶いました。彼女に期待しましょう。」
伯爵は最後にそう言って、二人に満足気な笑顔を見せたのだった。
これで第28巻は終了です。
続く第29巻もどうぞよろしくお願いいたします。




