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118・後日

 魔王との戦いが終った後、俺達はシーマに戻り疲れた身体と心を休めていた。

 その休養も十分に取ってないうちに、俺は咲と共にアルメリアに来ていた。


「魔王を倒す事は敵わなかったが、魔王を封印することには成功した。暫しの平和ではあるが魔王の脅威は去った。皆勇者に感謝しようぞ!」


 アルメリア王国の王城から国民を見下ろし、そう告げながら王様は勇者を紹介した。

 その勇者とは当然俺……では無い。

 エリート君こと司馬翔太と、がり勉君こと大場良二、そして俺と共に最後まで戦っていた結城咲の三人だ。

 いや、実際には封印なんかしてないし、脅威が去ったって言っても魔王軍は全然これっぽっちも被害を受けて無くて健在のままだし、全くもって何を言ってんだこの王様って感じだ。

 魔王との戦いの後、生き残ったほぼ全員が口を揃え、あの司馬と大場の二人は魔王にあしらわれただけで、役に立って無かったと証言していたのにも関わらずこのありさまである。

 咲が無理やり呼び出されて、城下を望む城のベランダに出て二人と一緒に国民に注目されているが、困った様な呆れた様な顔つきだ。


 ちなみに俺は一般人と混ざって咲達を見上げていた。

 俺のような普通の顔の奴は何処にでもある服を着て、国民のフリをしていれば勇者になんて見えないからな。 

 俺が功労者として呼ばれなかった件については、別に怒ってはいない。

 そもそも俺はここアルメリア王国では、あいつ等に万が一が会った時の予備の勇者だった訳だからな。

 ただ何で俺はこの国のお偉い方から嫌われているんだろう?

 聞けば以前のリタの奴隷の件は、国が冤罪だったと認めているそうじゃないか。謝罪の一つも無いけどな。


「あのね陸君、権力者と言うのはね、自分達が決めた事と違う事が起こると、無理にでも自分の決めた通りにしないと気が済まない者達が多いのよ。つまり彼等の中では自分達が認めた司馬君や大場君が勇者として活躍しなければいけないの。自分達の見る目が無かったなどと認める訳にはいかないのよ」


 と後に咲が語ってくれた。

 当の司馬や大場は共に戻った他の者達から引き離され、真実を知らされず王宮の者達から嘘の情報を聞かされていたらしい。

 具体的に言うと「接戦で意識が無くなる程の状態でも果敢に戦い、魔王を追い詰め封印に成功した」と。

 討伐を目的にしてたのに、何時封印の段取りをしていた?

 そもそも誰から報告を受けたのだ?

 咲がいくら本当の事を言っても、俺に騙されていると言って聞かないらしい。全くおめでたい奴等である。


 だがまぁ、奴等が俺を格下だと見下すのも分かる。

 実は奴等と合流してからは冒険者カードのレベル表示を非表示にしてたしな。パーティユニットを組んでも、あいつ等は俺のレベルが分からなかったのだ。

 何故? 王国の押す真の勇者であるあの二人より、俺のレベルの方が高かったらおかしいだろ? 当時俺はあの二人を立てないといけない立場だったんだからな。

 お陰でエリート君とがり勉君は王国の目論見通り、真の勇者として民衆の前に立っている訳だ。

 ……だが、何故だか民衆の声援の中に「勇者陸様万歳!」と俺の名を呼ぶ奴が多いんだが……何で?

 確かにセーラの策略で、妙に俺の名声が高かったみたいだけど。

 あいつ等の内、どちらかが俺と間違えられているとか……いや、そんな馬鹿な事がある訳ないよな……。

 

「はぁ、この茶番が終わったら二人で一緒にシーマに帰りましょう、陸君」


 城に上がる際にそう言っていた咲。

 ……俺は咲に無理やりここに連れて来られて、またトンボ返りでシーマに帰るらしい。

 俺は何しにここに連れて来られたんだ? 何故だか咲は嬉しそうだったが何が楽しいのか……。


 そうそう司馬と大場と言えば面白い話があった。

 なんとこの二人の内どちらかがエリザベートと婚約するそうだ、そう王様が決めたらしい。

 ん? エリザベートはキングス王国の第一王子であるハンスと許嫁じゃ無かったのかって? あ~そのなんだ、死んだ人間とは結婚できないよな。

 そう、あいつハンスは生き残れなかったのだ。あの日セナラナの塔に奴の姿は無かった。

 一応魔王軍のその筋から聞いた話だが、魔王の認めない者が魔王の間に足を踏み入れた不敬は決して許される行為ではないそうだ。人族と違い力そのものを重視する魔族だしな、当然と言えば当然なんだろう。


 つまりハンスは魔王に認められなかった訳だ。ハンスの他にも数名帰れなかった者もいた、戦闘中に転移で逃げ出そうとしてた騎士達とかな。


 それでも全体的に見れば、かなりの者が魔王城から脱出させてもらえた。司馬と大場は良かったな、一応認められていて。

 話は戻るが王の命令とはいえ、あいつ等との婚約をエリザベートは嫌がっているらしい。

 彼女は聞くところによると、勇者と結婚したいと言っていたので良かったのではないかと思ったのだが、何が気に入らないのだろうか?

 見た目だけならあいつ等二人共、俺よりも格好良い男なのにな。

 だが司馬と大場は相変わらず咲に夢中だ。

 特に司馬は咲とは不和になったと聞いていたが元恋人同士だったよな? 咲もこの際に司馬と寄りを戻したらいいんじゃないかと思う。


ハンスとエリザベートの話が出たので、キングス王国クインズ領の公爵令嬢ヴィクトリアの話をしようと思う。

 なんと彼女はハンスの弟と婚約をしたらしい。

 ハンスの弟は兄に似ず恐ろしくまともで聡明だった。

 ハンスを失ったショックで塞ぎがちになった王に変わり、新しく王太子となった弟は今まで王や兄が行っていた無茶な遠征や、侵略を良しとせず、善政を布いているらしい。

 中々の優良物件の良縁だと思うのだが、何故かヴィクトリアは乗り気じゃないらしい。

 ハンスの弟は中々のイケメンらしく何が気に食わないのか。

 親同士が決めた事だから本人の好みじゃ無かったかもしれないが、王侯貴族って気に入らなくても結婚しなくちゃならないよな。気の毒だけど諦めろヴィクトリア。

 

 婚約と言えばクラリッサにも話が来てたと言っていたな。お相手はあの賢者ケビンの息子ジュニアだ。

 あいつまだクラリッサの事諦めて無かったんだな。

 まぁ、以前魔法の都ケビンに寄った時は至極まともになっていたから、悪い話じゃないと思うがな。

 クラリッサは賢者ケビンの弟子だし、息子のジュニアとは兄妹弟子になるから余計にだ。


「絶――――っ対に嫌です」


 とのクラリッサの答えだ。

 生理的に受け付けないのか、クラリッサはジュニアの事をあまり良く思ってないらしい。

 俺としては生理的に嫌がれるジュニアに同情したくはなるが、これは仕方がないのかもしれない。


「そんな事よりいつになったら陸さんは私の家に来てくれるんですか? 今度こそきちんと陸さんの事を紹介しますから、私の大事な人だって……」


 はははっ、面白い冗談だ。

 寝言は寝てから言うんだなクラリッサ。

 俺の事を娘の下僕としか見ていないクラリッサの実家になんて行く筈もないだろう。

 それに俺は知っている。

 クラリッサの実家であるコナー家は、賢者の息子ジュニアとの縁談に乗り気満々であると聞いている。

 家の意向に沿うならジュニアと結婚した方がいいと思うぞ。

 賢者の息子と魔王討伐に参加したメンバーの一人との結婚だ、世間は盛り上がるだろうし、きっと親は鼻が高いと思うがな。


 シーマに戻ったアナとリタの姉妹は、仲間の獣人達と仲良く暮らしていた。俺も基本的にシーマに居る時が多かったので、二人の事はよく見ている。


「ふふ、こんな日が来るなんて思いもしませんでした」

「本当はさ、また姉ちゃんと暮らせるとは思わなかったんだ……夢でも見てるんじゃないかと心配になる時があるよ」


 穏やかな顔と仕草でニッコリと笑うアナと、いつもの元気がなりを潜めてしおらしいリタ。

 二人共、心の奥底では人間に酷い事をされた傷がまだ癒えては無いとは思うが、それでも明るく元気になってくれたと思う。

  そういえば俺が以前セナラナの塔で助けた長女のルナも、一緒に暮らしてるらしい。三姉妹仲良くて何よりだ。

 ちなみにルナ、アナ、リタの三人は獣人達の中で、かなりのモテ具合だそうだ。

 ラウドネルの話じゃ三人共強い上に美形だし、いい縁談話も来てるとか。

 ……え、リタにもか? まだ早くないか?

 ともかく彼女らは貰い手に困らないだろうから良かったよ。

 だが何故か三人揃って家に来てくれと誘いに来るのだが……すまんがそれはできない。

 だってリタ達三人は、酷い目に遭わせられた人族の勇者を恨んでいるからな、俺がそんな危険な所に行ける訳がないだろ?

 ……でもさ、同じ人族の勇者であると言うだけで俺を恨むのはお門違いだぞ? だから俺の事は忘れて、幸せになってほしいものだ。無論、俺の為にな。

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