113・魔王戦 2
魔王は先程と同じ様に玉座から立ち上がると、俺達の前に再度立ち塞がった。
「何度でも倒してやるさ!行くぞ皆!」
「おおーーっ」
隊列を整え魔王に向かい抜刀した後、エリート君達の動きが止まった。先程と全く違う魔王の姿がそこにあったのだ。
単なる黒い豪華な衣服を纏った大男では無く、五メートルはあろうかという巨体と大きな角と翼が生えた、俺達が元の世界のゲームとかで見た魔王がそこに居たのである。
それだけじゃ無い、魔王の左右に小柄な竜の様なモンスターと巨人が脇を固めていた。鑑定によるとアレは召喚されたモンスターでは無く魔王の一部らしい。
それに加え十数匹の小型……と言っても人くらいあるモンスターが俺達に襲い掛かって来た。こいつも魔王の一部らしい。
「俺達が魔王の相手をする! 咲達は他を頼む!」
エリート君が次々と指示を出すが、空は相変わらずその命令を聞かず魔王に向かって一直線に向かって行った。
はぁ、あいつはそう言う奴だよ。
まぁ、確かに竜と巨人もどきは何とかしないとな、あと細かいモンスターも。
海は肩を竦め竜に向かって走り出した。
イケメンズとリリィがそれに続く。あいつも先にアレを何とかしないといけないと思ったんだろう。ロリコンでなければ比較的まともな奴なんだがな。
こっちは巨人を何とかするか。
「いっけー!」
アナとセーラから強化を受けたリタの弓による一撃が巨人の肩を抉る。
「【猛雷】!」
続けてクラリッサの魔法が巨人を襲った。
それでも巨人は多少ふらついたものの、真っ直ぐ俺達の方へ向かって来て、その剛腕を振り上げた。
巨人の正面に立つ俺。手にはセナとラナから貰った形の違う双剣が握られていた。
巨人の拳が俺に襲い掛かる前に、浮遊魔法と重力魔法をかけ合わせた高速空中移動魔法で一瞬のうちに巨人に接近し、奴の両肩にそれぞれ一撃づつ剣を振り下ろした。
ちなみにこの魔法は賢者ケビンが作った魔法だ。
咲が試練を受けた時に賢者から貰った最新鋭の魔法なのだ。こんなのを開発してしまうなんてやっぱり凄いよな、あの爺さんは。セナとラナと違って魔法を合成するのが得意みたいだ。
それにしても……この巨人、思ったより柔らかいな、剣はそのまま巨人の身体を突き抜け、その巨体を四つの肉片に変えた。
「ええ~、瞬殺……私の出番が無かったじゃない、陸君」
咲が不満げに言うが、まさか倒せるとは思わなかったんだよ。
海の方は俺達の様にはいかなかった様だが、かなり押しているので何とかなるだろう。
その合間に小型のモンスターを駆逐していく、エリザベート達がかなり苦戦していたので手を貸してやった。
「す、すまない陸様、私が危ない時には助けに来てくれるのだな……」
「あ、ありがとうございます陸様、やはり陸様は頼りになりますわ」
さっきまでエリート君達を褒めていたのに現金なものだ、まぁ王侯貴族なんてこんなものだろうから、気にはしないがな。
「ぐああああっ」
「うおおおおっ」
叫び声を上げてエリート君とがり勉君達のパーティが宙に放り上げられ、そのまま地面を転がって行った。
視界の隅で見えたが、魔王の右手の一撃でエリート君のパーティが、左手の一撃でがり勉君のパーティが吹き飛ばされたのである。
空は上手く避けている様だが、いつもらってもおかしくない様子だ。
「エリザベート様、ヴィクトリア様。エリ……じゃなくて勇者達の手当てをお願いします」
「分かった、任せてくれ」
「承知いたしましたわ」
魔王の一撃に反応も出来ず、まともに食らったんだろうエリート君達はピクリとも動かない。
……死んだか?
まぁ、あいつ等の事はエリザベート達に任せよう。
「くっ」
空が横にした剣を盾に魔王の攻撃をいなそうとするが、完全に力を逃がしきれず後方にすっ飛ばされた。
アニーを含めたパーティメンバーが、地面に叩き付けられる空を庇う様に下敷きになった。何気に上手くやってんな、あいつ等。
魔王は対峙していた者達が目の前に居なくなったのを確認すると、奴は距離の離れた俺達を襲う事無く、その場で腕を組み俺達を見渡した。
「ふむ、我が分体では相手にならぬか、してお前達が残ったという事は、これからが本番という事でいいな?」
肌の色が黒く、目が赤い魔王がニヤリと笑う、ちょっ……怖いんだけど。
「おい陸、お前が中心になって戦え。悔しいが俺様の攻撃は正面からはまともに通らねぇ、隙を見つけて叩き込むしかねぇ様だ」
……意外だ、俺様思考の空がこんな事を言い出すなんて。魔王の第二形態より驚いたよ、何か変な物でも食べたか?
「空君随分素直だね。いや、いいよ、凄くいい。僕も同意見さ、残念ながら魔王にダメージを一番与えられそうなのは陸君だからね」
海の奴も空の意見に同意する。
俺は空みたいに進んで前に出て行くのはあまり好きではないのだが、今の状況なら仕方がないか。
俺のパーティが魔王の正面に立ち、左右に空と海のパーティが配置に着いた。
魔王はそれを腕を組み黙って見過ごしている。どうやら仕切り直しのようだ。
「では再開としよう、我を楽しませてくれよ勇者諸君」
巨大化した魔王の口角が更に上がり、怖い顔が更に怖くなる。
子供が見たら泣き出しそうな顔だ。正直俺もこの状況に泣きたい。
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「【轟雷】」
魔王の間に雷の嵐が暴れ回る。
俺が唱えた魔法ではない。魔王ギディオンの魔法だ。
やっぱりな、魔王なら使えるよな最上級魔法くらいは。
俺達三組のパーティを飲み込む効果範囲に容赦なく雷魔法が降り注でいた。
俺より魔力が強い、魔王の【轟雷】をまともに受ける事になれば、俺とセーラ、アニー、リリィ以外は全滅しかねない威力だ。
だが、俺達の味方をしているセーラとアニーそしてリリィの三人の魔法障壁によって魔法を防いでいてくれていた。
轟系は呪文が長く、呪文を唱え始めてからでも魔法障壁の展開が間に合うが、問題はその防御力だ。
この三人の魔法障壁はかなり優秀だが、魔王の魔法は更にそれの上をいく。
【轟雷】を受けた魔法障壁は一撃で破壊され、その防ぎきれなかった雷が俺達を襲った。とは言え、威力自体はかなり落ちているので全滅するような事はない。
正直セーラ達三人がいなかったらとっくに全滅してただろうな。魔王、強すぎだろ……。
魔王の呪文を邪魔する為に詠唱中に攻撃を仕掛けてみたが、詠唱が止まる気配はなかった。魔王の特性か能力かは知らないが、魔法はまず食らうことになる。
まぁ、魔王の攻撃は魔法だけじゃないけどな。
魔王の目の前、パーティの最前線で戦う俺は物理攻撃も十分に怖い……。
「かはっ!」
「陸さん」
「陸様」
俺は魔王の攻撃を避けきれずに食らった。
幸い直撃はしていないが、かなりの体力を奪われた。つかさず俺に回復魔法が飛んで来る。
戦闘中に何度かまともに直撃を食らったが、回復出来なければ二回耐えきれるかどうかだ。ちょっと洒落にならない。
この攻撃を食らったエリート君達は、只じゃ済まなかった事を改めて実感した。
ここから離れた位置でエリザベート達に介抱されている筈だが、その様子を確認している暇はない。
自らもダメージを負っているのに、魔王は楽しそうに俺達と戦闘を繰り広げていた。このバトルジャンキーめ。
俺なんか直ぐに回復魔法で癒されると言っても、食らった瞬間は馬鹿みたいに痛いし、泣きたい気分なのにな。
本当にヤバいのは強力過ぎて痛みが感じられない程のダメージだ。
そんなのはヒーラーを信じて直ぐに治癒してもらわなければ、ダメージが大きすぎて死にかねない。
正直俺が倒されたら、なし崩し的に戦列が崩れるだろう。
他の者じゃ魔王の攻撃を捌き切れないと思う、いや本当に。
空と海は先程の打ち合わせ通りに、俺と魔王が戦っている間の隙をついてマメに攻撃を入れている。
塵も積もればと言うが、累計では結構馬鹿にならないダメージを与えているだろう。
それ以外のアタッカーは遠距離武器で攻撃を加えてるが、こちらはあまり効果が無い様だ。だが何もしないよりはよっぽどいい。
魔王は回復魔法を使わないのかって? 使うに決まっているじゃないか、この馬鹿みたいに長い戦闘時間はその為だよ。
幸いにして魔王は元々の体力があり過ぎて、回復魔法を使っても全回復することは無い。
ん? どんな状態でも全回復する魔法や薬品?
無いよ、そんなチートなものは。
そんな便利なものは大昔の伝承にある本の中に記載されているが、本当かどうかも怪しい。
まぁ、実際馬鹿みたいに体力がある魔王やアルティメイトモンスターの十二将でも無い限り、最上級回復魔法【快癒】や最上級ポーションでほぼ回復するし、一般の冒険者ならそれで全回復するしな。
おおっと戦闘中だったな、集中しないと。
要するに勝敗の結果は、魔力と薬品が底を尽いた方が負けという事だ。




