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110/122

110・フラグ

 アニーとリリィと別れた後、俺も部屋に戻ろうと回れ右をしたところ、肩を掴まれた。言うまでもなくセーラにだ。


「あの~セーラさん?」

「ふふふ、逃がしませんよ~、陸さん~」


 いやいやいや、怖いって。

 セーラに「相手は魔王です、私の真名の加護が無ければ死んじゃいますよ?」と言われれば帰る訳には……。

 いや、脅しだとは思うが……だがしかし……。

 悩んでる間に、グイッと腕を組まれ塔の中に連れ込まれる俺。そこには見知った顔が二つ。


「お二人様ご案内です」

「お大事にです」


 待て待て双子、お前等もグルかよ! それにお大事にって何だよ?

 気付くと以前セナとラナから真名の加護を貰った時の白い空間の中に居た。

 多分ここは隔離された場所なんだな。案の定、転移魔法も作動しない、参ったな逃げられないって訳だ。


「陸さん、もう見えるんでしょ?」


 何が? と思ったがセーラが自分を指差す仕草をしたのでピンときた。


「ああ、最近だけどな、やっとセーラさんのステータスが見えるくらいにはレベルアップ出来たよ」


 格上の者のステータスが鑑定魔法で見えるという事は、それだけその者のレベルに近付いた証拠である。差があり過ぎると鑑定自体が失敗してしまう為だ。

 実質魔王軍のナンバー2のセーラにやっと手が届く所まで来た訳だ、異世界から来た勇者特有の成長補正があるとはいえ、正直大変だった。


「本当の事を言うとね、陸さんは私をどうにか出来るレベルまで上がったら、何となくだけど私から逃げるんじゃないかと思っていたのよ……でも陸さんは変わらず私の傍に居てくれるんですね」


 少しはにかみ、いつになくお淑やかなセーラだった。いつもこんな感じなら俺だって邪険にしないのにな。

 確かに何度か逃げようとはした、だがセーラには魔王の命令だったとしても、ここまで育ててくれた恩もある。

 育て方に難があったり彼女の思惑はどうあれ、俺は恩を仇で返す真似はしたくはない……いや、出来るだけ善処しようと思う。

 ……それにしても確かに訓練は厳しかった。

 もうあの訓練は虐めかと……いや何度殺されるかと思ったか。

 嘘か本当か、蘇生魔法を使った事があるって聞いた事もある。絶対やり過ぎだ、やっぱり訓練じゃないよな、虐めだよな……。 


 さて、それはさておき、ここから安全に出る方法を考えなければ。

 セーラにあまり刺激を与えるのはよろしくない。

 穏便に話を持っていって何とかここから出してもらおう。勿論セーラの機嫌を良くする為におだてるのを忘れない。


「セーラさんはあっちでは聖女様、こっちでは魔王の娘にして十二将のトップだ。俺にしてみれば高嶺の華だし、俺とは釣り合わな過ぎ……」


 話の途中でガバッといきなり抱き付かれた。しまった台詞のチョイスを間違ったのか?!


「馬鹿ですね~、本当に馬鹿です……」


 反則的なセーラの胸に埋もれて俺の意識は白い靄の中に埋もれていった……ええ~これってセナとラナの時と同じパターンじゃん。せめて意識を保て俺! 頑張れ俺! ……あっ無理だわ、コレ……。


 …

 ……

 ………

 …………はっ!


「ふふふ、お目覚めですか~、陸さん~」


 気付けば最初にセーラと出会った時と同じ様に膝枕されてる俺……この世界の女は膝枕をしてあげるのが好きなのだろうか? 

 まぁ、嫌いじゃ無いからいいけどさ。

 セーラはいつもの調子に戻って……いや、いつも以上にニコニコしていて機嫌が良さそうだ。

 心なしか肌艶も良い気がする……。

 ……。

 ウオオオオーーーー、俺何をされた?! 記憶が無ぇ――――!

 ちらりとセーラを見ると笑顔を更に破顔させ一言。


「とても良かったですよ~うふふふふ」


 何をだぁ――――! 

 せめて何をどうされたのか……思い出せ俺!

 ……無理でした。何となく聞くに聞けない雰囲気だし。

 ……ふっ、落ち着け俺、犬に噛まれたと思って忘れるんだ……。

 何も無かったのだ、何も。


 セーラから真名の加護を貰っても俺には特に違いは感じられない。以前のセラとラナの時もそうだったが。

 レベルが上がる訳では無い。基本的な能力、ステータスと言うやつだな、それの底上げと、様々な効果のある能力が付与されてはいるな。

 まぁ同レベルの者同士なら違いが歴然と分かるんだろうが、生憎俺と同レベルの勇者はいなかった。

 咲は頑張っているので、そのうち空と海のレベルを超えそうだが、その前に魔王と戦わなくちゃならないのがおしい。

 国の押すエリート君とがり勉君にはもっと頑張って欲しかったんだが、あいつ等は戦力になりそうにないしな。

 勇者でも無いキングスの王子ハンスはエリザベートとヴィクトリアを抑えておくのに必要なだけで、戦力として期待できないのは言うまでも無い。

 まぁ、あいつ等多分魔王に殺されるが仕方がないだろうな。


「あっ陸さん……あれ?」


 散歩でもしていたのか、セナラナの塔から出て来た俺を見つけたクラリッサに声をかけられた。


「どうしたんだクラリッサ?」

「どうしたんですか~?」


 俺だけじゃなく横に居たセーラもクラリッサに問いかけた。

 それに対し眉間にしわを寄せ、何やら考え込む様子のクラリッサ。


「あの、二人で……何かありました?」


 おいおい、鋭いな。セーラはそれには答えず「うふふふ」と笑っているだけだ。


「いや、別に何もないよ」


 俺の頭には何も記憶されてない。だから俺にしてみれば本当の事なのだ。

 クラリッサは俺とセーラの顔を何度も見直しながら、納得していない様子だ。セナとラナ時は何も言わなかったのに何故に今回だけ?


「最初にこの塔に来た時も何か怪しかったんですよね、あの双子と……」


 しっかりとバレてた。超能力者かお前!


「ふふふ、じゃあね陸さんクラリッサさん」


 何やら余裕のある態度で俺とクラリッサから別れ、ステアの町の宿泊施設に戻るセーラ。 

 それを見送ると、思い立ったようにクラリッサが俺に向き直り、顔を真っ赤にしてどもりながら話しかけて来た。


「り、り、陸さん、この戦いが終わったら私と一緒にコナー家に来てください、こ、こ、今度は前回みたいに酷い事には絶対になりませんから!」


 断る! と即答したいが、これから共に魔王と戦う仲間同士だ、へそを曲げられてコンビネーションがガタガタになった日には目も当てられん。

 ……それ以前に言わねばならない大事な事があるがな。


「クラリッサ、俺のいた世界では大事な戦いの前にした約束や誓いなどは、死亡フラグと言って不吉な約束で叶わない事が多いんだ。戦いが終わってからまた改めて話してくれないか?」

「えええ! そ、そうなんですか、すみません陸さん……」


 よし、先延ばし成功だ。

 トボトボと肩を落としたクラリッサとステアの町に戻る。

 くくくっ、残念だったな。事が終わった後に俺を取り込もうとしても無駄だぞクラリッサ。

 宿泊施設の入り口に入るとアナとリタそして咲がホールに居て、俺を見つけると三人揃って傍まで走って来た。何だ、何事なんだ?


「あの陸様、陸様は魔王との戦いの後はシーマの町に居て下さるのですよね?」

「なぁ陸様、シーマの獣人達は陸様がシーマに住んでくれるって信じてるんだ。そうだよな? 陸様」


 だからお前等それは死亡フラグだって……

 こいつ等が揃ってそんな事を言い出すなんて、セーラが余計な事を言ったに違いない。

 あの女は俺が嫌がる事をするのが生きがいなんじゃないかと思う時がある、いや本当に。

 アナ、両手を胸の前に会わせて懇願しても無駄だぞ。

 シーマに住んでいる獣人全員では無いが、基本的に獣人は人間を嫌っていたり恨んでいる者も多い。

 小さい子供を奴隷として使役してた俺と同じ勇者に対しては、特に恨みつらみが多い筈だ。そんな所に住める訳がない。

 咲が一歩前に出てアナと俺の間に割り込む。

 だからお前いつも近いんだよ、女なんだからそうホイホイ男の近くに寄るな。

 ……まさかハニートラップの真似事でもしているつもりか?


「陸君は私と一緒に、元の世界に戻る為の手掛かりを探す為、旅に出る予定です」


 咲がそう宣言をする。

 そのつもりではあるが、咲と一緒に行くつもりは無い。お前はエリート君達と行ってくれ。

 それ以前にそう言う話は駄目だっての、元の世界が同じ咲まで言い出すのはどうなんだ?

 まぁ、咲は真面目なのでオタクがよく使うフラグって言葉の意味自体、知らなそうだがな。「旗って何」とか言いそうだ。

 しかし流石にセーラに手が届く強さまで成長した俺を、こいつ等は取り込もうと画策し出したな。全くもって現金な奴等だ。

 

「皆さん、そう言う話は無事魔王を倒した後にすべき話だと思います」


 さっき自分が言ってた事を棚に上げ、クラリッサがそう皆に提案する。

 皆暫し考えた後「そうね」と口々に納得した。

 うん? この世界にも大事の前に希望的な発言をすると、よろしくないという風潮でもあるのかな?

 俺達が召喚される以前にも勇者として召喚の儀式が行われたと言うし、死亡フラグはその時に召喚された勇者が広めたのかもしれないな……知らんけど。

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