106・合格
魔法の都ケビンに立ち寄る事を条件に、王都アルメリアまで同行することを了承した俺達は、俺やセーラの転移魔法を使わず陸路を使い、気分転換ながらに魔法の都ケビンまでの道中を楽しんでいた。
何しろ迷宮に入り浸りだったので仕方がない。
まぁ、たまにアリアスやタウタス等十二将に模擬戦を挑んだりして外に出る事はあったが、今みたいに旅行気分では無いので気休めにはならなかったからな。
アルメリアに帰るには迷宮からカインの港まで行くことになるが、ケビンに立ち寄るとなるとかなりの大周りになるので、却下されると思ったのだが、あっさりと了承されたので驚いた。
まぁ、急ぎの用ではなかったのかもしれないな。
ただ呼んでるのはアルメリアのお偉い人達だと思うから、いいのか? と思わんでもないが。
エリート君達の乗る豪華な馬車とは違う、一般兵士用のボロイ馬車に揺られながらのんびりと移動をしていた。
この辺は治安も良く盗賊などもめったに出ない。
第一、勇者が多いこの一行に襲い掛かる馬鹿が居たら笑いものだ。
まぁ、あっちからしたら誰が乗ってるか分からないから仕方がないか、運が悪かったと思って諦めてもらうしかないだろう。
エリート君達との馬車の配置も、支援部隊の騎士が乗る馬車や荷馬車が数台間に入り、分け隔たれていて顔を合わせる事も無かったのだが、休憩の度にエリート君やがり勉君が咲に会いに俺達の乗ってる馬車までやって来るので、邪魔で仕方なかった。
その度にあっちのパーティの女子達が連れ戻しに来るのだが、エリート君達は全く懲りずに咲に付きまとっていた。
……お前等、咲のストーカーみたいだぞ。
賢者ケビンの館に行くと、息子のジュニアと偶然に顔を合わせた。
ああ、ここが奴の家だから会うのも不思議じゃないか。ジュニアと言ってもいいオッサンだけど。
彼はまたクラリッサに言い寄って来るかと思いきや……。
「これは勇者陸様、ようこそおいで下さいました」
深々と頭を下げ俺達を出迎えてくれた。
……どうした? 変な物でも食べたのか?
「しばしお待ちを、只今父を呼んで来ますゆえ、奥の部屋でお待ちください……これ君達、勇者様をご案内しなさい」
俺に丁寧な言葉を使い再び頭を下げると、使用人に俺達を案内させた。
……やっぱり、どこか頭でも打ったんじゃないのかこいつ?
一緒に来ていた咲とアナを除くパーティメンバーもポカンと口を開けていた。
特にクラリッサの呆け方が酷い、自分で何度も頬をつねっていた程だ。
顔の形が変わりそうなのでもうやめた方がいいぞクラリッサ、せっかく顔は可愛い顔しているのに。
ちなみにこの都に一緒に来たエリート君達は、屋敷に案内される事は無かった。
咲の話では前回ここへ来た時に、勇者としての資質と力量を試されたが賢者の納得のいく結果が得られずに、秘伝とされている魔法を授かる事が出来なかったらしい。
はは~ん、それって俺がここで貰った、収納魔法と鑑定魔法、そして転移魔法の事だよな。
どうやら王国の威光もこの都では意味の無いものらしい。
左程待つことも無く、この町の領主であり賢者でもあるケビンが俺達の前に姿を現した。
「よくぞ来てくださった勇者陸殿、歓迎いたしますぞ」
いかにも好々爺という笑みを浮かべ、両手を広げながら俺達を迎えてくれた賢者ケビン。
俺と初めて会った時とはえらい違いだ。
「ちょっと陸君、賢者様とどういう関係なの? こんなに笑った賢者様始めて見たわ」
咲が小声で俺に耳打ちをした。
そうなのか? まぁ、色々あったからな。結果オーライと言うやつだ。
「賢者ケビン様お久しぶりです、お元気そうで何よりです」
俺は賢者ケビンに頭を下げ礼を言った。
彼には便利魔法を譲って貰った恩があるし、何より高位の賢者である大賢者のこの爺さんに、敬意を払うのは当然であるからだ。
俺を認めてくれている数少ない御仁だしな。
「よいよい、して何か困った事でもできたのかのぅ? それとも何か頼み事でもあるのかな?」
「流石賢者様、お見通しですか」
俺がそう言って頭を垂れると、賢者ケビンは白く長い髭を撫でながら、ふぉふぉふぉっと人懐っこい声で笑った。
「ここに居る勇者咲の力を見ていただきたいのです」
「ふむ、以前他の勇者達と一緒に来た者じゃな。あの時より良い面構えになっておる、良いじゃろう何より陸殿の推薦じゃ、断るわる訳にもいくまいてふぉふぉ」
快く快諾してくれた賢者。例により賢者様本人ではなく息子のジュニアが咲の力量を測る為に相手になってくれるらしい。
そして……。
「まいりました……」
ジュニアは降参を宣言した。試験は数発の魔法を撃ちあっただけで、あっさりと終わってしまった。
そりゃそうだ、今の咲はあの時の俺と大差ない。いや、ひょっとするとそれ以上の強さになっているかもしれない。
晴れて咲も賢者の認める勇者となった訳だ。勿論俺が貰った便利魔法三点セットもゲットした。
「こんな貴重な魔法本当に宜しいのですか、賢者様」
「ふぉふぉふぉ、構わんよ、元より真の勇者に授けるのが賢者の勤めなのじゃからな」
「わ、私が、真の勇者……紛い物じゃ無い本物の……ありがとうございます賢者様」
満面の笑みの咲。
よし、これで咲が勇者のトップとして王国に認められるだろう。俺の生命の危機が少し遠ざかって安心だ。
賢者ケビンとジュニア達に見送られて屋敷を出るとエリート君達が待ち伏せていた。
いや、表現が悪かった、単に咲を待っていただけだろう。
「司馬君、大場君、私凄い魔法を貰っちゃった。これでアルメリアまで帰りましょう」
「はっ? 何を言ってるんだ咲、ここから王都アルメリアまでどれだけの距離があると思うんだ」
「柏木と一緒に居たせいで、咲までおかしくなっちまったのか……」
「おかしくなんてなってないわよ、失礼ね! 司馬君と大場君は私が運ぶわ、陸君悪いけど他の人達をお願い、私にはゲート型の大規模転移魔法は使えないから」
咲にお願いされ俺は頭を縦に振る。その姿を見た咲がいい笑顔で笑うと次の瞬間に一瞬で咲達三人の姿が消えた。
俺が咲から頼まれた大規模転移魔法は巨大な扉状のゲートを出現させそこを通り抜ける事で別の場所への移動が可能となる。
セナとラナが開発し、アルティメイトモンスターのアリアスから貰った戦略的転移魔法だからな、大人数の転移が可能なのだ。
まぁ、魔力もそれなりに使うが。
しかし馬車と船を使って、ゆっくりとアルメリアに行くんじゃなかったのか? まぁ、いいけどさ
俺達のパーティが転移門を抜けた後、残ったあいつ等のパーティメンバーと支援部隊の騎士達が、恐る恐る門を通り抜けて来た。
彼等は転移先の景色を見るなり驚嘆の声を上げたのだった。
「凄い、凄いよ咲! 本当に転移魔法だ」
「まさか賢者に認められたのか、やるじゃないか、流石は咲だ!」
転移先には既に咲達三人が居て、咲の手を握り大喜びのエリート君とがり勉君が飛び回っていた。
おや? あいつ等のパーティメンバーの女子達は面白くない顔をしてるぞ。
ああ、せっかく咲が体良くパーティから出て行ってくれたのに、憧れの勇者様がまだ咲にご執心なのが気に食わないのか。
……あれ? エリート君と咲って付き合ってるんじゃないのか?
まっ、俺には関係ないし別に気にすることは無いか……あいつ等の問題だしな。
「驚きました、流石勇者咲様の従者の方ですな、いや貴方も勇者の一人でしたね」
エリート君達に付き従っていた支援部隊の騎士が俺にそう言って話しかけてきた。
あ~そう言う認識なのね。
まぁ、そう思ってくれた方が俺としても目立たなくてありがたいし、別に構わないか。
「なっ……ムグッ」
文句を言いかけたクラリッサの口を塞ぎ、愛想笑いを浮かべる俺。
余計な事を言おうとしてるんじゃないクラリッサ。
全く何の為に俺を監視しているんだ? 俺が出しゃばり過ぎない様に王国から命令されてるんだろ? エリート君達を引き立たせる為に俺が目立っちゃ駄目だしな。
やれやれ自分の任務を忘れるなよ。本気で俺の事を気にかけていると勘違いしてしまうじゃないか、仕方のない奴だな。




