最後のナンバーズ
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「なんというか、俺達はもう休憩とか観戦するだけみたいな感じで、気楽に見ていられるね」
「あぁ、そうだな。もう状況を覆しようがない、というように見える」
「私は、休憩は少しありがたいわ。ソフィー達はともかく、アマリーラさん達やリクさんにも、私が常に指示をしているような状況だったし、そうなるように皆も動いてくれていたけど……やっぱり常に気を張っているのは疲れるわね」
そう言って、深く息を吐くモニカさん。
モニカさん自身も戦いながら、周囲の状況を把握するため気を抜ける瞬間がほぼなかったのだろう。
ほとんど休まずに戦い続けたのもあるし、モニカさんだけじゃなく皆にもこのまま休んでいてもらうのが良さそうだね。
殲滅作戦が終わった後も、まだ動かなきゃいけないし……。
「ただ戦うだけの私達とは、また違った疲れがありますね。ですが、モニカさんの判断は早く、指示も的確でしたのでそう言った素質があると思いますよ」
おそらく、騎士とかの方で似たような経験があるのか、フィネさんが微笑みながらそう言う。
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ。まぁ、父さんや母さん……主に母さんだけれど、色々と指導されていたからね」
マックスさんやマリーさんか。
二人共元ベテラン冒険者だし、マリーさんは魔法で後方を担う役割だったらしいから、そういった事にも詳しかったんだろう。
もちろん、魔法と槍では条件は違うだろうけど。
「ふむ、リネルトはどう思う? 私は、こういった事にはあまり向いていないから、なんとも言えんが。モニカ殿の指示が的確で動きやすかったというのは確かだ」
「そうですねぇ……もう少し先を見通したり、遠くの状況を把握できるよう動ければ完璧ですかねぇ。他にも――」
休憩、と思っていたら何やらリネルトさんからモニカさんへの講義みたいなのが始まった。
センテにいた時に聞いたけど、アマリーラさんよりリネルトさんの方が、こういった指揮官とか司令塔のような役割は向いているらしいので、アドバイスもできるんだろう。
元々傭兵としてはアマリーラさんの方が上官で、のんびりした性格っぽいリネルトさんは苦手そうって印象だったんだけど、センテではワイバーンを使った部隊の指揮とかもしてくれていたからね。
人は見かけによらないと言うと失礼かもしれないけど、俺と同じように最前線でその膂力を見せつけるような戦いをするアマリーラさんに向いていない、というのはなんとなく理解できる……俺がそうだから。
「……リク、気を付けるの」
「ん、ユノ?」
休憩がてらに、リネルトさんのモニカさんへの講義を聞き流しつつ、包み込まれた反抗勢力が魔物と一緒に軍に飲みこまれて、危うい雰囲気も一切なく、魔物も次々と討伐されていくのを眺めていると、ユノに声をかけられた。
というか、気を付けるって一体……?
「リクの足元にも及ばないけど、人間とかエルフと比べたら、とんでもないって言えるくらいの魔力を持ったのがいるの」
「とんでもない魔力?」
「ツヴァイやフィーア……クラウリアだったわね。あいつらと同じような魔力量を持ったのがいるって事よ」
ロジーナと話していたレッタさんが戻ってきてそう言った。
それって……。
「魔力貸与された人がいるって事ですか?」
「距離があるからおぼろげだけど、この魔力の感じは間違えようがないわ。というより、私にもその、魔力があるから同質だと感覚的にわかるのよ」
魔力誘導があるから、大きければ大きい程距離があっても少しだけ魔力を感知する事ができる、とつけ加えるレッタさん。
俺が使っていた探知魔法程制度は高くないし距離も短いようだけど、よく知っている魔力の質だからこそ、わかるのだろう。
レッタさんは復讐を果たすため、自分の意志で魔力貸与を受けている。
それは力を求めるだけでなく、憎き相手の魔力を取り込む事で復讐への執念を忘れないためでもあるようだ。
「でも、あっちにはそんな魔力を持った人がいるようには見えませんが……」
そう言って、地上で一方的な戦いが行われている場所を見る。
ツヴァイとかクラウリアさんとかのような、魔力貸与された人がいるなら、もっと激しい抵抗があってもおかしくないはず。
それこそ、一気に状況を覆すような魔法が使われる事だって考えられる。
ツヴァイは地下の狭い空間だから派手な魔法とかは使って来なかったし、フレイちゃんがさっさと倒したからともかく、クラウリアさんとかは建物を簡単に破壊するような爆発を起こす魔法とか使っていたからね。
エルフですら全力で魔法を使っても、単独でそんな事は簡単にはできない……何度も魔法を使ってようやくと言ったところで、一度の魔法でそれほどの成果を得るにはとんでもない魔力量が必要らしい。
……俺はまぁ、比較対象にないって事で、人間やエルフの平均魔力量と比べてって話だ。
「あそこじゃないわ。いるのはあっち――遠くて、まだ影も形も見えないけど、隠そうともせずにこちらに近付いてきているわ」
そう言って、レッタさんが東を示す。
反抗勢力と一緒にではなく、後ろから付いてきていたとかそういう事だろうか?
「多分、逃走する際の要なのよ。だから馬鹿達の突撃には参加せず、離れて様子を窺っていたのでしょうね」
「成功する可能性も低いのに、成功した場合に逃げる算段はしていたんだと思うの。だから一緒にじゃなくて、後から来ているんだと思うの」
ロジーナ、馬鹿達って……ま、まぁ、万を越える軍が近くにいるのに、数百で特に作戦とかなく突撃している時点で確かにそうかも、と思う部分はあるけど。
それはハーロルトさん達が頑張って、そうするように誘導したうえで、姉さんが囮になり、少し離れた場所で襲われやすい場所にいるからだ。
実際は、姉さんを守る近衛騎士隊という精鋭がいるうえ、フィリーナの結界に守られているから、簡単に到達はできない。
もしかしたら、精鋭の近衛隊だけでなんとかできたかもしれないくらいだけど、その場合は逃げられる可能性もあるから、全力で押しつぶす作戦になっているんだけども。
「……レッタさんは以前に、ナンバーズでしたっけ? 魔力貸与された人はもう、帝国の方にいないって言っていませんでした?」
「私が連絡を取り合っていた時点では、ね。戻ってきたとかの可能性はあるけど……多分、はぐれた誰かが潜入していた者達に合流したんだと思うわ。帝国はもう、アテトリア王国との国境を閉ざしているって話だし、強行突破ができる力はあるだろうけど、わざわざそれをする理由はない」
「合流ですか……」
レッタさんが言うには、ナンバーズの人達は基本的に忠誠心とかは持っていないらしい。
まぁ無理矢理連れて来られて命の危険がある魔力貸与をされ、さらに馴染むまで苦しむらしいし、それが終わっても強制的に従わされるうえ、使い捨てられる人なんかも多く見ているようだから、忠誠心なんて基本的に芽生えないよね。
だから、レッタさんが抜けた後は魔力誘導による補助で魔力貸与は成功率が著しく低く、というか成功しないため、新しいナンバーズは生まれないし、残っていたのは行方不明扱いだったから、もういないという判断だった。
それが、知らないうちに潜入してきた人達と合流して、協力しているという事だろうと。
「あれの様子を見る限り、私のようにまともに指揮権を与えられたのじゃないってのはわかるわ。その中で、どういった経緯で合流して協力しているのかはわからないけど、近づいているのはおそらくゼクス、六番目であり最後のナンバーズね」
最後のナンバーズ……たった六人しかいないのは、魔力貸与の補助があっても成功例が少ないからだろう。
一応、失敗例と見なされながら、実は成功していたアンリさんはいるけど、それは例外だからね。
ちなみにツヴァイは二で、クラウリアさんはフィーアと呼ばれて四番目、レッタさんはフュンフとして五の番号が割り振られていたとか。
ゼクスという人物も合わせれば四人、他にあと二人いるのか……。
「ゼクス……とにかく、魔力貸与された人がいるなら、それを戦場に近付けたらまずいですね」
報せれば警戒はするだろうけど、強力な魔法を放たれたら密集しているからこそ被害は大きくなる。
まぁさすがに、逃げるための協力らしいから全部を巻き込むような派手な魔法は使わないとは思うけど。
「もし本当にゼクスであれば、広範囲の魔法で大きく戦局を覆す事はできないわ。ゼクスはただ一つの魔法しか使えない。でもそれが厄介で、結局は戦局を覆す可能性までは否定できないわ。まぁ、リクのように一人で暴れてとかそんな感じよ。リクと比べると、圧倒的に見劣りはするけどね」
「それなら安心、というわけでもないですね」
その一つの魔法が厄介であり、増大した魔力によって効果も上がっているらしく、放っておいたら被害が大きくなるのは間違いないうえ、手が付けられない可能性もあるから、俺達が介入するべき、という事らしい。
とりあえず、地上にいる姉さん達にあらかじめ決めておいた合図を送り、エルサに言ってゼクスとやらがいるらしい方へと向かってもらう。
結界があるからあらかじめ、ある程度こちらの行動を示すための合図を決めていて良かった。
そうして移動しつつ、レッタさんにゼクスに関して聞く――地上の方では、派手に土煙を上げながら。薄紅色の全身鎧を着た集団が突撃を始めているから、もう決着はついたと見ていいだろうしね。
薄紅色の全身鎧は女王陛下直属の近衛部隊を示す物で、一人一人が高ランク冒険者と同等の力を持つ精鋭であり、本来なら青くなるワイバーン素材の鎧を特殊な方法で染めているらしい。
まぁワイバーンの鎧は潤沢に素材が入手できるようになった最近作ったようだけど、カラーとしては女王を象徴する薄紅色という事みたいだ。
その女王陛下は黄金色の鎧を着ているんだけどね。
これは派手に目立たせて囮という意味もあるみたいで、女王としての威を示すみたいな意味合いもあるとか。
ただし、本当の戦場などでは薄紅色を基調とした鎧を着込むようで、こちらも特注品との事。
ともかく、反抗勢力の方はもう放っておいても大丈夫だろう、というか過剰戦力の投入な気がしなくもないけど。
まぁあっちはいいとして、こっちはこっちでゼクスとかいう相手の事だね。
「ゼクスはが一つの魔法しか使えないのは、種族としてそうなっているから、どれだけ魔力量が増えようとも、それを越える事はできないわ」
「……種族として、一つの魔法しか使えない? それはまさか……?」
話を聞いていたアマリーラさんが、驚愕の表情で呟く。
リネルトさんの方も同じく、驚いているようだ。
「アマリーラさん、リネルトさん?」
「リク様……リク様には以前お話したのですが、我々獣人は人間やエルフと違い、魔法は一人につき一つしか使えません。その特徴がゼクスという者と同じという事は……」
「それって……」
アマリーラさんの言葉を聞きながら、レッタさんに視線をやると頷いた。
「えぇ。考えている通り、ゼクスは獣人よ」
「やはり……」
険しい表情になるアマリーラさんとリネルトさん。
「獣人が、魔力貸与を?」
「魔力貸与の対象は種族問わずよ。ただ、元々の魔力量が多いエルフは成功例がないのよね。というより、ゼクス以外の私を含めた五人……実際は、アンリのようなのもいるからもう少し多いけど、とにかく獣人の成功例はゼクスのみね」
「……」
レッタさんの話を聞いて唇を噛み締め、苦渋の表情になるアマリーラさん。
「魔力貸与の話は色々と聞いていますが、何故ゼクス……獣人が反抗勢力に協力を……」
リネルトさんがいつもの間延びした口調ではなくなっている。
真剣な時にそうなるんだけど、それだけ獣人がというのが衝撃的だったんだろう。
「魔力貸与の対象者は基本、帝国が調べて色々と条件を満たした相手を使うわ。その中に――」
対象になる条件は多種多様で、それだけ魔力貸与自体が手探りであり、低い成功率を少しでも高めようとしていたのがなんとなく伝わる気がする。
それは、失敗すれば廃棄――つまり死ぬ事になるため、死者を出さないためのせめてもの抵抗だったのかもしれない。
レッタさんの話に聞くクズ皇帝は気にしてなさそうだけど。
ともかく、その条件の中に鬱屈した思いを抱えているというものがあり、それに合致したのがゼクスになった獣人だったらしい。
魔力貸与が成功し、ゼクスという六番目の名を与えられたけど、レッタさんは本来の名前とかは知らないようだ。
というか、数が多くて覚えきれないと言うのもあるみたいだね。
「とはいえ、帝国にいる獣人はそこまで数も多くないから、対象になったのはほんの数人だったはずよ。まぁ、私がいないところで実行していたら、わからないけれど」
レッタさんの魔力誘導があってこそだから、もしレッタさんの知らないところで行われていた場合、それはつまり……全て失敗したって事なんだろう。
「条件を満たしているかを調べて、対象者を強制的に魔力貸与をするんだけど、そんな相手がたとえ成功したとしても忠実な配下になるとは限らないわ」
力を与えてくれたとか、権威的な部分でツヴァイのように従うのもいるようだけど、クラウリアさんのように逃げ出そうとするのもいるって事か。
「ゼクスもそうで、隙を見て帝国を出て追手を振り切り、その後の消息は不明。まさかアテトリア王国にいたなんて思わなかったわ」
ゼクスもクラウリアさんと同じく、帝国を逃げ出した口らしく行方不明という事で、レッタさんとしてもここでこうして反抗勢力に協力しているのは驚きみたいだ。
「ただ……」
少しだけ言い淀むようなレッタさん。
おそらくゼクスという人物の事を思い出し、理由を探しているんだろう。
「ゼクスは、力を与えられた事は喜んでいたわ。条件の一つにある鬱屈した思いというのがなんなのか、ほとんど話をしていないからわからないけど、考えてみれば獣人なのだから力への渇望、みたいなのがあったのかもしれないわね」
「……我々獣人は、種族として魔法はただ一つしか使えない。だからこそ、戦闘に応用できる魔法であれば戦闘系となる。非戦闘系とされた獣人は、獣王国の内外で戦いとは関わらない形で働く事になる。力を重視する獣王国、獣人だがそれはただ戦闘ができるという力だけの事ではない」
ユノ達が大食いで獣人さん達から崇められてたとかもあるし、戦うための力だけが獣人が重要視する力ではないというのはわかっている。
王族の人達も、戦えないけど他の事でっていう感じだったしね。
「だが、やはり戦闘系というのは獣人としてわかりやすく力を示す事ができるのは間違いない。そのため、憧れだけであればいいのだが、歪んだ思いを抱える者もいる」
「ゼクスという人は、その歪んだ思いを?」
「わかりません。が、鬱屈した思いを抱えるというのはそういう事だったのではないかと」
「成る程……」
わかりやすい力を求めたために、それは歪んだ思いとなったのかもしれません。
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