第6話「ももいろそらを」
『麦秋』上映会後に映画を作るという事だけは決まったが、具体的な話しは特になく、映画を作ろうー!やんややんやー、と言った感じで終わったのである。
確かにiPhoneで撮影して編集もできるだろう。しかし、映画を作るには脚本もいるし、演技もしなくちゃいけない。漠然と夢は映画監督などと言っていたけれど、いざ本当に映画を作るとなると、一体どんな内容の映画を作ればいいのかさっぱりわからない。
登場人物は3人で内訳は男2人と女の子が1人という制約があるし、アクションやSFも難しいだろうから内容もかなり限られてくる。
僕は自分の部屋でベッドに寝転び天井を見つめながら、自分が一体どんな映画を作りたいのかグルグルと頭を巡らせていた。
すると、iPhoneが鳴った。iPhoneのディスプレイを見てみると加藤さんからキンザザ同盟のグループLINEにメッセージが届いていた。
“ 映画作りの件で一回アイデア持ち寄って会議しない?”
加藤さんからの提案はこうだ、とりあえず1度集まって現実的に製作可能な企画を1人最低でも1案持ち寄ってプレゼン大会をしよう、と。
日程は2週間後の日曜日に決まった。
それからの2週間はひたすらアイデアを考えていた。ただ、考えるだけでは何も浮かんでこない事が2日目でわかったから、とにかく何か手がかりを掴むために色々な映画を観ることにした。日本の映画はあまり好きなものがなかったのだけれど、自分たちで映画を作るならやはり海外の映画よりも日本の映画の方が参考になるのではないか、と思い参考になりそうな低予算の日本映画を観ることにした。まずはネットで映画関連のブログなんかで記事を読み参考になりそうな映画を探す事にした。そこで、面白いブログを見つけた。“世川の映画日記”というタイトルのブログで、その記事を書いている人が面白いと言っている映画は自分が面白いと思っているものとカブってて、この人が面白いと書いている映画なら間違いないんじゃないか?と思えた。そのブログの中で絶賛されていた『どんてん生活』という映画は低予算で作られている日本映画みたいだったから観てみることにしたのだけれど、これがとても面白かった。青春コメディ映画なんだけど、いかにも笑えるシーンはなく、なんとなく間や空気感が面白い。ただ、この空気感は自分たちでは出せないだろうぁ。こーゆー感覚って一種の才能だよ。
次に観たのは『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』の矢口史靖が『ゲゲゲの女房』を監督した鈴木卓爾と作った短編映画集『ワンピース』だ。これはワンシーン、ワンカット、1話完結という制約の中で作られた短編映画でかなり面白かった。こんな手法もあるのかー、と感心。ワンシーン、ワンカットでも脚本が面白ければ、ちゃんと面白い作品になるんだなぁ。これは僕たちみたいな素人丸出しの集団が作るには大いに参考になりそうだった。
そして、プレゼンの前日に観たのが『ももいろそらを』という映画。例のブログで大絶賛されていたので、普通に気になって観たのだけれど、これが凄く良かった。それほど予算はかけていないはずなのに映像がとても印象的で物語の内容も面白かった。自分たちで作るならこんな感じの映画を作りたい!って思える映画だった。
この日、僕は徹夜で企画書を書いた。『ワンピース』を観て、シチュエーションでSFっぽいものが作れそうだ、と思った僕は思い切って青春SFものを考えてみた。大好きなタルコフスキーの『ストーカー』だって、ゴダールの『アルファヴィル』だって、SFだけどSFっぽいものは一切出てこないじゃないか。SFだからって未来的な服装やらメカやらを出さなくてもいいのだ。
一応、企画書は完成したけど正直言って全く自信がない。物語を考えるのは昔から好きだけど、実際に自分たちで映画にするとなると話は別だ。妄想の中からならどんなむちゃくちゃな設定でも、とんでもなくお金がかかりそうな世界観でも思いのままなんだから。
企画書を書き上げるのは大変だったけれど、僕の気持ちはとても充実していた。生まれて初めて何かを達成しようとしている感覚があった。そして、加藤さんと悟の2人がどんな企画を持ってくるのかを考えるとワクワクした。
気がつくと外は明るくなってきていた。窓から空外を見ると空は暗い部分を少しずつピンク色に染めていっている最中で、美しいグラデーションを描いていた。僕はその空の色がとても美しいと思った。そして、それと同時に空の色を美しいと思えるからまだ大丈夫。と思えた。
(つづく)




