プロローグ -additional-
辺りは既に暗くなっていた。
空にはもう星が輝き始めている。
静寂に包まれた夜の小道に、二つの足音だけが響く。
16歳の高校1年生、空木廉と鳳真岡は、
とある町の住宅街を歩いていた。
少年が前を歩き、少女が後からついていく。
「ねえ、廉」
真岡が廉の制服の袖を引いて話しかけた。
廉が振り向く。二人の目があった。
真岡は言いかけていた言葉を呑み込んでしまった。
代わりに、全く別の台詞が口から出る。
「その………さっきはありがとう。駅でのこと…」
廉は怪訝そうな顔をして答えた。
「………礼ならもう聞いたぞ」
そう言われて、真岡は困ったように笑った。
「そっか………うん、そうよね…………」
二人の間に沈黙がな流れた。再び静寂が辺りを包み込む。
しばらくして、突然廉が立ち止まった。
もう一度後ろを振り向き、真岡と向き合う。
「あのな真岡、言いたいことがあるなら
はっきり言えよ?ちゃんと聞いてやるから」
真岡はちょっと驚いてから、嬉しいような恥ずかしいような、
複雑な気持ちになった。少し考え込んでから、ゆっくりと口を開く。
「あのね、笑わないでね?
……………最近、変な夢を見るの」
「………変って、どんな?」
「いや、はっきり覚えてるわけじゃないんだけど、
なんかこう……何かに追いかけられてるみたいな。毎日同じ夢なの」
廉は不思議に思った。幼なじみの真岡の性格は、よく知っている。
いつもなら、そんなことをいちいち気にかけるような奴じゃないはずだ。
「…気にしすぎなんじゃねぇの?ただの夢だろ」
そう言うと、真岡は少し安心したような顔になった。
「そうよね、ただの夢よね!
ああ、心配して損しちゃった」
彼女は明るい声で言った。
「それじゃ、また明日ね!」
公園の前の分かれ道で、真岡は右へ、廉は左へ
曲がってそれぞれの家へ向かった。
また明日、か………………
廉はその言葉が妙に心に引っかかるような気がした。
だが、家に着いてからいろいろやっているうちに
考えるのをやめた。
ベッドに入って寝る頃には、もうすっかり
忘れてしまっていた。




