Vol.5 クイーン ファンタジア − Ⅰ −
真岡は、一人で部屋のバルコニーの手すりにもたれかかって
外を眺めていた。日暮れ前のひんやりとした風が肌をなでる。
山の端にはもう夕日がさしかかっていた。
夢幻郷の大地の約3分の1を占めるこの区域は、
真岡のいるクイーンズベリー城を中心に、周りに町が広がって
いる。白をベースとした中世ヨーロッパ風の建物が立ち並び、
夕日に照らされたレンガの屋根がいっそう深い赤色に
染まっている。中心部に近い地域には市場が、海沿いには港があり、
昼間には人や馬車が行き交い賑わっていたが、今は人通りが
少なくなり、静まりかえっている。
しかしこの平和な町を囲む巨大な塀を越えた先には、獰猛な
動物たちが跋扈する危険な森が広がっている。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します、ヴィオラ様。
お待ち人がご到着なさいましたよ」
一人の家女中が入ってきて言った。
ヴィオラーーー真岡の”こちら”での名だがーーーーは、それを
聞くとぱっと顔を輝かせた。
「ホントですか?リュードさんと………男の子が一人?」
「左様でございます。ジオン様と名乗っておいでですよ」
「ジオン」。それが廉のここでの呼び名なのね。
思わず本名を言ってしまわないようにしなければ。
ヴィオラは、自分がここに来る前にリュードに
言われた言葉を思い出した。
ー「この世界には黒魔術というものがあってね。その中の
一種に、人を名で縛ることができる呪術の類があるんだ。
夢人の場合、もし本名でそれをやられたら自分の世界に
戻れなくなってしまう。だからここでは偽名を使うんだ。
俺や廉くんの名前を呼ぶのもダメだからね」
黒魔術なんて普通は信じないし興味もないけど、
こんな状況ではそんなことも言ってられない。
ヴィオラは頭の中で「ジオン」という名前を
繰り返しながら、うきうきと彼らのもとへ向かった。




