Vol.4 森の番人
「ああダメダメ、触らないで。毒を持ってるから」
後ろで、傍らに咲いている真っ赤な花に
手を伸ばしている廉に向かって、椎那は言った。
それを聞いて、廉があわてて手を引っ込める。
「その花は誘い人っていってね、
綺麗だけど危険だよ。この森にはそういう植物や
動物がたくさんいるから気をつけて」
椎那と廉は、ジャングルのなかを
遠方にある巨城を目指して歩いていた。
椎那いわく、そこが彼の住まいで、
真岡もそこにいるらしい。
「こんな森のド真ん中に出るとは……
まったく、君も真岡ちゃんも厄介な心性してるね。
真岡ちゃんのときは猛獣の巣窟に出ちゃってさ、
大変だったんだよ、ホント」
と愚痴を言いながら、椎那は枝葉をかき分けながら
先へ進んでいく。廉は、真岡が話していた夢で
「何かに追いかけられる」とはこのことだったの
だろうかと思いながら、椎那の後をついていった。
すると突然、椎那が立ち止まった。
余所見をしながら歩いていた廉は、椎那の背中に
ぶつかってしまった。
「うわっ………何だよ、いきなり?」
「しっ!静かに」
緊張した面持ちで、椎那が廉を制した。
思わず、廉は息を呑んだ。耳をすまして、
周りを見渡す。 ザザザァッという音が
かすかに聞こえた。
「……なにか来る」
次の瞬間、数人の武器を持った人間が
頭上に現れた。まるで野性動物のような
スピードで木の枝上を走っている。
そのうちの一人の少年と目が合った。
少年は廉と椎那の顔を見た途端急に目の色をかえて、
背中に背負っていた弓をかまえ、振り向きざまに
数本の矢を同時に放った。
「うおあぁああっ?!」
二人は咄嗟に左右に飛び退き、それをかわした。
チッと少年が舌打ちをして、今度は腰に提げていた
短剣を引き抜いて飛びかかろうとした。
「やめろ‼」
少年の仲間の女が、鋭い声で怒鳴った。
少年の動きがピタリと止まる。だが、手にかまえた
短剣はまだ廉たちの方を向いていた。
「アルマ!その剣をしまえ。無駄な争いだ」
アルマと呼ばれた少年は依然として
武器をかまえたまま言った。
「だがレイン、こいつら森の侵入者だ!
それにそっちの男はあの憎き女王の狗だぞ。
これが黙ってられるか‼」
少年は椎那を指差して、怒りに満ちた目で睨んだ。
すると椎那が、不敵な笑みを浮かべて言った。
「やぁアルマ、レイン。おじい様は元気?」
「!! このっ……」
少年が身をのり出した。
「待て、アルマ!じい様に報告するのが先だ。
……………余計な挑発はやめておくんだな、
リュード。そちらもただでは済まないぞ」
女が、冷たい目で椎那を睨みながら言った。
廉はわけがわからず、彼らの顔を交互に窺った。
「…そのようだね。こちらとしても今君たちと
戦り合うには都合が悪い。ここはお互い
妥協しとこうじゃないか」
椎那がそう答えると、女はフンと鼻を鳴らして
「ほら行くぞ」と少年をせかした。
少年はようやくかまえていた剣を腰にしまい、
仲間たちと共に去っていった。
「ふう……命拾いしたな。まさか武器を持ってない
今鉢合わせるとは……」
彼らの姿が見えなくなると、やっと椎那の顔から
緊張が消えた。
「おい椎那、あいつらは何者なんだ?」
「ああ……彼らは森の番人と呼ばれる
民族でね。ずっと昔から森を守っているんだ。
ムダに戦闘力が高いから、今回は無事にすんで
よかったよ……さあ、行こうか。
早くしないと日が沈んでしまう」
廉は彼らが消えていった方を一瞥してから、
椎那の後に続いた。




