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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
ある独白
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2 これから

 あのやかましい黒ぎつねの追及から逃れて、私は伏見君の家の屋根に上った。

 私の見て来た間に、この町は(昔は村だったけど)めまぐるしく変わって行った。

 神社だけは、変わらない。

 夜風で髪が乱れてしまう。私は顔にかかった髪を耳に掛けながら、神社の方を見やった。

 そうだ。彼の言う通り、私には好きな人がいた。彼が死んでしまったのも、もう遠い昔の話だ。

 犬神は、いつの時代も忌避の的だ。それも仕方ないと思う。人に憑依出来るし、返信した姿だって、兎や狐みたいに愛らしくない。

 でも、それは私とは全く関係ない所で、勝手に決まった事なのだ。私の気持ちは、それとは別のとこにある。

 あの人と知り合った私は、名前を偽った。稲荷神社の宮司のくせして、私の名前には全く不思議がる素振りも見せなかった。だって、私が名乗った名前が本性なら、私は飛んだ浮気者だからだ。

 もしかしたら、気付きながらも気付かない振りをしていたのかもしれない。

 彼は私の正体に気付いても、変わらずに居てくれただろうか。

 今となっては、もう確かめる事も出来ない。

 だから、私には、せめて残された場所を自分のものにするくらいは、許されると思ったのだ。密かな恋の思い出に、逢い引きの場くらいは自分のものにしても良いんじゃないか。

 それが彼の死への代わりだと気付いたとき、私はあの人を好きで居られなくなった。好きでいちゃいけなかったのだ。

 やけになった。結界を張って、せせこましく思い出を護った。狐を追い出して、私は歪んだ彼への思いを抱き続けた。

 そんな時に。

 まっすぐな彼の思いを目の当たりにした。

 まっすぐな彼女の思いを目の当たりにした。

 結局、彼の思いの、彼女の思いのまっすぐさに、私はとどめを刺せなかった。彼を殺すのは簡単だけど、それは同時に私の思いを殺す事が簡単だと言う事でもあった。

「嫌になっちゃうな」

 私は一人呟いた。誰にも届かない言葉が風に乗って、遠い所へ運ばれて行く。風は昔と今、そしてこれからを繋ぐみたいに、切れ目なく流れた。

 私の思いは、これからも変わらない。


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