雑兵勇者は仕事をする
見方によっては腐ってますので注意です。でもぬるいです。
「シセルスさーん起きてくださーい」
僕がベッドの中でうとうとしていると、部屋の外から女性の声が聞こえた。
あれ・・・・こんな声のメイドさん家にいたっけ・・・?
でもちょっと眠たいのでまだ寝る。
「シセルスさんったらー!!」
「シーデル様に頼んで一枚くらい写真をネットにアップロードしますよ。」
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
一瞬で覚醒した。ここは僕の家じゃない。魔族屋敷だ。
そして、写真は僕の弱みだ。
「あ、起きましたね」
「・・・・あ、ヴァニアさんおはようございます。」
「はい、シセルスさん。おはようございます。」
そういえば昨夜ヴァニアさんが朝起こしに行くとか言ってたような・・・。
僕は、写真の件もあり、口答えもなにもせずヴァニアさんに起こされ、ヴァニアさんについていった。
「・・・・あ、そういえばシーデル様に渡しておけと言われたものがあるんです。」
「・・・嫌な予感しかしないんですけど、なんですか・・・?」
ヴァニアさんはどこから取り出したのか。
紙袋の中から服を取り出した。
「これ、です。これから屋敷内ではこれを着るように。とのことです。」
「・・・は?」
その服は、ヴァニアさんの服そのものだった。
そう。俗に言うメイド服、というものだ。
いや、一応僕への配慮か。袖の部分がふわっとしておらず、普通のシャツのような袖になっている。
・・・僕への配慮はこれだけかよ・・・
「これ着ないとどうせアップロードだろ・・・?」
「あらシセルスさんのスペシャルって未来予知だったりします?」
くすっと笑うヴァニアさん。
ヴァニアさん!あざとかわいいですけどそれ皮肉です!
「あの・・・未来予知ではないと思いますが・・・・マジですか?」
この服はマジでないわ・・・いや、服自体は可愛らしく、女性が着れば目の保養になあるのであろうが・・・
(男のこれはシャレにならねぇ・・・ッ!!)
しかもこれが宴会とかの一発ならまだしも、これをずっと着て生活というのは拷問に等しい。
「いっそ・・・僕をひと思いに・・・」
「あの?殺しませんけど・・・w」
ヴァニアさん、もうこれはそんな規模の問題じゃないんです・・・視線とか。
「まぁ・・・とりあえず着ましょうか☆」
ヴァニアさんがめっちゃ怖いっ!!
昨日の「試させて、もらいます」発言より怖い!!なんか怖い!!
「おや、シセル君にヴァニアじゃないか。」
忌々しい声がまた聞こえてきた。
ほんとに忌々しいな。
「ああ、私のプレゼントがお気に召さなかったのかい?」
ハハッと笑う忌々しいやつ。
「そりゃあそうでしょう。こんなんお気に召す男があってたまるかっ!!」
「フフっ・・・そうだろうな。」
「確信犯かよ!!そりゃそうだわな!!嫌がらせの意味以外の理由でこれ贈る意味がわかんねぇよ!!」
「・・・あの、早く着てくださいよ、シセルスさん。」
ヴァニアさんが服を持ってゆっくりにじみよってくるのがさりげなく怖い。
「というか今回なんでヴァニアさんこんなに必死なんですか・・・?」
と僕が思っていたことを尋ねると、ヴァニアさんはびくっとしてから、
「き、気のせいじゃありませんか?あ、あと一応シーデル様に命令もされてますしね!!」
「・・・女装メイドコスのBLなんておいしそうじゃありませんか・・・(ボソッ)」
されてますしね!!までは聞こえたけど、その後の呟きは聞こえなかった。でもなぜか聞きたくないと本能が告げているので、気にしないことにした。
「まぁ、そういうわけだ。主人の命令なんだから着てくれるよね?(ピラッ)」
いちいち写真を見せてくるところがなんともうざったらしい。
「ううううううぅ・・・着ればいいんでしょう?!着ればっ!!」
顔が真っ赤になりすぎておかしくなりそうだ。
「あ、今日だけじゃなくてこれから毎日な☆」
シーデルがそんなことほざきやがった。
「はぁ?!あんたは鬼か?!」
「堕天使だ(キリッ)」
「そうだったな!堕天使っ!!」
あーもうやだ・・・・
「ううぅ・・・」
「ああ、そうだシセル君。着替えるなら更衣室もあるし、自室でもいいぞ。」
「そんな情報・・・・いりません・・・。」
「でも、廊下で着替えられても困るんだが・・・」
「そんなことしませんって!!!」
廊下でメイド服に着替えるなんていうことは絶対にしたくない・・・!!
「幸い、あそこに更衣室があるから着替えてこい。着方は・・・・最初だしな。あいつを呼ぶか。」
「人なんて呼ばなくてもいいですって!!」
そんなことされたらすっごい困るんですけど!!?
「そう言うな。間違った着方をしてもらっても困るんだ。」
「うう・・・・で、誰なんですか?それって。」
男ならまだいいけど・・・女だったらいますぐこの服を破り捨てて逃走しよう。
「ああ、妖精の男だ。」
「よう・・・・せい?」
「ああ。妖精だ。呼ぶか。」
シーデルはそう言うと、口笛を吹いた。・・・上手だ。
「おい、シーデル!!この俺様を呼んだか?!」
「ああ、呼んだ呼んだ。お前の力を是非借りたいと思ってな。」
「ふっ!当然だよな!!この俺様になにを頼もうってのか?!」
(え、何この妖精。明るすぎるし妙に俺様だぞ・・・。)
現れた妖精は、小さくて、黄緑色の髪に緑色の光る羽がよく似合っていた。
「お前に、こいつの着替えを手伝ってもらいたくってな。」
というと、妖精は僕のことを頭からつま先までじーっと見てから、
「わかった。こいつの着替えを頼みたいわけだな?俺様も最近暇してたしいいぜっ!!」
「よかったよかった。ザットにそう言ってもらえてよかったよ。」
どうやらこの俺様妖精はザットという名前らしい。
「じゃ、お前なんていう名前なんだ?」
ザット君は僕の名前を聞いてきた。
「ヴィクティディアル=シセルス。シセルって呼んでください。」
僕、このセリフここに来てから何度目だろ・・・
「ふーん。シセルか。よろしくな!俺様はザット!ザット様って呼んでもいいんだぜ?!」
「いや・・・遠慮しとくよ。ザット君。」
魔族って感じの口調だが、どことなく優しさが見られるいい性格をしていると思う。でも、様呼びはしたくないな・・・。
「まぁザット君でもいいけどな。じゃ、仕事しますかー。で、どんな着替えをさせるんだ?」
「ああ、これだ。」
シーデルはサッとメイド服を差し出した。
「・・・・うっわ。シセル、お前こんな趣味が・・・?」
あってたまるか、こんな趣味。
「ち、違うっ!!これはシーデルがっ・・・・」
が、ザット君は話を聞いてくれない。
「・・・ま、いいぞ。じゃ、更衣室に行くぞー」
「え、ちょっと!!話を聞いてよ!!誤解なんだってばーー!!!」
ああ・・・また黒歴史が増えたような・・・・
「・・・シーデル様。」
「なんだ?」
「流石にあれは私でもひどいと思いますよ・・・」
「まぁ、いいじゃないか。
人は悲しみが多いほど人には優しくできるのだから・・・」
「そのネタ通じる人いますかね?」
「いるんじゃないか?」
「よーし、着替えをはじめっぞー!」
「・・・(がっくり)」
もう返事をする気力も無い・・・
「なんだよーシセルのってくれよー」
「いや、気持ちはわかるからよ。シーデルの嫌がらせだろ?」
「よかった・・・誤解してなかったんだ・・・」
わずかながら希望が生まれた・・・。
義務遂行の希望は見えなくていいけど・・・。
「あーとりあえず服脱げ。」
「あ、うん・・・」
僕は少しづつ服を脱いだ。
「じゃ、着方教えっからちゃんと聞いとけよ。」
「・・・・・うん。」
僕は一応聞いたよ。聞いたさ。
うん。聞いた聞いた。
「で、ここはリボン結びみてーだな。」
・・・?なんか不思議な感じだ。
もしかして着方を今ここで知っていっているような・・・
「君、なんかスペシャルを使ってる?」
つい聞いてしまった。疑問に思って。
「ん?そうだぞ。俺様のスペシャルは『物に対する作り手の意図を知る』っていう能力だしな。」
やっぱり。なるほど。こういうスペシャルもあるのか。
・・・・・・僕のスペシャルはいったいなんなのだろう?
まぁ、そんなのはいいや。どうせ僕のスペシャルは強くなんて無いだろうし。
「というか、その能力で着方がわかるものなの?」
と聞いた。作り手の意図を知る、って言ったら可愛くしようとかそんなのじゃないのだろうか?
「あーわかるぞ。ここはこうしよう、とかそういう意図もわかるからな。」
「なるほど。」
・・・案外この俺様妖精は頭がいいらしい。
最初はバカっぽそうだな、とも思ったけど、普通にいい人だ。
友達になりたいな・・・。
「頭にこれつけて・・・っと。」
「よし、できたぞー鏡見てきたらどうだ?似合ってるぞ!」
まるで自分の作品が完成したかのように喜ぶザット君。
「嬉しくないよ・・・」
似合ってるはけっこう余分である。
「でも見てこいって!ほんと!!違和感ねーから!」
それはそれで困るんだけど・・・
が、押されるがままに鏡の前に来た。
「うわっ・・・」
そこにいたのはもう僕じゃない。
別人だ。
鏡の中には女の子がいた。
(僕ってこんな顔してたのか・・・)
僕は昔から鏡が嫌いだった。
カルメルのように可愛げもなく、
モルガ兄さんのようにかっこよくもない。
昔から僕は兄弟と比べられてきた。光の勇者である2人と。
だからこんな自分を見たくなかった。
「どうせ僕は。」
これが口癖だった。ひねくれていった。
・・・が、今は感傷に浸っている場合じゃない。
鏡の中には別人がいるんだ。誰だお前。
「あ・・・あの、これほんと僕?」
僕はとても焦っていた。
「ああ!着替えを手伝っていた俺様が証人だ!」
僕の顔立ちは案外思っていたよりも整っており、中性的な感じだった。
あまり切らない肩にかかる程度の銀に近い灰色の髪。
目も大きく、青く澄んでいた。
正直、子供の時以来だもんな。鏡を見るのは。
そして、認めたくないことにメイド服も似合っていた。
「これ・・・いっそ殺せよ・・・」
と肩をおろしたところに、更衣室がバンっと開いた。
「シセル君、着替えは終わったかな?」
元凶がやってきやがった。
「おっ、シーデルじゃねぇか!終わったぞ!どうだ、似合ってるだろ?!」
得意げなザット君。本人が傷ついていることに気づいてください・・・。
「ああ、シセル君。とてもよく似合ってい・・・・ブフォッwwwww」
ふき出す元凶。僕なにか悪いことしたっけ?なんでこんな酷い仕打ちを・・・
「とても良く似合っているぞwwwこれならww表にも出れるだろうなwwww」
笑いすぎだ。
「黙らないと手元が滑って殴ってしまいそうです。」
「すまんなwwじゃあみんなが食堂で待ってるから行くぞw」
「おーす。」
「・・・・・・。」
行きたくないな・・・行ってたまるか。
「早く行くぞ!シセル君!」
「うわっ、シーデル引っ張るなって!!」
僕は不本意ながら、シーデルに引きづられて食堂へと向かった。
「あ!シーデル様っ!シセル!!それにザットも!!」
メルンさんがぶんぶんと手を振る。
「ふにゃ?シセル可愛い服を着てるね☆似合ってるよ!」
「メルンさん・・・・・嬉しくないです。」
シーデルはまた忍び笑いをしている。
「シセル・・・・おはよう。」
そしてメルタの天使スマイルが眩しい。
今日はローブのフードを脱いでおり、可愛らしい顔が存分に見れた。
「あ・・・フード?昨日シセルが僕の顔、好きっていってくれたから・・・///」
乙女だ・・・・おとメルタだよ・・・・
両手を頬にあて、恥ずかしがるメルタはとても可愛い。
「あー・・・残念ね、モラ。諦めなさい。」
「は?ガルシアお前なんのことだよ?」
「なんでもないわよ。」
「ま、まぁ皆さん。ご飯にしませんか?」
ヴァニアさんが料理を持って食堂へやってきた。
「あらシセルスさん着たんですね。よくお似合いですよ。ではシセルスさんも手伝っていただきます?」
あ、そっか。戦うし働きもするって契約したんだっけ。だからこの服か・・・・。確かにメルタとかは普通の服だしな。
「厨房に料理を用意していますから、持ってきてください。」
「はいっ、わかりました。」
「?シーデル様、シセルはお手伝い兼戦闘要員なんですか?」
「ああ、そうだ。」
「へぇ・・・珍しいですね。男のお手伝いさんは。」
「メルタ。珍しいどころか、前例がなかったと思いますわよ?」
「ああ、だからシセルのやつはあんな格好してんのか・・・」
「可愛かったねー☆」
厨房はヴァニアさんと一緒に行った。
厨房には他にも何人かの魔族がいて、コック帽を被り、料理を作る人やヴァニアさんのように料理を運ぶ人もいた。
全員メイド服を着ていた。どうやら男は僕だけのようだ。
「・・・・・・・新入り?いらっしゃい。男とは珍しい・・・・ね。」
髪を後ろで一つに束ねて眼鏡をかけ、コック帽を被った女性がいた。
「あ、はい。ヴィクティディアル=シセルスです。」
女性はヴィクティディアルと聞いてか、一瞬ピクっと反応し、何事もなかったかのように、
「わかった。シセルスだな。私は料理長を務めるトゥーレだ。よろしくな。」
トゥーレさんは男勝りというかクールな感じの女性のようだ。自己紹介を一応終えると、
「じゃあ早速仕事な。これ、運んで。」
ワゴンを渡され、その上に料理を置いていく。
「うん、そう。新入りにしては上出来。」
無表情の平坦な声で褒められた。
「ありがとうございます。」
僕はそう言って厨房を出た。
「・・・・・・・・・。」
僕は無言でテーブルの上に料理を置いていく。
「あっ、シセル・・・僕も手伝うよ」
と、顔を赤らめてどこか嬉しそうなメルタ。
「メルタ、ありがとう。」
本当にメルタはいい人だ。魔族だとしても。
「えへへ・・・僕の初めての友達・・・///」
メルタは恥ずかしがりやなのかな、よく顔を赤くするなぁ・・・
「僕もメルタが初めてだよ。」
「意味深なセリフGJですシセルスさん・・・!!」
ヴァニアさんの声がボソッと聞こえた。
「ん?ヴァニアさん何か言いました?」
「いえ、ただお2人の仲が微笑ましくて。」
ふふっと笑うヴァニアさん。
やはり彼女は優しそうでいい人だ。
「僕の初めての友達・・・僕のシセル・・・」
嬉しそうに何かを呟きながら一緒に料理を置いてくれるメルタは小動物のようで可愛らしかった。
他のメイドさんもたくさんいるので、作業はとても早く終わった。
「シセルス、今日は初日だったから仕方ないが、明日からはもっと早く起きて支度を手伝ってくれ。」
と終わってからトゥーレさんにそう言われた。
「シセルスさん、明日からは、もう起こしにきませんからね?」
ヴァニアさんにもそう言われた。
「シセル!となり、空いてるよっ!い、一緒に食べよう?」
どこに座ろうか、と模索していた僕にメルタが呼びかけた。
「じゃあ、そこに行こうかな。」
と僕はメルタが座っていた机についた。
と、前を見てみると、ガルシアさん、モラさんもいた。
「あら、シセルス君じゃないの。」
「・・・・。」
挨拶をしてくれるガルシアさんと、無視のモラさん。
・・・やっぱり僕、モラさんに嫌われてる・・・?
「・・・ああ、シセルス君。モラのことは気にしなくてもいいのよ。こいつツンデレだから・・・」
「ガ、ガルシアッ!!俺はツンデレじゃねぇぞっ!!」
「あーはいはい。ツンデレは黙ってなさい。」
「・・・・・ッ!!」
「あはは・・・」
本当にガルシアさんとモラさんは仲が良さそうだ。
「・・・。」
無言で僕のメイド服のエプロンの裾を握るメルタ。
「メルタ?どうかしたの?」
「・・・シセル、ずっとガルシアの胸見てばっか・・・。」
「えっ?!///」
そ、そんなつもりは一切なかったんだけど・・・?!
「うっわ・・・シセルそれはねぇわ・・・」
「シセルス君、それは私でも引くわよ?」
「あ、あのっ、そんなことは全然なくって!!」
ぼ、僕はそんなことしてな・・・でももしかしたら無意識的に・・・いや、それは・・・いくら僕が雑魚と言っても僕は勇者で・・・
「・・・シセル、冗談、だよ。」
僕が自己嫌悪に陥る寸前にメルタがそう呟いた。
「だって、シセルがずっと僕のほう、見てくれないから・・・」
「あ、ああ・・・ごめんね、メルタ。」
「もっと、僕を見て欲しいのに・・・」
また顔を赤くして頬を膨らませるメルタも可愛らしかった。
でも、この冗談は心臓に悪い・・・・
「シーデル様っ!魔族の一派がっ!!」
鎧姿の人が急いでそう報告した。
「へっ?!」
僕はびっくりして変な声を出してしまった。
え、これが例の襲撃ってやつかな・・・?
が、かわりにガルシアさん、モラさん、メルタはにぃっと笑っていた。
「久しぶりに来たわね・・・」
「腕が鳴るな・・・」
「シセル、見ててねっ!!」
なんとも楽しそうでなによりである。
じゃあこんなに頼りになりそうな人がいるので僕は部屋に戻るとし・・・
僕は張り切る3人の目からくぐりぬけ、食堂を出ようと・・・
「あれー?シセルどこいくのー?」
・・・・メルンさんだ。
確かにさっきからなんでいないんだろ?とは思っていたが・・・寝坊か。
「い、いえ、ちょっと部屋に戻ろうと・・・」
「何言ってんの!襲撃だよ!ほらほら!迎え撃つよー☆」
「あ・・・あの・・・ヴァニアさん・・・」
ヴァニアさんなら事情を知っているから・・・
「・・・シセルスさん、頑張ってください。」
「えええ、ちょ?!あの・・・・ヴァニアさああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!!」
僕はヴァニアさんにも裏切られてしまったようだ・・・
「戦場でヒロインの好感度をあげるのは定石ですよね。」
さっきヴァニアさんの声がしたような気が・・・いや、今はそんなことを気にしてる暇はない。なんてったって僕も戦うのだから。本当にこんなことは初めてだ。
「あ、シセルスさんの武器の手配がまだでしたね。こちらへ来てくださいませんか?」
僕は言われるがままにヴァニアさんの後を追った。
「おそらく、シセルスさんにはこちらがあってますよ。」
・・・・普通の剣がそこにはあった。
「身体的なステータスがどれも平凡なので、変に偏った武器は似合わな・・・何泣いてるのですか、シセルスさん?」
「それ・・・どれもいいところがないってことなんじゃ・・・」
確かに僕はどうせ影ですよ!兄弟に比べたら天と地の差ほどありますよ!!!
「いいえ、この平凡は裏を返すとバランスが取れてるってことなんですよ。実際、力はガルシアより優ってますし。」
「ほんとですか・・・?」
「ええ。だから安心なさってください、ね?」
ヴァニアさんがニコッと微笑む。
「はい・・・わかりました。」
「では、お気を付けて。」
「は、はいっ。行ってきます!!」
「行ってらっしゃいませ、シセルスさん。」
一方、同時刻、ヴィクティディアル家にて。
「ただいまー。」
「おかえりなさいませ、カルメル様」
ずらっと玄関から並んだメイド達。
そして道の真ん中に立つ一人の少年とその補佐。
「おう。なぁ、シセル兄は?」
と、その一言でメイド達の顔が濁る。
そのことで少年はいらついた表情をした。
「シセル兄はどこ行ったんだよ?!」
近くにいた若いメイドに近づき、胸ぐらを掴んだ。
「ひっ・・・あ・・・・あのっ・・・・」
若いメイドは恐怖で唇を震わせた。
「カルメル様、落ち着いてください!」
補佐の男が少年とメイドを引き離した。
「ボ、ボルケス様・・・」
「ゲルム!何すんだよ!俺はただ兄ちゃんの・・・」
「カルメル様は乱暴すぎます。もうちょっと落ちついて尋ねるべきです。そして、あなたは何があったのかを答えるべきです。」
補佐の男・・・ゲルムは冷静だった。
「は・・・はい。シセルス様は、いなくなってしましまして・・・」
「・・・・・は?なんだよそれ・・・」
少年はとてつもなく焦っていた。
「それ・・・どういうことだよ・・・」
「はい、もうちょっと詳しく教えてください・・・・」
「私はいなくなったということしか・・・」
メイドさんは事実知らないのだから、顔を少し背けてそう告げた。
「嘘だろっ?!じゃあなんで目を背けるんだよっ!」
「ほ、本当に私はなにも・・・」
ゲルムは言葉を遮り、
「・・・・すみません」
そう言うと、メイドの額に手を当てた。
そして、こう言った。
「カルメル様、彼女は本当に知らないようです。」
「・・・・そうか。」
彼のスペシャルは相手の心を読むこと。それを知っている少年は容易に従った。
「じゃあ・・・誰か知ってる奴はいねぇのか・・・?」
「・・・ちょっと待ってください。」
ゲルムは手のひらを自分の胸の前で合わせた。
すると彼から波紋が広がっていった。
一波、二波・・・・少しづつ波紋は広がって行き、
やがて一人のメイドで止まった。
「あなたは、知っていますね?事情を。」
彼女は昨日、シセルに手紙を渡したメイドだった。
メイドは、素直に手紙を渡したこと、手紙を渡したこと、やがてその後消えてしまったことを話した。
ゲルムの能力の前では嘘がどれだけ無駄なことか、彼女は知っていたのであろう。
「・・・・わかりました。そんなことが・・・」
「・・・・。」
少年はずっと俯いていた。
「すみません、その手紙はまだありますか?」
「は、はい。よくわからない魔法陣があって・・・捨てたらいけないと思い・・・」
「それならよかった。カルメル様、シセルス様の居場所がわかりそうですよ。」
それを聞くやいなや、少年は顔を上げ、
「本当か?!よかった・・・」
「はい、あなた、手紙を持ってきていただきませんか?」
「は、はい。ただいま・・・」
パタパタと彼女は階段をかけあがっていった。
彼らが魔族屋敷に来るのはそう遠くない。
女装ネタ大好きなんです、ごめんなさい!!orz
次回はちょっとバトル的なことしたいなーと思ってます。
どうか次回でもご一緒できたらな、と思います。