第96話 空爆テスト
§ § § §
「ああああ!!! 無理みたい!!」
「離します!」
ドォン!!!!
拠点から離れたところでショウコさんとアヤノさんが何やら試していた様だ。
上空から落としている砂入りの木箱を見ている限り……空爆の練習なんだろうけど……トラブルっぽいな。
「重量オーバーだとだめみたい……」
「『重量操作』って、実際軽くなっているわけではないのかしら?」
「ポーチから出した瞬間からガクッとなりますね。重いものを『重量操作』で軽減した状態で飛んでみますか?」
「そうね」
スキルの併用……うまくいってないっぽいな。空爆部隊が多いと楽に戦えるんだけど……
重い岩を持ったアヤノさんをショウコさんが抱えて飛ぼうとするが……
「……飛べない……」
「いい案だと思ったのだけれど残念ね……私が触れたものは、私だけに重量操作がかかっている感じね……」
「そんな不条理な……」
スキルの優先度がなんかあるのかもなぁ……
試しにアヤノさんに重めの岩を『重量操作』で持ち上げてもらった後、俺が普通に持ち上げてみる。
「持てたな……軽いし」
「持てたわね……」
「どうなってるんでしょう?」
「スキルの優先順位みたいのがありそうですね……」
「まぁ、スキルの計算順番間違えると……家を一つを持ち上げて飛び回れる……様になっちゃいますもんね」
「なるほど……」
「『飛行』の重量制限はは重量の基礎値にかかかるみたいですね」
「??」
「要するに、アヤノさんの重量操作が……」
うーん。難しい話が始まったな……これだと、小さい樽とか、瓶みたいのを作って一個一個投げるしかなさそうだなぁ……
俺と同じく、話を半分理解した表情だったショウコさんが一人で小さい木箱みたいのをかなり上空から落としてるけど……目印と大分離れたところに落ちてるな……
あの高さだとターゲットに落としても当たらない?? 空気抵抗??
まぁ……銃の射程外の二百メートル上空からだと弾丸がなかなか当たらないから大丈夫だろうけど……
ん? 俺が呼ばれた? え? なんかハーネスみたいのつけて……アヤノさんとはこれで体くっつけてたのか。スカイダイビングみたいだな。
「それじゃ行きましょうか」
「……もしかして上空で自動追尾使う感じですか?」
「そうなりますね。自動爆破なんてのはありませんから。船に当たらないと意味がまったくありませんからね」
「なるほど……火炎瓶でもあればよかったですねぇ……」
「追い払うだけで良いと思うのですが……本気で殺してしまう気ですか?」
「……死んじゃうか……」
「まぁ、必要なら投げますよ?」
「……必要なんでしょうねぇ……」
「気が進まないですけど、粘性の樹脂の様なものは発見してますからね……」
「船が燃えたら海しか逃げ場がないので……」
「あ、海には魔獣がいるので泳いでいたら食べられてしまうそうですよ」
「……ああ、あれか……あれがいるのか……」
砂浜にいたイカともタコともオウムガイともいえる巨大な生物の事を思い出していた。
あれがうようよいる中で泳いでたら……魚レベルで泳げないと死ぬね。食べられて。
「アレですね……どちらにしろ殺してしまうんですね……」
「殺しに来るのでしょうがないかと」
「そうですよねぇ……妖魔相手だったら気楽なんですけど」
「……気楽……」
「え? そうじゃなかったんですか?」
「まぁ、人型の違う生き物に見えますしね……抵抗は薄いですね」
ちょっと妖魔に対する命のやり取りのハードルが低くなりすぎていることに気が付いた。
この世界に馴染みすぎて来たんだろうな。
俺はショウコさんに抱えられ……と言うよりハーネスで固定されてまるでスカイダイビングの逆を行くかのように離陸する。ショウコさんのステータスがあがったせいか、この前遊びで持ち上げてくれた時よりはるかに速い気がする。大分軽々だな。あっという間に木の上を優に超えて行く……足場が無いとちょっと怖いな。まるで富士山のふもとにあるアトラクションに来たみたいだ。
「銃の射程外の二百メートルと言う話なのですが……このくらいでしょうか?」
「……おそらく……ビルの屋上くらいですよね」
「……どのビルでしょうか? ちょっと……この高さは怖いですね……」
「まぁ、試してみましょう」
俺は渡された砂入りの袋をターゲットに対して自動追尾させて放ってみる。綺麗にまっすぐ落ちていくな。自在に的に当てられるみたいだ。袋も衝撃で割れて砂煙が綺麗に上がる。自動追尾の速度と落下速度が乗るから……かなりの威力になってるんだろうなぁ。
「私が投げるとうねるように揺れながら落ちていくんですけど……不自然なレベルでまっすぐ行きますね」
「自動追尾はかなりズルい感じですからね。相手が使ってきた時は厄介でしたね」
「必ず当たる槍だったんですよね……良く生きてられましたね」
「ほんとに。相手がもっと頭が良ければ多分死んでました」
「……そうですよね……サバイバルですものね……」
これで次の戦いはショウコさんと組むことになるのか。俺だけ離脱できる方法なんかも考えないとな。
それにしても、あの砂、本番は全部「カプサイシン」もどきだったり、樹脂製火炎瓶なんだよな……恐ろしい……
ちょっとだけ海賊達に同情してしまうな。
【海賊ではなく、ヴェネトア王国ですが……】
……あ、そうか。まぁ、やってることは海賊だからどっちでもいいんじゃない?
地上に戻ると、アスティナさんが目をキラキラさせてこっちを見ていた。
ショウコさんが再び彼女を連れて空へと飛び立っていった。
やっぱりアトラクションに見えたんだろうか?
普段、飛竜に乗ってるんだから……そんな珍しくないだろうに。不思議だ。
アスティナさんが遊覧から戻ってくると、付き添いのウィンディードさんにも強引に勧めていたが、本気で嫌がって全力で拒否をしていた。
まぁ……ある種の絶叫マシーンと言ってもいいかもしれないしな。普段空をぴょんぴょん飛んでるイメージだけど高さによって怖さが違うのかな?
無理強いは良くないよなぁ……しょうがないので軽く間に入って止めておいた。
アスティナさんが俺の事を見たあと、楽しそうに俺の後ろにいるウィンディードさんを見る。
『……なるほど?』
『なにがなるほどですかっ!』
『がんばりなさい。女性として扱ってもらってるんだから』
『姫こそ! 女性として扱ってもらってうれしいくせに!』
『……ふっ……すべてが終わったら「シンキプレイヤー」に嫁ごうかしら……』
『なっ!!?? カタシは駄目ですよっ!』
『……』
『あっ!』
言葉が分からないけど、アスティナさんがウィンディードさんをからかってる……んだろうな。こっちに来てから随所で見られる光景だから。相当気安い関係なんだろうな。幼馴染とか、そんな感じか?
§ § § §
太陽が傾き沈む前に拠点視察とアヤノさんの料理を堪能して満足したアスティナさんが、飛竜に乗って拠点から出発しようとしていた。
ウィンディードさん達が彼女を見送るために集まっていた。
『それじゃ「よろしくね! またね!」』
「日本語じょーず!」
「おお! よろしく!!」
「気を付けて!」
「またねー!」
ウィンディードさんがアスティナさんに近づき大声で話しかける。言葉が分からないけど……心配している感じが伝わってくるな。
『すぐに行きます! 無茶な移動はせずに、ちゃんと連絡を待ってくださいね!!』
『わかっているわ!』
『緊急時は思念石を使って連絡をしてくださいね!』
『わかってるわ! そっちも上手くやりなさい!』
『……は、はい!』
飛竜がかなりの距離を走って速度に乗った後翼を広げて飛び立っていった。まるで飛行機の離陸みたいだな。鳥と違って助走が必要なんだね。そりゃショウコさんの『飛行』スキルが珍しい訳か。魔法で空を飛ぶ……ってのはできないみたいだな。
それにしても……飛竜はその体格では飛べ無さそうなのに……飛んだな。これもエーテルの力か?
【そうですね。純粋な物理要素にエーテルに風の力を足している感じですね】
まぁ、そうだよな。地球だったらあのサイズで空を飛べるはず無いもんなぁ。重力操作してるんか?
【重量操作は破格の力ですね。どちらかと言うと風の力になります】
……なるほどね。重量魔法は珍しいってことか。
さてっと、準備しっかりとしないとな。残り時間はあと6日か……
その晩からはなぜかウィンディードさんとの距離が物理的に近くなった気がした。
なんでだろう?




