第94話 衝突する力
俺の前方ではまるで嵐の様な風が吹いていた。エーテルの力を集中させると台風みたいになるのか……すごい……ってか目が開けられない……目の前に『固定』でゴーグル作るか。
よし、くっきりと見えた。息もしにくいからマスクも作るか。これで息が簡単になるな。ガスマスクしてる気分になって来た……ってか……
【相変わらずすごい発想力ですね……】
ん? ありがとう??
ってそんな場合じゃない……
すごいエーテルの力だ……空気が歪んでる。
なんか地響きもすごいし……エーテルの力ってこんなになるの??
……うん。やばいな。このままだとこの地域一体無くなっちゃいそうな勢いだ。
うまく行くと良いけど……
『みんなの……仲間の仇を……死ねえぇ!!! はぁああああ!!!』
「すみませんが、死ぬわけにはいかないんですよ! 幸せになりたいんですから!!」
二人とも物凄い力を纏った剣を振りかぶって突撃しようとしている。
俺たちの築いた砦を簡単に破壊できそうなエネルギー量だ。
よし……今だ!
俺は、二人が動き始める瞬間にワールド座標で「剣」だけを空間と『固定』する。
二人とも綺麗に手から剣がすっぽ抜けて前方に突撃をし始める。
『えっ!???』
「なっ!??」
剣にエーテルが溜まってたのか流れがめちゃくちゃになり暴風が吹き荒れる。
あ、来た来た。集中時にスローモーションになるやつ。ほんとこの辺もゲームみたいだな……
よしっと、剣の周りを人がいる側に『固定』の壁を作ってコの字型にして……とんでもないエーテルの力を、空と向こう側に逃げるように穴をつくって……あ、二人の前にも壁を作って手出しをさせないようにしないと。
『ちょ!!??』
「えっ? なっ!!?? 止まっ!!」
ドゴオオン!!!
『ぶへっ!!』
「ぷひっ!! せ、せんぱひ……ナニを……」
……あれ? 何かすごい音を立てて二人がパントマイムみたいに壁に張り付いてる。気が付いてブレーキはかけたみたいだけど……それでも間に合わないよね。全速力だったし。
ってか、痛そうだな……死んでない……よかった。
違う! それどころじゃないな。貯めていたエーテルの力が暴発を……
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
剣にためていた膨大なエーテルが放出されたみたいで、それぞれの剣から雷と氷の嵐が巻き起こる。俺たち側は大丈夫だけど……なんか……力の逃げ場になった向こうの森が大変な事になったな……半分の森が雷で焼け焦げて炎上し、片側は……冷やされ過ぎて氷の霧の森が出来てる……あんなのをぶつけ合おうとしてたの? この人たち? 危険すぎじゃない?
【すさまじいですね。人の力でここまでの力を使えるとは……】
え? 想定外の力なの?
「すげぇな……」
「スキルを極めるとこんな事できるのか……」
「なんか森が大変な事に……」
「凍っちゃった……」
「火事にならないよね??」
「ああ、ハーブの群生地が……」
火事にはならないよな……わりと熱帯だから湿度が高くて水分も多いし……じゃなかった。仲間達は大丈夫そうだな。思った以上に『固定』の壁は守るのに便利なスキルみたいだ。
ってか、二人はまだヤルキみたいだな。
アスティナさんが俺をにらみつけてくる。美人だった顔が般若みたいになって怖い。どこかの映画のクリーチャーみたいだ。
『邪魔しないでっ!!』
「やめましょう!! 停戦を!! 話し合いましょう!」
とりあえず『固定』で部屋を作って……あ、空気穴は開けないとな。
アスティナさんが反対に行こうとして壁にぶつかり、色々な方向に『固定壁』がある事に気が付いて手であたりを探り始める。
『えっ……あれ? どこに出口が……』
「せ、先輩? もしかして閉じ込めるつもりですか? あれ……小さい穴はある?」
「そりゃ空気穴はつくるでしょ? 死んじゃうし」
「空気穴……あ、声は通ってますもんね」
「完全密封したら音も遮断したからな」
「……チートですね……先輩のスキル」
「かなり不便なんだけどね」
『せやぁあああああ!!!』
アスティナさんが懐から短刀を出してエーテルをためて壁を破壊しようとする。
なんか短刀なのにリキさんの一撃より強いような……気がするんだけど。
ガァアアアン!!! ガギィイン!!!!
エーテルの力がこもった短刀の先っぽが砕け散った。砕け散ったんだけど?? どんだけのパワーなんだ!? ってか『固定』固いな!
『なんて固さなの!?』
「すごい、かなりの力なのに……岩以上に固いのか」
……本当にワールド座標の『固定』は頑丈だよな。なんか危険だから短刀も『固定』しておくか。止まってるときはワールド座標で『固定』すればいいな。
『あ、あれ? 動かない??』
「……何かパントマイム見てる気分になってきましたね……ふふっ」
『貴様が笑うな!! これは……スキル? カタシの空中床?? 壁にもできるの?』
「私たち囲われちゃってますね……ふんっ!!! うわー動かないし……穴も大きくならない……」
リョウコが力を込めて壁を押したり引いたりした後、諦めた感じで俺の事を凝視する。
「先輩……これってどれくらい持つんですか?」
「ん? ああ、もう少しそっちに近づけば……消費と回復が釣り合いそうなんだよな」
「え? それってどういう??」
もうちょっと進むと……多分キャンプバリアのテストしてたくらいの体積に……ステータス上がってるからもう釣り合ってるかもしれないけど。ちょっと『固定』の厚さを調整するか。うん、これで大丈夫だ。SP消費が無くなった。減ったままだけど。
「……って、近づいてきてるじゃないですか」
「あ、ここなら、俺が解除しない限りずっとそのままだ」
「……マジですか?」
「マジ……みたいだな。ステータス上がるとこうなるんだなぁ……」
「あのー私は戦う気が無いので私を解放してくれたりはしませんか??」
パントマイムを続けて出口を探していたアスティナさんが何かリョウコに怒鳴る。
『何を言ってるの!! あなたが私たちを殺しに来てるんじゃない!? みんなが危険だわ!!』
「……私は……今回はまだ……何もやってません……」
『当たり前じゃない!! あなた達がやったことを先回りして潰していったんだから! どれだけ大変だと思ってるの!』
「なるほど……そういう事でしたか……あなたも記憶を持ってるんですね、やり直す前の……」
『え?……あなたも……記憶を持っているの?? それでイレギュラーが起きてたのね……』
「巻き戻った時に生きていた知的生命体……は記憶があるようですね」
『……条件があるみたいね……エーテル量かしら……記憶があるテストプレイヤーもいる? だとすると……港の防衛線が危険か……』
うーん。会話が半分だけわかる会話を理解するのは……難しいもんだな。
アスティナさんもやり直し前の記憶を持っているって感じか。
敵も味方も記憶持ってる状態ってことか。妖魔とか違う部族、魔獣とかも生き延びてれば記憶を持ち越してるのか?
【それに関しては調査しきれていいません】
なるほど……知的生命体だけに注意しておけばいいか。前回の話とやらで何かの事件が起きたらそれを止めに入る勢力があるくらいに考えた方が良いな。
『あなたは……なぜ鬼人族を……この島の住人達を殺したの……』
「……前回の話をしてるのなら……ゲームクリア、目標達成のためですね」
『……ゲームとは……遊びの事?』
「遊び……クリアしたら報酬がもらえるという定義の……仕事かもしれませんね。遊んでる感じはなかったですから」
『……あなた達は報酬のために私たちを殺したのね……』
「そうなります……」
『……さぞかし良い報酬なんでしょうね』
「そうですね……あちらでの人生を変えるくらいの報酬ではありますね……」
アスティナさんの目からは怒りの炎がユラユラと揺れているように感じる。
一方のリョウコの目は……何と言うか悲しいような……そんな感じがする。
「私たちはこの世界が……仮想現実……夢のような世界だと思ってましたから……」
『夢?? 仮初の現実?? 何を言っているの? 私たちはこの世界に生きているわ??』
「……知らなかったんです。現実だったなんて……」
『何を言っているの? 夢……生き物にしては行動がおかしかった……言動も……こんな……夢だと思っている人たちのために……私たちは……』
アスティナさんがへたり込んで力なく座り込んでしまう。本当に崩れる様だ。表情から怒りの色が消え、強化されていた怪物のような体が元の体に戻っていく……物凄く不思議だ……
『…………前回は……折角……うまく行きかけてたのに……あなた達が……台無しに……』
「……」
いつの間にか俺の隣にはウィンディードさんとナオエさんがいた。
『姫様……』
「カタシ君、どうなったの?」
「……ごめん、分からない……リョウコ、説明できるか?」
「……はい」
リョウコは一瞬俺の方を見たあとうつむいたまま、目を合わせないようにして答える。普段は目を嫌と言うくらい合わせてくるのに……魔法の鎧も光の粒となって消えてしまってるな。不思議な光景だ……
「どうやら……鬼姫様は私と同様に、前回の記憶を持っている様です。それでテストプレイヤーの動きを予測して妨害……足止めなどをしてきた……みたいですね」
「……なるほど。それでせわしなく移動してる感じだったのか」
「稼ぎスポットや、大規模な戦闘の起きた場所や……ターゲットとなる種族の長がいなかったり……めちゃくちゃになってましたからね」
二人とも座り込んで地面を見たりしている。完全にネガティブモードだな……
ちょっと時間を置くか……
気が付くと大分日も落ちて来た……そろそろ夕食だけど……拠点の皆も最初は心配そうにして見ていたが、気が付くと解体作業に戻っていた。
リンカさんがハーブティを差し入れてくれたので、二人の固定を少し開けてカップを中に入れる。アスティナさんがとても不思議そうにしていた。まぁ……置いたカップが空中に浮いているものな。
時間をかけてゆっくりとハーブティと美味いオヤツを食べ終え、落ち着いた感じで俺に話しかけてくる。
まぁ、言葉は分からないけど。
『カタシ、私はやることがあるの:。ここから出して』
ウィンディードさんがすぐに通訳を日本語でしてくれる。
「カタシ、アスティナ、シゴトアル、ダシテ」
「……リョウコと喧嘩……じゃないな。殺し合いをしなければだ」
『リョウコと殺し合いしなければ出す。そう言っています』
『それはできないわ……』
『なぜ? リョウコは悪い人に見えませんけど?』
『私は彼女が前回、何をしたか……鮮明に覚えているわ……』
アスティナさんのリョウコを見る目が……怒りを押さえつけている様な……それでいてモノを見ている様な目に見えた。普段の陽気で勝気な雰囲気が全く感じられなかった。
『その人は、同胞を殺した。信じられないくらい沢山ね。逃げる人間を後ろから攻撃して殺し……まるでアリを殺すかのように冷酷に殺しまくったわ……』
『……』
『それに……しっかりと覚えているわ……あなた達は……私と戦っている最中に……私たちの守る街に大規模魔法を放ったことを!!! 何もしていないのに……ただ暮らしているだけなのに……この人たちは鬼人族を滅ぼそうとしているの!』
『……リョウコ……本当なの?』
リョウコが完全に地面を向いて……かすかに震えてる様に見える……
「……事実です……あれは……すみません……あなたが強すぎて……レベルアップの回復を利用しようと……」
レベルアップで回復……ってゲームにある仕様だけど……この世界でそれが出来るのか……すごいズルいな……
「テストプレイヤーは……レベルアップで回復する仕様なのか?」
「……はい。レベルアップ時にHPとMPが全快するので、ボス前に経験値調整をして挑んだり……本当にゲームみたいなことしてました。鬼姫や将軍が強すぎだったので……負けそうだったのでレベルアップのために……街に……大規模な爆発魔法を……」
「!?」
「……え?」
『失われた古代魔法……』
……ってことは……リョウコは……本当に街を吹き飛ばしたのか……あの優しいリョウコが?? なんてことを……彼女の目からは完全に「仮想空間」に見えていたってことか……
『……あの爆発の下で……何人の命が失なわれたと思ってるの……あそこには……戦えない人間が……戦えない人しかいなかった……」
「ごめん……ごめんなさい……わたじ……なにもしらなくで……」
リョウコが一瞬アスティナさんを見たあと、崩れる様に泣き始める。
……何とも言えない……
時間が巻き戻りをしていなかったら……取り返しが本当につかないことをした……
今はやっていないけど、やった過ちを覚えている人がいる……どういう心境になるんだろうか。
怒りに満ちた目をしていたアスティナさんが、リョウコの泣きじゃくる様子を見ていると憑き物が取れたかのように落ち着いた瞳になっていく。
『あなたも……カタシと同じ……人間だったのね……』
『リョウコはとてもやさしい人間です……話も上手で理解し合えます。本当に知らなかった……この世界を現実と思っていなかったかと思います』
『テストプレイヤー……最後まで生き残った人間に記憶があるとすると……あの襲撃事件……私の弟……神子を襲った事件が理解できるわ』
『先日の神子様襲撃事件……ですよね? テストプレイヤーだったのですか?』
『おそらく、そう。前回の最後の戦いで……彼等は神子を襲っていた。『標的はアイツだったのか!』と叫んでいたのを覚えているわ』
しばらくリョウコは泣き止まなかった……泣き止んだ後も虚空を見つめぼーっとしていた。
その間にもアスティナさんとウィンディードさんが話し合いを続けていた。
鬼人族語を使っていると、とても知的な感じがするんだよな……片言ってやっぱり幼く感じるもんだね。
「リョウコ……大丈夫か?」
「……かなりきついです……人生で一番……」
「そうだよなぁ……だけどさぁ……」
「……慰めてくれるんですか? 大量殺人犯を?」
「だってさ、まだ「起きてない」んだろ? 鬼人族と戦うのって港町以降っていってたじゃないのか?」
「正確には鬼人族の砦の……彼女が……ウィンディが最初ですけどね……あとは四本腕の……」
「……そっちも絡んでるのか……」
「はい、なので最初驚きました。私が鬼姫さんだったら……最後に生き残ってた人間を殺すでしょうね……全員キケンなので」
「……」
リョウコが完全にネガティブモードだな……時間が巻き戻って犯罪したのが無かったことになっても……ってか起きるのを全部防げばいいんじゃないのかな?
「なぁ、リョウコが鬼人族を救うってのはどうだ?」
「……え? 自分を殺した人間に救われるって……どう思うんですかね……」
「だってさ、最後まで生き残ってない人間以外の記憶は無いんだろ?」
「……」
「そうすると、アスティナさんと、最後に残ってた将軍さんが黙ってたら分からないわけだし。ほら、ウィンディと仲良くできてるだろ?」
「……それはそうなんですが……いいんでしょうか……」
「次に起きる港町の防衛で活躍出来たらいいんじゃないの?」
「それが……贖罪になるんでしょうか……」
アスティナさんがウィンディードさんとの会話をやめてリョウコに話しかける。
『カタシはなんて?』
「……鬼人族を助けたらどうだ……と言っています。あなたと将軍以外記憶が残ってないから問題ないだろうと」
『……確かに……ウィンディとはうまくやれているわね……』
『姫が話すような人間とは思えません』
「許してくれ……とは言いません。ただ……この世界が現実なら、あなた達を殺す事はもうしません」
『……そう。あなたが敵対しないでくれるだけで助かるわ。できるなら……あなたが最後に生き残った……いや、鬼人族を襲ったテストプレイヤー、仲間だった人を止めてくれるとうれしいのだけれど』
「……そうですね、仲間だった人……ですね……信頼なくなったんで……私」
アスティナさんが初めて哀れんだ目をしてリョウコを見る。
『やり直しの事を正直に言ったらみんなそうなるわ。私も今回は将軍が生き残ってなかったら……誰も信じてくれなかったと思うし……』
「そうか……もう一人証人がいればか……今後の事でもめなければ……うまくいったのかな……」
俺は話が落ち着いてきたので、隣で静観していたナオエさんをひじでつつく。
「もう大丈夫だと思う?」
「……うん。予想外過ぎて……本音を言うと……ついていけなかったかな……本当に何でもありね。この世界」
「そうだな……巻き戻ってるの……実証しちゃったもんな」
「私たちが黒結晶壊せなかったら……巻き戻るのかな?」
「そうかもしれないな……最初から巻き戻ったら……キツイな……」
「そうね……私も偶然生き延びれたから……同じことをやれと言われても無理ね……」
「そんなにか……」
ナオエさんも最初合った時ボロボロだったもんな……ふと、突然、俺の視界をウィンディードさんが覆う。なんか揺らされてる?
「カタシ、アスティナ、出して。タイヘン」
『は、はやく! お願い!!』
「へ? どうした?」
『トイレ!!』
「トイレ!」
あ、そうか……閉じ込めてから結構な時間経ってたか。まぁ、和解……と言うより妥協って感じだけどもう大丈夫だろうな。
『固定』を解除すると、アスティナさんが凄い勢いで姿を消す。ウィンディードさんが慌てて後を追っていった。
なんとなく取り残された感があったが、ふと疑問に思った事をリョウコに尋ねる。
「すまない……出す前に……一応聞いておきたいんだけど」
「……なんでしょう?」
「リョウコがこのゲームをクリアしたい理由って……なんだ?」
「……結婚資金……ですかね?」
「結婚資金?? あれ? 付き合ってる人……いないよな?」
「……お金の使い方が悪いダメ男を好きになってしまったので、お金がいるんですよ。まとまった」
「……そうなのか……何と言うか、お金に駄目な人間は……その、うまく行くと思えないから止めた方が良いと思うぞ?」
「……なるほど……そうですか……響きませんか……」
『固定』を解除するとリョウコがゆっくりと歩いてきて俺に抱きつく。
「どうした?」
「……ここはぎゅっと抱きしめて慰める所です……」
「……そうか」
言われるがままにリョウコを抱きしめる。思ったより小さいな……抱きしめるとまたかすかに震えているようだった。
こんな姿は見た事が無い……
遠くの方からこちらを呼ぶ声が聞こえる。
日も暮れたし……夕飯の時間か……持ち直してくれると良いんだけどな……
なぜかその日の夜はささやかな……ではなく祝勝会になっていた。
拠点の仲間が何となくの空気を察してか、飛竜退治の祝勝会とリョウコの歓迎会みたいになっていた。さすがに気まずいのか距離を取っていたアスティナさんだったが、彼女が酒を飲んでいるのを初めて見たし。間を取り持った方が良いかなって思って、普通に話しかけたら驚かれたけど……なんでだろ?
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4章はここまでになります。
良かったら★やブクマなどをつけていただけるとモチベーションが上がりますのでよろしくお願いします!




