第84話 リョウコの葛藤
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リョウコが若干ふらつきながらも警戒しやすい高台へと移動する。
空中に光るUIを操作すると、突然何もない空間にドア付きのテント……遊牧民のゲル? が光の粒子から実体化するようにして出現する。スキル? 魔法??
「すごいじゃない! 家を出す魔法?」
「これなら長距離移動しても楽ね」
『こんな家を建てる魔法なんて……私たちには無いわ……すごいのね……』
女性陣が驚きとうれしさに包まれている。まぁ、野営だと思ってたから……これは助かるな。
「あ、ちょっと待ってくださいね。入室設定を変えるので……あれ? えっと……あの、プレイヤー名で先輩達が引っかからないんですけど……ウィンディも無理か……」
「ん? dontmove4だぞ?」
「いつものやつですね。えっと……駄目っぽいですね」
「……もしかして……入れない?」
「かもしれません。UIでの情報には名前が表示されているんですけど、ターゲットで選べませんね」
「試してみるか」
「はい」
リョウコがドアを開けると、中にはまるで近未来の豪華なコテージの部屋のような空間が広がっていた。
「……スゴイ……」
「どこでもドア系のなにかかしら? 外と中の体積があっていないわ!」
「サチ……興奮するところ間違えてるぞ?」
「ね、ねぇ……やっぱり入れないの?」
部屋の中に入っていくリョウコに続いて俺が恐る恐るついていくと、扉の部分で見えない壁の様なものに遮られて中に入ることが出来なかった。『固定』スキルの「壁」が張られているみたいだな。
「やっぱりだめそうだな」
「不思議な魔法テントね」
「なぁ、ってことは、このテントは壊せないのか?」
「壊せますよ。魔獣の攻撃とか、プレイヤーでも攻撃を与えるとゲージが減っていきまして、それを超えると光の粒子となって消えます。壊れると再使用まで3日なので……あ、攻撃しないでくださいね。アイテムストレージも兼ねてるので」
ゲージでアイテムが消える?? HPゲージのことか?? ってか3日待つと自動的に治って……アイテム収納ボックスもある?? ってことか??
「……なるほど?」
「理解しきれないわね……」
「ゲームの仕様をそのまま現実に落とし込むとこうなるのか?」
「……素敵な部屋ね……ベッドがある……どう見てもシャワールームみたいな扉も……キッチンまで……入れないのか……」
ナオエさんが部屋の中を見て目に涙を浮かべていた。まぁ……サバイバル生活をしていたらそうなるよなぁ……野営も多いし。あちらの世界での普通が、今の生活だと天国に見えるからなぁ……
拠点で作成した簡易ベッドもかなり良くなってきてるんだけどなぁ。これに比べると快適性はまだまだだもんな。
「あ、ジンパチさん達に連絡……こんなに遅くなるとは思ってなかったから……」
「大丈夫よ。私たちが遠征に出て帰ってこなくても探索には来ないことになってるから」
「……いつの間に……」
「探索に向いてる戦力……スキルはショウコさんしか持ってないでしょ?」
「確かに……」
リョウコがぐったりしながら扉に寄りかかっていた。
「あ、すみませんが少し休ませてもらいます……」
「音は聞こえるんだよな? 中でも?」
「はい。それは大丈夫です。魔獣とか来たらすぐに知らせてください」
リョウコが重たいからだを引きずるようにしてそのままベッドにダイブする。
……いいなあれ……こっちのベッドはあそこまでふかふかじゃないからこの一か月やってないわ……ベットのふかふかのスプリングが恋しいな……
それから夕ご飯を作るグループと、寝床を作るグループに分かれて作業をする。
もちろん俺は寝床を作る方だ。
「……手慣れてるなぁ……寝るのは木の上ってのが新鮮だな……すげぇな、カタシのスキルは……」
「あとは手持ちのベッドやら毛布置いて終わりだな、あ、壁と天井のキットももらってたんだった」
「……すげぇ……あ、俺持つからどんどん『固定』していってよ」
「二人でやると楽だなぁ……なんかおもろいね」
「だな」
四次元収納ポーチから資材を取り出し、大木の枝に土台を作り、その上にベッドを取り出して置いていく。後はジンパチさんに改造してもらった組み立て式の屋根を組み立てて『固定』っと。壁も並べて……っと。うん。インスタントな木の上の小屋の出来上がりだな。釘もビスも留め具も必要ない『固定』ならではの家だけどね。
【すごいものですね……】
ほんと、四次元収納ポーチとワールド座標『固定』はぶっ壊れスキルだよね。消費SPも少ないし……ん? 減りも増えもしてないから……回復と消費が釣り合ってる? 成長したなぁ……俺も。
「……部屋は男女で区切るのか?」
「ああ、もちろん……理性が持たない」
「……そういうもんか?」
「……ナオエさんが抱き枕にしてくるからな……」
「……へぇ……女傑っぽいのにな……この世界だけの恋人関係……ってのでもいい気がするけど」
「……あ、そういう……うーん……そんなんで……あー」
そうか、そんな考えが……あ、でもナオエさんの相手もこの世界に来てるとしたら……うーん。この世界だけか……いい思い出……うーん。
「あ、すまん。聞かなかったことに……あ、ほんとその線は考えない方向で……」
完全に手が止まってたな……それからも色々と悶々としながらも作業をしていく。たまにリキさんから何とも言えない視線を感じるが……違う事を考えちゃって作業が捗らない……
「なぁ、カタシは……その、結婚目前まで行ってたんだよな? なんで……そんなんなんだ?」
「あ~、ナオエさん……中学の時の……初恋の相手だ」
「……あ~それは……ま~そんな感じか……青春的な……こじらせ系かぁ……それはしょうがないか……」
この世界で恋愛関係とかになって、あちらの世界に戻った時にどうなるか……とか考えちゃうと……割り切ってやれないんだよね……ナオエさんもそんな感じだし。
【……おそらく今日から態度が変わるかと思いますが?】
……なんで?
【……あなたは恋愛系の機敏に疎いタイプですね……】
……ほんとになんかあったっけ?
手が遅くなりながらも、肉の焼ける良い匂いがしてきたので下へと降りる。さすがに一か月もこのサバイバル生活をしていると……みんな野営に慣れてきてるよな。テーブルも出されてその上に食器が……ってキャンプ場に来てる気分だな。四次元収納ポーチがチートすぎる。
「あなたたち……と言うより、カタシさんのスキルと、拠点メンバーのアイディアのおかげなのかしら? とてもすごいものを作ったのね」
「スキルを利用した、プレハブとか言ってた……組み立て式の小屋ですね」
「雨風はしのげそうね……豪華になったわね」
「プレイヤー、スゴイネ」
すっかり辺りは薄暗くなり、夜に差し掛かってくる中、夕ご飯の準備が出来る。というより焼きながら食べていくキャンプスタイルだな。
「リョウコ、体調どうだ? ご飯食べれるか?」
「……はい大丈夫です……落ち着いてきたら良い匂いがしてきたので起きました……」
「匂いは部屋に入れるんだな」
「確かにそうですね」
リョウコが若干気だるそうにホームから出てくる。
「えっ? すごいですね……キャンプ場に来たようなことに……え? なんですかあれ? 木の上に小屋が出現した?? スキルですか??」
「スキルと知恵の結晶かな」
「……スキル……新規プレイヤーの方が恵まれている気がしてきました」
「……うーん。隣の畑は何とやらな気がするけど……」
俺にはルールがしっかりとあって、妖魔や魔獣を倒してダンジョン周れる方が良いような気がするんだけどな……シンプルだし。綺麗なホームも羨ましいんだけどねぇ……綺麗な風呂入りたい。
夕ご飯は本当にキャンプ場に来たかの様な雰囲気だった。
ジンパチさん達が開発した、組み立て式釜戸が大変便利で焼き肉パーティ状態だった。
「それで、どうしたんだ? 精神的なモノって……今、聞かない方がいいか?」
「……あ、もう大丈夫です……私……この世界をやり直してるっていったじゃないですか?」
「言ってたな」
「ぶっちゃげ……仮想現実の世界かと思ってまして……ミッション達成には手段を選ばなかったんですよ」
「それと精神的なもの……何の関係が?」
「この回ではまだやっていませんが、中盤以降は鬼人族の街に広範囲の魔法を撃ったり……経験値稼ぎに……小さな子供たちももろとも……」
「なるほど……俺たちが妖魔相手にしていることを鬼人族にもやってた……と、前回のやり直し前では……ってことだな」
「はい……仲間内でも、感情のAIがリアルだよなぁ……とかの話題にはなっていたのですが、中盤以降は戦闘が激しくなって脱落者も多くなって、そんなことに気を回せずって感じで」
なんか……鬼人族の砦を襲撃した二人の振舞いは……そんな環境にいたら当然だったのかもな。俺も何でもできるのが売りのゲームで通行人を車で轢き殺してたものな……
【なるほど……命が無い仮想空間の者に対しては倫理が無い感じなのですね】
まぁ……殺しても、命が無いからな……データって割り切ったらなんでもできるしな。
経験値稼ぎで命を奪うのが現実だったら……まぁ、そうそうやれないな……
ウィンディードさんの表情が非常に曇っていた。リョウコの言葉はわかるんだもんなぁ……
彼女は視線を感じると、小さな声でつぶやく。
「マダ、オコッテナイ……オコル。デキナイ」
「そうだよなぁ……」
「……それにしては……先輩たちは……魔獣を狩るのに躊躇ないですよね、妖魔相手にもですけど……生物。現実の生き物なんですよね?」
……あ、確かに最初は結構気にしてた気がするな……どうだったっけ? 妖魔の時は寝られなかったっけか……もうすでに遠い過去の様な記憶だ。この世界に来てから濃すぎるんだよな。
「……最初は抵抗あったなぁ……殺した後、手が震えたりしてたぞ?」
「そうなんですか……」
何となく、みんなの視線が同情……と言うより「共感」って感じだな。この世界のプレイヤーは誰しも通る道だものな。
「魔獣は……素材?」
「肉と素材ね。美味しいし仲間が飢えないし、防具の素材になるみたいね」
「妖魔は残念ながら人間、地上の知的生命体を容赦なく襲ってくる相手ということだから、こちらも容赦をする必要が無いわ」
「妖魔とは最初は話そうとしたんだけど、容赦なく来たからなぁ……」
「あなたのスキルが無かったら危なかったわよね……」
「ほんとに……話せそうなんだけどなぁ……」
「……」
割とひょうひょうと質問に答える仲間を見て、リョウコがしばし考えにふける。
「そうか……普通は利害関係あってやるものですものね……ミッションに盲目的に従ってただけかも……ってことは……この先の未来も……変えられるってことですかね?」
「もうすでに変わってるだろ?」
「そうですかね? 悪い方向に傾いちゃって……あんなに仲の良かった仲間もバラバラになっちゃって……」
「仲が良かった?」
「はい……前回では……私も含めて……生き残って記憶を持ち越せた人間のせいで……チームを滅茶苦茶にしちゃった感じですね……はぁ……もう一度やり直せれば……」
リョウコはかなりネガティブモードに入っているな……うーん。色々と情報が多くて何が何だかわからない状態……か。
俺は食卓を見回す。頼もしい仲間……沢山いる気がするんだけどな。
「その時俺たちはいたのか?」
「いませんでした」
「じゃぁ、いい方向に変わってるんじゃないの?」
「え?……そうですね……たしかに」
リョウコの表情が一気に晴れた気がした。
「あとはミッションとやらに頼らずに、リョウコの目で見て考えたら?」
「……そうですね……大分視野が狭かった様です……」
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