第83話 仮想現実か現実か?
岩竜を『固定』で空中に吊るし血抜きをしている最中に、俺はスキルの『飛ぶ斬撃』をもらって、さっそく試していた。
もう一つのスキルオーブ『爆発』の方はサチさんが持って行った。リキさんかと思ったけどスキルの組み合わせで似た事が出来る……ってそれもすごいんだけど……それで譲ったらしい。
スキルを何個も持ってると、賞金の事よりもスキル構成で生き延びる確率を上げる方になっていくんだなぁ……まぁ、俺も五つ持ってる……って……ご、五千万円か。二十年は生きていけるか? 普通に働いて投資にまわせば……老後の貯金に……
二人ともあまり賞金の事を言わないから……ナオエさんと同じでスキルを持って帰りたい系かな?
【……カタシの欲のなさには驚かされますね】
……え? そうなの? 他の人の発想ものぞいたりしてる?
【もちろん。いいデータとなっております】
やっぱり……億万長者めざすのかな?
『飛ぶ斬撃』スキルの説明を読むと、持っている武器を振るったら、圧力がそのまま減衰しながら飛んでいく……といったものだった。思ったより地味?
ウィンディードさんの風の魔法みたいに「真空の刃」みたいな感じで飛んでいくかと思ったんだけど……
試しに弱めに『飛ぶ斬撃』発動をさせて槍を振るってみる。
ザンッ!
槍が当たっていない木の細い枝や草が綺麗に切れた。
うん、確かに斬撃が飛んだ。刃の長さが長くなった印象だ。
ただ、減衰もすごいな……すごい勢いで切れなくなってる。それでもナオエさんがびっくりした表情をしていた。
「すごいじゃない。触れてもいないのに切れた」
「ヤリニカゼノチカラ。カンジル」
リキさんが興味深そうに『飛ぶ斬撃』を見ていた。
「……近接戦闘がメインだったら役に立ったかもな……」
「そうね、リーチが伸びてくる様なものだものね」
リキさん達がそういうのも確かなんだよね……接近戦で剣術とか槍術に混ぜながら使えば……かなり良い感じだったかもしれないけど……遠距離主体の俺だと宝の持ち腐れだなぁ……
「ほんとに。ちょっと威力上げてみるね」
中くらいの威力で『飛ぶ斬撃』を発動させてみる。
ザンッ!! ビシッ!!
草むらに放ってみる。綺麗に草や枝などは切れるが、岩や木の幹は切れる事が無くそのままだった。
「スゴイ! カマイタチのマホウ!」
「予想通り……って感じだな」
「槍で切れないモノは切れないって感じだな」
「あー、でも……あ、そうか、カタシくんだったら『固定』を使った方が楽……ね。槍を投げた方が手っ取り早いし」
「音が殆ど出ないのは良いんだけど……やっぱり実際の斬撃の威力依存か……」
「俺が使った方が良かったか? ……いや、俺のは斬撃じゃないな。打撃は飛ぶのか??」
「説明には、圧力を飛ばす……みたいな感じになったから……質量的な威力はいかないかもね……」
「圧力を飛ばす……かぁ……」
まぁ、岩竜を倒せてなかった……ってことはそうだろうなぁ……って思ってたけど、やっぱりそうだった。文字通り刃が立たなかったんだ。岩竜の鱗に。爆発も似た感じだろうなぁ……岩竜に致死に至りそうな怪我とかなかったもんな。汚れくらいしか。
リョウコが俺たちの様子をみて若干がっかりした感じになっていた。
「スキルがポイント無しで拾えても、使うまで効果が分からないのは……運ゲーですね、新規プレイヤーって」
「……たしかに」
「一応説明は読めるのだけれども……イメージが読む人によって違う……っていうのが難点なのよね」
「なるほど、プレイヤーの知識や経験にないものは……伝わらない感じですか」
「みたいだなぁ」
ポンッ!
可愛らしい爆発音をサチさんが出していた。豆粒台の『爆発』を試しているみたいだな。
指先にエーテルの塊みたいのをためて……投げて……爆発……か。お? 三つ弾を出した?
ポポポン!
ずらして爆発もできるのか。面白そうだけど、サチさんの表情がすぐれないな。どうしたんだろ?
リョウコが周囲をきょろきょろと見まわしながらサチさんに注意をする。
「あ、爆発系の魔法を使った後はすぐに逃げないと色々なものが寄ってきますよ。って知ってる感じですか?」
「ええ、リキがスキルの練習で地面に大穴を開けた時の音で、魔獣も妖魔も鬼人族も見に来たわね……」
「大変だったな……あれは」
二人が遠い目をしている。中央の弱肉強食な世界で大きな音を立てると大変な事になる……ってことだろうなぁ……
「今ので1000分の1くらいの威力で撃ったつもりなんだけど……どれくらいの大きさになるのかしら? 豆粒の1000倍……」
「あれじゃないか? 豆粒1000個あると考えた方がいいような?」
「バスケットボールくらいか? バレーボールくらいか?」
「困ったわね……本当に手りゅう弾みたいなスキルなのね……物質の高速化合……とか期待してたのだけれども」
「しかも練習しづらいスキルだよな」
「ええ、音が……この大きさでこれだと……」
確かにこの小さな爆発で、大声以上の騒音だな。
考えてみると……俺たちは派手な音の出るスキルを一つも持っていなかった。
『爆発』……一見強そうなスキルだけど、このサバイバル環境下だと狙ってください、見つけてくださいと言っている様なものか。銃も使うのをためらうくらいだし……
「練習は……海にでも行ったらすることにするわ。他のスキルで自衛する方法を考えた方がよさそうだけれども」
「そうだな。威力によっては……色々できそうだけど……」
「岩竜は倒せないくらい……の威力みたいだけどね」
「うーん、死体を見る限りは……あたったかわからないな……ってか、リキさんの攻撃で頭がぐちゃぐちゃ……」
「そりゃ、焦ったからな……つい本気で……」
「そうですよ! もう少し事前にひきつけるからとか、言ってくれないと! あとなんですかあの空間障壁の固さは! ドラゴンが自分の突進でつぶれてましたよ!」
「カタシ君……もう少し、お話しましょうか、しっかりと……事前に」
「……はい」
ナオエさんだけ目が怖い。やばいな……怒られる流れだ。
しょんぼりしているところにウィンディードさんが空気を読まない感じでこちらに呼び掛けてくる。
「ナオエ! カタシ! カイタイテツダウ! オタカラ! オタカラ!」
「お、おう……手伝います……オタカラって……誰が教えたんだ」
糾弾されそうな雰囲気なんでさっさと逃げないとな。あれ? リョウコがきょとんとしてる?
「え? ……解体??? なんで吊ってるかと思ったら……」
……あ、そうか、テストプレイヤーは倒したら何やらもらえて終わり……って言ってたっけ。その辺も説明しないとか。ってか、素材をそのまま放置って……もったいないなぁ。
俺たちはウィンディードさんの指示をうけながら岩竜を解体し、ついでにリョウコに俺たち新規プレイヤーの仕様を説明していく。
「……って事は、新規プレイヤーは、サバイバルゲームが主軸で、それにバトルロワイヤル要素が足されたって感じなんですか……すっごく難易度高いですねぇ……って、あれ? 先輩たちは協力してますよね??」
「どうも人間相手は抵抗があるからなぁ……」
「まぁ、そうですよね。ちゃんと痛いですし、光の粒子になるまでは生きてますものね……それにしても解体して冷凍して……って、魔法なんだかスキルなんだかわからないんですが……」
「ああ、俺もだれが何のスキルを持っているか、あまりわからない」
「え?」
「なんか詮索しないのがマナーみたいになってるかな?」
「……そうか、職業制じゃないと……そうなるんですね……PVP(対人戦)やってたらなおさらか……」
解体も終わり、出来るだけ肉や皮、使えそうな骨……などを四次元収納ポーチに入れていく。ってか、内臓以外ほとんどポーチに入ったな……恐ろしい解体技術と収納力だ。
あとはケイさんがいれば穴掘って内臓埋められるのになぁ……
「……あの、先輩。この世界って……現実なんでしょうか? それとも高度に生成された仮想空間なんでしょうか?」
あれ? リョウコは本気で言っている? 言ってる感じだな。表情が割とマジだ。
「なんでだ?」
「……鬼人族と真面目に話したの……いや、雑談をしたのは初めてですが、明らかにAIじゃないですよね?」
「……何を言ってんだ??」
「プログラムじゃ……なか……」
リョウコの声が聞き取れない、小さくなって擦れていく……
ほんとなにを? あれ? リョウコはこの世界をゲームだと思っているってことか?
【会話の節々でそう思える発言をしているかと思いますが】
なるほど……俺なりの視点の解説をしておいた方が良いか……
【おすすめはしませんが……】
……なんでだ? うーん、でも、今しておかないと駄目な気がするんだよなぁ……
「この世界はどこかの異世界の現実の島だ。そこに俺たちが「管理者」が生成した若い体に魂、記憶が入って生きている……って感じだろ? まぁ、スキルがあったり、ゲーム的なサポートが入ったりするから現実感がちょっと薄いけど……」
「……まじですか? 仮想空間って思った事は……」
「無いな」
俺はいつの間にか集まって来ていた仲間に気が付いて周りを見回す。心配そうにしているな……
「無いわね……」
「現実の異世界の島に来たと考えるのが腑に落ちるわね」
「のどの渇きも酷いものね……あと空腹も」
「まぁ、さすがに、トイレに行くときに気が付くだろ」
「たしかに……」
まぁ、そうだよね、トイレ……便意周りは本当に悩まされてるからな。
「支給された食料を食べていると……なんというか、あまりトイレに行かなくていいのですよね。ホームポイントに戻った時に出せば……って男性の前でする話じゃないですね……」
リョウコの表情が段々と曇っていく……ちらりとウィンディードさんの方を見たあと……この世の終わりのような顔をする。
「おぇええええ!!!」
リョウコが突然嘔吐した。
「ちょ、どうした?」
「……おおおえぇえええ!!」
いきなり二日酔い……なわけないか? さっき食べた現地の食べ物があわなかったとかか?
俺があたふたとしている間にもリョウコはそのまましゃがみ込んでしまう。どうしたら……あ、ナオエさんの『治療』で……
「リョウコちゃん、どうしたの? 大丈夫?」
「……ずみまぜん……現実……とは……思って……おぇえええ」
ナオエさんが優しくリョウコの背中をさすっている。エーテルをかすかに感じるから治療をしてくれてるんだろうけど……
「ずみません……これ、心の問……おええええ」
「ワタシ、ナニカシタ?」
「いや、なにもしてない……と思う」
顔を見たあと嘔吐されたウィンディードさんが複雑な表情をしていた。
§ § § §
リョウコはしばらく出すものを出した後、やっと落ち着いてきたようだった。
「えっと、綺麗にしないとか……自分でできるわね」
「はい……すみません……『万能なるエーテルよ、このものより不浄なる汚れを取り払い給え……洗浄』……こんなんだから現実感無いんですよね……」
リョウコが呪文を唱えると、エーテルが包み込み汚物を洗浄して取り払っていく。
本当に便利な魔法だよな。『浄化』のスキルより使い勝手良さそうだし。
「立てるか?」
「……はい……」
あ、無理してるやつだな、これ。
どうしようか……今から戻るとしても……空も夕暮れになりかかってるし……
「ん~そうだなぁ……急いで移動しても……夜になるか……ここでキャンプする?」
「そうね。優しいのね」
「ここで『帰還』のカード使うのももったいないしなぁ……」
「カタシ君がいってた、バリアキャンプとかやるの?」
「……あれは3人寝れるくらいの容量じゃないとSP減っちゃうんだよな……」
「3人だったらできるのね……」
6人か。抱きつきながら寝れば……って何考えてんだ俺? ああ、違う! 妄想してる場合じゃない……
【カタシ……後輩が苦しんでいる時にそれはないのでは?】
わかってるけど……禁欲が長すぎるんだよ。ほんとに。何で美形ばっかりなの? ここの女性陣って??
【偶然でしょう。我々から見ると個性的な外見に見えるのですが】
……そ、そうですか……まぁ、アーゼさん達は神様みたいなもんだから……綺麗なんだろうなぁ……
【美の意識が違う可能性があるので何とも……】
リョウコが俺の顔を見ながら奇妙な顔をしていた。あれ? 考えが表情に出てたのか???
「ああ、非戦闘時なので……ホーム出しますよ。すいません、足引っ張っちゃって」
「ホーム?」
「……ああやっぱり仕様が違うみたいですね。それじゃ……ここだと匂いそうなので、あちらの空き地に……ヌシを倒したのでセーフエリアになってますね……」
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