第82話 いざとなったら優柔不断?
俺たちは百人規模の妖魔の砦を襲い退治をした後、スキルオーブの回収に向かっていた。
妖魔の砦での戦闘の内容を書かないのかって?
だって……
瞬殺だったんだもんなぁ……妖魔が一匹しか強いのがいなかったし、あとはもう一方的な虐殺になってたからなぁ……
リョウコが何やら光る針の魔法の様なもので我先にと、チクチクと突き刺していたのが印象的だったけど。なんでも一撃でも入れないと経験値が入らない仕様……だそうで……俺が槍を投擲しまくったり、ナオエさんが伸びる槍で無双しはじめると焦ってたなぁ……
妖魔の装備から物資を回収しているのを見て、そんなことをするんですね、新規プレイヤーは……と言われてたけど。テストプレイヤーは「ゲーム内通貨」をエーテル持ちの生物、魔獣や妖魔を倒すともらえてそれで交換……なんだって。ズルい気もするね……
それにしても……
高速で移動しながらも……みんな雑談をしている。俺だけが必死な感じだ……
「あの、サチさんの「探知」って何でも探知できるのですか?」
「なんでもはできないみたい。スキルオーブを知ってるからかしらね……知っているものは探知できるみたいね。要するに私がイメージできないモノは探知できないみたいなの」
「なるほど。運命の人とか漠然としたのは無理なんですね」
「……そうね……そんなこと考えた事も無かったわ」
「美味しいモノは探知できたんだけどな」
「……うるさいわね」
二人はほんと仲が良いよなぁ……自分たちから関係性は言わないから詮索しないけど……
幼馴染、恋人、夫婦……どれでも当てはまりそうだ。まぁ、俺がサチさんと話をしていてもヤキモチを焼いてる感じがしないから……友人、親族のどちらかか?
しばらく移動をすると、先行していたサチさんがハンドサインを送ってくる。止まれの合図だ。
「このあたりね。それらしきものは……」
「……ココ、キケン。マジュウナワバリ」
立ち止まると同時にウィンディードさんが弓矢を構え、周囲を警戒する。
魔獣の痕跡があるのか? ……わかんないな……
「あ、魔獣の痕跡がありますね。糞や毛が所々にあります……調査率が40%なので特定はできないっと……少しこの辺を調査しませんか?」
「……なにそれ? どこの怪物狩りのゲーム?」
「ああ、すごいですよね、痕跡があると光って教えてくれますし、調査率100%にするとUIのレーダーに表示されるんですよ。ってか100%にする前に80%くらいで大体出くわすんですけどね」
え? ほんとどっかのゲームのパクリじゃない? 「管理者」さん? いいのそれ?
「すげぇ……ゲームだ」
「ほんとゲームね」
「便利だな」
「?」
『??? 何を言っているかわからないんですけど……』
一同が様々な反応をしながらも周囲を探索する。サチさんがそれなりに広い場所の中央を指さす。どこからどう見てもスキルオーブが……二つ浮いてるな……
「あった……わね」
「どう見ても……」
「ココ、マジュウ、ネルバショ。キヲツケル!」
そうだよね、どう見ても大型魔獣の寝床だ。二つあるところをみると……誰かが襲って返り討ちにあった……か、寝床と知らずにいい場所があるって休息をとった……とかかな。プレイヤーが死んだときに出る生活用品やら、妖魔の槍やらも大量に散らばってるし。
「強いエーテル的な「なにか」は感じますが……本当に「スキルオーブ」とやらがあるんですか?」
「やっぱり見えないのか」
「はい」
「ワタシモミエナイネ。デモ……カンジル」
テストプレヤーと鬼人族には見えない……新規プレイヤーのみが見える……不思議だなぁ……さてっと、スキルオーブを回収して逃げないとね。
サチさんが前に進み出てスキルオーブに手をかざす。
「なるほど……カタシさん、心づもりは決まったかしら?」
「え?」
「一緒に来るならスキルオーブをプレゼント……と言う話だったはずなのだけれども」
「あ~あ~そうだったね……えーっと……」
ナオエさんが呆れた表情を俺に向ける。ってか、本気で呆れてる。あれ? やっぱりだめか?
「ここまで来て決めて無いの???」
「てっきり来るもんだと……」
「先輩、優柔不断になるときありますよね……そんなんだから土壇場でフラれるんですよ」
「ぐっ……」
くそっ……貯金ゼロが決め手かと思ったら……優柔不断もあったのか……
【時間はかなりあったはずですが……】
いやさぁ……ほんと分帰路じゃん? なんかテストプレイヤー達が頑張ってくれてるうちにとか色々考えちゃって……
【目的がそもそも違うのです。クリア条件を満たせない場合があるかと】
あぁ……そうかぁ……ラスボスと戦ってるときに黒結晶もついでに壊してくれないかな……
【随分と他力本願ですね】
「ひとつは……『飛ぶ斬撃』?のようなイメージね。随分ファンタジーなスキルね……もうひとつは『爆発』のようなイメージ……手りゅう弾みたいな……そんなイメージなのだけれども……リキ、あなたにはどうみえる?」
「ああ、ちょっとまってくれ……おお、斬撃を飛ばす……ん? 斬撃を強化するのか? 剣の軌跡が見えるだけか? なんだこりゃ? 後は……ボム……爆弾だな」
「戦闘スキルを持って自信満々にここのヌシと戦って敗れた……って感じかしらね?」
「そうだな。生活用具なんかも飛び散ってるし……」
「この間の爆発音の人、この人なんじゃないの?」
「……あ、そういえば銃撃戦と爆発音したね……夜中に」
飛ぶ斬撃に爆弾……なんか、やっとファンタジーっぽいスキルが来た気がするな。
「どっちがいいのかな……」
「その前に、一緒に攻略する? でいいのかしら?」
「お、おい。なるべく早く……決めてくれ……なんかヤバい気がする」
「カタシ、ハヤク……」
ちょっと待ってよ……ついていく方がやっぱりいのか? 飛ぶ斬撃を自動追尾できるようにコントロールすれば……好きなところを刻める? どれくらいの威力が出るんだ? いや、それよりも爆発を自動追尾で急所に全弾当てたほうがいいか? そもそもローカル座標で爆発させることが出来る? ワールド座標のみとか?
あ、爆発だと爆音で敵に場所を教えるようなもんだから、隠密が多い今だと斬撃の方がいいか? でもそれって、貰う事確定になってるよな? 何とも悩ましい……やっぱり一緒にいくか?
【カタシ、現実に帰って!!】
「カタシくん??」
「カタシさん??」
「先輩??」
「カタシ??」
「ちょ、まじかよ??」
不穏な空気に気が付くと、仲間は俺から距離を……すごい勢いで逃げていく? 取り残された?
「あ……」
「GYOOOOOOO!!!!!!」
地面が揺れるくらいの凄まじい咆哮と共に、巨大な岩の様な皮膚をした恐竜が突っ込んでくる。ティラノサウルス?? 像の3倍はあるな……岩竜とか書かれそうだな。一歩一歩で人を殺せるレベルだ……電車が突っ込んでくる感じだな……
飛び道具はなさそうだな……噛みついてくる気か?
あっと……とりあえず……どの手を使うかなぁ……
【何を悠長な……え? あら? 随分と……】
「カタシ君!! なにやってるの!」
「お、おい! よけろ!!」
「ヨケテ!!!」
「先輩! 死んじゃいますよ!!」
……なんでみんなそんなに慌てるんだ? 俺のスキルは距離が離れる程効果が薄れるからひきつけないとだめでしょ?
「『固定・壁』っと」
ドゴォオォン!!!!
まるで巨大な大木が倒れるような音が目の前で発せられる。ぶっちゃげちょっとビビった……リキさんの攻撃をはじけるんだ。トラックくらい防げると思ったらやっぱり大丈夫だったな。
岩竜は俺の目の前に展開されたワールド座標で『固定』された壁の空気にぶち当たり変な形でつぶれて跳ね返っていた。透明な壁に気が付かずに突っ込んでくる人間の動画みたいだ。
おっと、逃がさない……『固定・檻』っと
正面に広げていた壁の『固定』を減らし、岩竜の周囲を檻のように『固定』の柱をワールド座標で展開する。これで捕縛……壊れないよな……SPは……減ってるけど大丈夫そうだな
「グェェ、GYAOOOOOOOOOOOO!!!!!」
また凄い咆哮……くそっ、耳が……音は……防げ……意識が……耳が……痛い!!
「GIEEEE!!」
頭が朦朧とする中、咆哮が突然止む。耳から痛みしか感じない。水中にいる感じだ……耳がすでに死んでいる感じがする。見上げると岩竜が口から大量の血を吐いていた。風の魔法の残滓を感じる……ウィンディードさんか?? ってが血が……げっ……大量に……『固定』……駄目だ、頭がくらくらする……間に合わない……
ドバシャッ!!
……うへっ……綺麗に血を浴びてしまった……生暖かい……血の匂いが……
ザスッ!! ドンッ!! ザンッ!! ズシャッ!!!
ドォーン!!!!
俺が血で見えない間に何かが当たる打撃音と何かを切り裂いた音が聞こえた。いや、耳はもう痛みで分からないから……体で感じるほどの音だ。鼻の中に強烈な血の匂いがする。まるで殴られたかのような感じだ。
って、ヤバそうだから後ろに逃げるか……って、目が痛い……拭こうにも手も血まみれだ……
あれ、これ、せっかくの服が駄目になったか? 血って落ちないんだよね……たしか……
ちょっと……誰かなんとかしてくれ……どうなってんだ?
【魔獣ロック・ティラノスドラゴン を討伐 HP+1.11 MP+0.86 STR +1.13 DEX +1.14 AGI +1.31 INT +1.63 MND +1.34 SP+2.00 ……】
あれ?目が見えなくてもログは読めるのか……なんだこれは?
【脳に直接描画していますので、目とは違う機能になりますね】
なるほど……だからほかのプレイヤーからは見えないのか。
【それにしても……あなたの視点で見ると大変なことになってるのですね。外から見ると血で真っ赤ですよ?】
やっぱり……咆哮をあの距離で食らうと……耳にも固定の栓をするべきだった。
【凄いアイディアですね……】
ようやく目が見える様になったと同時に仲間達が近づいてくる。目が痛い。ってか見づらい、赤い?
「カタシ君!! ……大丈夫……そうね」
「うわー……先輩……やっちゃいましたね……」
「カタシ、ゴメン。オモワナカッタ。チヲモドス」
「カタシのスキル凄まじいな……」
「工夫すればどのスキルも有用……と言っていたけど……ここまでとは思わなかったわね」
「待っててくださいね……『万能なるエーテルよ、このものより不浄なる汚れを取り払い給え……洗浄!』」
リョウコが何やらわからない言葉で呪文を唱えると、俺の体から血が浮き出しリョウコの脇の空間に集まっていく。血の塊のボール……あ、見える。って、ええ?? 綺麗になった?
『浄化』のスキルみたいだな。
「それって魔法?」
「はい。生活魔法LV1ですが、便利なので、大体のプレイヤーはとってるんですよね」
「……それ、良いわね……」
「こんな便利なスキルをとらないんですか? って仕様が違うんでしたっけ?」
「残念ながらね……」
俺はナオエさんに「耳」を指して見せる。
「だめっぽい、耳がやられた」
「あ、先輩、治しますよ。『万能なるエーテルよ、この者の傷をいやしたまえ……治癒』」
俺の耳に何か青白い綺麗な光が降り注いだかと思うと、突然痛みが無くなり、音がクリアに聞こえる様になった。
「痛くなくなったし、ちゃんと聞こえるよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「すごいのね……回復魔法というやつ?」
「おお、なんか俺の求めていたファンタジー世界の魔法が目の前にあるな」
「良いわね……」
ウィンディードさんが珍しく鬼人族語でリョウコに話しかける。
『テストプレイヤーは神聖魔法も使えるのね』
「そうですよ。とはいっても、低レベルのモノだけしか使えませんけどね」
『なるほど、魔法戦士と戦っている感じなのね』
「そうですね……あー、話してよかったんでしょうか?」
『ありがとう、答えてくれて』
「……うーん。やっぱり普通に話せるんですねぇ……ミッションのターゲットになってたのは何かしらの意図を感じますね……片言日本語だとちょとバカっぽいのに」
『え? そうなの? ……どうりでみんな可愛がってくる感じだったのね……』
「……まんざらでもなさそうなのに……」
『……否定できないわね……』
ん? なんか普通に話してるな……片方だけわかるってのもなんかおかしい感じだ。移動中もちょこちょこしゃべってたし、わだかまりがなくなったのだろうか?
俺は振り返ると、岩竜の頭がつぶされた上に首が落とされ、身体が『固定』された檻の中でねじ曲がってはりついているのを見た。皆の全力を見た気がした。
なんかあれだな……このメンバーならいけそうだな。
俺が動けなくても色々やってくれるし、すごい助けてくれるし。これなら黒いモヤモヤが吹き出る前に黒結晶を破壊できる気がしてきた。
他のプレイヤーを攻撃せずとも……魔獣を狩っていけば……
やるか……攻略目指すか。
【……やっとですか??】
……やっとです。
「えっと……俺、行きます。一緒に」
「……今、決めたの??」
「慎重な性格……じゃないよな?」
「いざとなったら優柔不断になるタイプかしら? 困ったわね」
「カタシクル。ワタシモウレシイね!」
「……何で血を浴びて行く気になるんですか? 変態ですか? 変態でしたね??」
「変態……」
「……まぁ、色々な趣味があるからな」
「大人になったら趣味が変わったのかな……」
あれ……何で変な反応の人が混ざってるんだろ??
【……とてもタイミングが悪い気がするのですが……】
あ、頭から血をかぶった直後だからか……
血が好きなわけじゃないんだけどな。
【色々とずれていて面白いですね……】




