第101話 決心
ショウコさんの『飛行』スキルもかなり上がっていた様で、あっという間にナオエさんに追いつく。よく見ると神社の社の様なオブジェの祠みたいのがあるから……そっちもテストプレイヤーの出現ポイントだったんだろうか? それにしても飛行速度がかなり上がってるなぁ……街中を飛ぶと速く感じるのかな? 景色が凄い速さで変わるものな。……あれ? ナオエさん追い抜いちゃった。
何となくナオエさんからジトっとした目で見られた気がするけど……気にしている場合じゃない。
俺たちが街外れの祠付近に近づいていくと戦闘音と共に怒鳴り声が聞こえる。ステータスが上がっているせいなのか声も大きい。
「何をいまさら!! あなたがやった事を真似しただけよ!!」
「やっぱり記憶があるんじゃない!! 知らないふりをしてっ!!!」
「あなたみたいに変人扱いされたくなかっただけよ!!」
「!! ひどい!! 説得に協力してくれればよかったのに!!!」
リョウコがこの間見た女性、たしか……名前何だっけ?
【セイナと言っていましたね】
セイナと言うおば……お姉さんと言い争いをしながら戦っているな……ってか、雷を放ったり魔法の盾で防いだりで……近づきたくないなぁ……人間離れした戦いをしてる……
【あなたの戦い方もかなり人間離れしているかと思いますが】
……え? まぁ、『固定』で封じたり……まぁ、人ではないな……
【……客観視が出来ないくらい染まってますね。この世界に】
?? どういうことだ? って、一対一で戦っているだけか? 5人くらいの仲間がいるようだったけど、全員が戦況を見守っているだけに見えるな。武器や盾を構えているから……巻き込まれないようにしているだけか?
一方的に押され始めたセイナが仲間と思われるテストプレイヤーに怒鳴り散らす。
「あなた達も戦いなさいよっ!!!」
「って言われても! お前らの動きは早すぎてついていけない!!」
「なぁ! やっぱり駄目な事だったんじゃないのか??」
「俺たち『人参娘』が敵なんて聞いてないぞ!!」
「そいつランキングトップだろ??」
「ああっもうっ!!!」
セイナが盾の魔法でリョウコの攻撃をブロックしながら絶叫する。ってか盾の魔法便利すぎじゃない? 攻撃食らいまくってる様に見えるけど……インチキレベルだ。
「もー!! 役に立たないわねっ!!」
「敵に回すとうっとうしい……盾ねっ!!」
追加のリョウコの怒りが籠った凄まじい一撃がセイナに当たる……が、盾の魔法を貫いた攻撃も何かのエーテルの膜に当たって彼女が吹き飛んでいくだけだった。
もしかしてあれが「HP」ってやつか。見えるのか? ずるいな……俺たちだったらあんな攻撃食らったら手が吹き飛んでるよ……
【生物的におかしい、痛みが無いと生物としての振る舞いをしなくなる、という話になりまして、HPを模したエーテル活動は無くさせてもらいました】
……無くさないでよ……本気で色々と普段痛いんだから……あと「かゆい」の多いし。
守勢に回りながらもセイナは激しいリョウコの攻撃の最中でも俺の姿に気が付く。なんかものすごく手練れだな……リョウコと同じで生き延びたんだから、猛者ってやつか。
「援軍???」
「!? 先輩!! こっち来て大丈夫なんですか?!!」
俺に気が付いたリョウコの攻撃の手が一瞬やわらぐ。
あれ……気が付くと俺たちが一番先に到着してたか……他の三人も来て……
俺が気が付くと同時に、凄まじい勢いでリキさんが到着するや否やセイナに向かって豪剣を振るう。不意をつかれた形のセイナの魔法の盾を打ち砕きながら吹き飛ばしていく。文字通りボールのように吹き飛んでいく。
「なっ!! くっ!!」
「行けるな!! この武器なら魔法の盾は壊せるみたいだな!」
「このっ!!」
セイナのかざした手から放たれた雷撃の様なものはリキさんを避けるように周囲に外れる。
ってか魔法の盾……じゃないな。防いでいない感じだ。いなしている様な……
「なっ!! なんなの!? あんたたち!! 新規プレイヤーって、ここまでなの!??」
リキさんに向かって雷や光の槍などが次々と放たれるが全てが反れて外れていく。
「行けそうね。完封できるわ! リキ! やってしまって!」
「おう!!」
サチさんがすぐ後ろにいるから、彼女の「歪む」か「反射」的なスキルを使用したんだろうな。
ん? ナオエさんはいつの間にか姿を消していた。例のごとく気配を消して周囲に潜んでるんだろうな。
セイナはリキさんから逃げ、リョウコからの攻撃……ってかあれか、生け捕りにする感じで戦ってるのか? アスティナさんとの戦いの時とはえらい違いだ。リョウコもチラチラと俺に視線を送ってくるから捕縛する方向ね。
とりあえず『固定』でセイナさんとやらの周りを固めて封じこめ……
ガガガガガリッ!! バチバチッ!!
セイナの周りにエーテルの不可解な爆発の様な雷の様なものが走る。接近戦を挑んでいたリキさんとセイナが吹き飛ぶ。
あれ? うまくいかない?? 『固定』を出せた感じはあったのに。
【なんと……こんな反応になるとは……】
アーゼさんもびっくりって……何が起きてるんだこれ???
「うぉっ? なんだ??」
「なにが??」
「ちょっと?『城壁』が消えた?? しばらく無敵じゃないの???」
……城壁? 魔法の盾か?……魔法の上に『固定』はできないのか? 相殺されたのか?
「ああっ!! もー!! ここまでねっ、『帰還』『発動』!! ぐっ!!!」
セイナがカードを取り出し例の発動ワードを唱えると光に包まれて消えてしまう。
丁度伸びた槍が彼女の体を貫いていたが……槍は転移しなかったみたいだ。
ってか、ナオエさんすごい状況判断だな……容赦ない。支給品のカードは発動しちゃえば実行されるタイプの機能だったんだなぁ……って、相手も持ってるとこうなるのか。
追っても逃げ放題だな……相手のカードを減らさないと駄目ってやつか。面倒だ。
リョウコが空に向かって絶叫する。
「ああっ! もうっ!! 逃げられた!!!」
「大丈夫じゃないのか? 追い払えれば?」
「いつまた撃ってくるかわからないじゃないですかっ!! ほんと支給カードは厄介ですね! 移動しながらも使えるなんて!! 転移できない様に追い回してたのにっ!!」
あれ、転移魔法みたいのは移動している時は使えないのか? ってあとで聞いてみるか。それよりも……
「……え? あれ? 説得失敗的な感じだったのか??」
「あれだけ言ってもわからないんですから! ってか私を見た瞬間攻撃してきましたよっ!!」
「……そりゃまた……」
「ああ、これなら殺しておくべきでした……いつ魔法を撃ってくるかわからないじゃないですか……捕縛しようなんて思わずに一思いにやっておけばっ!!」
まぁ、町を破壊する魔法を撃ってくる……そんな人間を野放しにしたら……怖いな……どうやって防ごう?
ナオエさんが姿を現し、残ったテストプレイヤーの4人に話しかける。
「それで、あなた達はどうするの?」
「……いつの間に……どこから??」
「……アサシン??」
「あー、俺たちはどうすればいいんだ?」
「ねぇ、人参ちゃん鬼人族側についたの?」
「ってか、ミッション内容もおかしかったしなぁ……」
「私たちは対人戦はする気はないんだけど……」
「ヤバさしか感じないんだけど、この人たち……強いよな……」
テストプレイヤーの4人はじりじりと固まり寄せ合っていく。まぁ、不安だよな。気が付いたらリキさん達も警戒しながら近づいてきてるし。空からはアスティナさんが飛竜に乗って舞い降り、ウィンディードさんも気が付くと俺の隣にいた。良い感じで包囲しちゃってるね。
「!! 鬼人族まで!!」
「……美人だな」
「オーガに変化するんじゃなかったっけ?」
「絶望的だな……これは……」
リョウコが剣をしまいながらテストプレイヤーに話しかける。割と事務的で淡々とした感じだ。
「先ほども、おそらくリーダー達からも連絡があったと思いますが、鬼人族、森人族、獣人と呼ばれるのは、一方的に攻撃、殺さずに話し合ってほしいんです」
『私からもお願いするわ。あなた達が襲ってこないだけで私たちはこの島の危機に立ち向かう事に集中できるの。私たちからあなた達「黒髪」の種族には先に攻撃しないようには通達してあるわ』
アスティナさんの凛とした感じの声でテストプレイヤー達はお互いを見て話し合い始めた。
テストプレイヤーは全員鬼人族の言葉がわかるんだよなぁ……いいなぁ……俺も会話したい。鬼人族と話せれば異文化交流が出来て面白いと思うんだよなぁ。
【あなたは随所でポジティブで良いですね】
そうか? 割と現実的だと思うんだけど……
それからも会話が続き、聞き耳を立てている分には肯定的、と言うより敵に回したらヤバいという感じの流れになっているな。
「……鬼人族を襲わない……って約束したら解放か? それで仲間にも伝え、説得しろと……」
「鬼人族だけでなく、森人族、獣人族、幻獣と呼ばれる、明らかに神々しい生物を襲わなければですね」
テストプレイヤーの男性陣が沈んだ表情をする。
「……ほとんどミッションに出てくる奴じゃないか?」
「神々しやつって、あの経験値ボーナス魔獣だよね、レアな」
「経験値稼ぎどこでやれって言うんだ??」
「ダンジョンと妖魔メインに攻略しろって事ね?」
「……そうなりますね」
「あまり美味しくない敵ときついやつかぁ……」
「ミッションの標的なのにやっちゃだめなのか? なんでだ?」
「彼らは、この世界の……この異世界の現実世界の知的生命だからですかね。議論されていた、超高度なバーチャルリアリティではないんです。私たちもミッションだからって現実世界で突然襲われて殺されたら嫌……というか理不尽でしょ? 異世界の人間が来て殺されたら」
「……まじかよ……」
「まぁ、生物は殺しても光になって消えないもんな……」
「俺らは消えるみたいだけど……」
「現実感が薄いもんな……」
「痛みなんてほとんど感じないものね」
「疲れるけどな」
俺は先ほどの戦闘でセイナがまとっていた魔法の盾、「HP」の事を疑問に思っていたので聞いてみる。テストプレイヤー全員が持ってるのか?
「なぁ、「HP」が減るまでは、その、痛みってあるのか?」
「衝撃は感じるけど……無いな」
「HP削られ切ったら本気で痛いんだよな……」
「血も出始めるものね……」
「ポーション効きにくいんだよなぁ……」
「検証だと「HP」が無くなると肉体にダメージが……普通の人間として傷つく感じですね。人間らしい痛みもそこからになりますね」
男性テストプレイヤーがきょんとした感じでこちらに尋ねてくる。
「……アンタら新規プレイヤーは違うのか??」
「普通の人間がスキル使えるようになっただけですね」
「敵に殴られれば痛いし、切られたら本気で熱くて痛いし、転んでも痛いし、落ちても痛いわね。武器を力いっぱい振るえば手も痛くてマメができたりするわ。虫も刺されると痛いやついるし」
「まじか……」
「痛いのか……」
「……蚊に刺されたらかゆそうね」
……え? なんか、この世界に来てから悩まされてる大問題。「蚊」の問題もないのか?? そりゃ生きてる実感……なくなるわな。
アスティナさんが飛竜にまたがり、ウィンディードさんに話しかける。
『ウィンディ、カタシたちを町へ連れてきて。連絡が来た。王国のやつらがまだ来てるみたいなの!』
『承知しました! お気をつけて!!』
アスティナさんを乗せた飛竜がすごい勢いで街の方向へ戻っていく。
そういえば戦闘中だったんだ。こっちが大丈夫なら……あとは海賊船を止めるだけだな。
【王国……なのですが、もう海賊船でいいですね】
ヤッた事は海賊だもんな。
「あとはセイナちゃんが……どう出るかね……」
「「MP」使い切ってるから……しばらくは大規模魔法は無理だと思うけど……」
「かなりの量の魔結晶を使ったから連発はできないと思うぞ?」
「私も「隠密」を使ってあげないから……大丈夫よ。虐殺に加担しちゃった感がすごいんだけどね……防いでくれてありがとう……」
「……まだ信じられないんだけどな……」
「凄い光景だったものね……」
「あれは人に使っていい魔法じゃなかったな……」
テストプレイヤー達の説得は……成功した感じか。良い感じでテストプレイヤーの仲間に情報が伝わると良いんだけど……
リョウコがふと何かを思いついた様で戸惑いを隠せないテストプレイヤー達に提案をする。
「あ、そうだ。魔獣を狩った後に捌いて食べてみてください。びっくりしますよ」
「ん? なんでだ?」
「まぁ、それは食べてみてからのお楽しみって事で。手軽に捕獲できる角付きウサギでもいいです」
「わかった、あ、それじゃ俺らはいったん戻るわ。詳しく知らせないとだな」
俺はかなり疑問を持ったのでリョウコに小声で聞いてみる。
「……なぁ、なんで魔獣を食べた後なんだ?」
「そりゃトイレに行きたくなりますからね」
「……なるほど?」
女性プレイヤー何やら呪文の様なものを唱えると、足元に魔法陣の様なものが出たあと、4人のテストプレイヤーの姿は光の粒子となり空へと飛んでいった。
移動魔法……便利だな……俺も欲しい。
あ、あの魔法陣が出ないと転移できないって事か。
ショウコさんがキョロキョロとした後、俺の方に駆け寄ってくる。
「カタシさん! リンカさんから連絡、早く戻ってって。ボス海賊船に槍が突き刺さらないって!」
「槍が突き刺さらない? バリスタの弾の事をいってるのか?」
「多分そうでしょう。話は移動しながら!! みなさんもっ!」
ただならぬ気配を感じ取り、仲間達は一斉に港の方へと駆けだした。
俺はショウコさんに抱きかかえられ、なすすべも無く港町に舞い戻ることになった。休憩したいんですけど……




