PART.9 蒼(あお)い記憶(かこ)、緋(あか)い現実(いま)
冴島友里視点です。
お別れ会の終わりは温かい感情が包み込んでいた。そんな風に、私は思えたんだ。
けれど、それは彼からしたら違ったみたい。
彼の心の中は私には見えない。
でも、彼の喜んでくれているという情景が、私の中で幸福感となって表れている。
私は彼のことをただの家政夫のように思っている。
でも、そこに色恋なんてものはなく、けれど彼のことが大切ではないと言えば嘘になる。
とはいえ、私の言葉を『神託』のように思ってしまっている彼からは、万が一にも『彼を好きになった』として私の気持ちを伝えることになったとしても、『百パーセント』受け入れてしまうんだろうな…。
私は小さいころから、姿形が周りとは群を抜いて秀でていたらしい。でも、それ以外はほかのみんなに負けてばかりで、小さいころからそう言う悪戯、虐めなんかを受けていた。
小学校六年生位かな?今では朧げな記憶だけど、性教育の授業があった。そこで男子達は私のことをよく見るようになった。
当時から今にかけて、身長以外の部分は育ちきっていたから、嫌な視線なんていくらでも受けた。私はそんな自分の姿が嫌いになった。
父親でさえ、私のことをそういう目で見るようになってきて、母さんはそれが嫌になって離婚。結果今の冴島友里が生まれることになった。
当時の私は、本当は恵まれていた人間だったに違いない。平凡で、とても幸せな日々の延長線上に、そう言った悪い感情が襲い掛かってくるものだと幼い頃から理解していたから。理解したうえで、それをきちんと処理できる程度には、考えることが出来ていた。
両親の離婚の原因が私ということが理解できてから、私は青空が嫌いになった。
いつも曇ることのない透き通った青空が。雲の上には、いつも醜いほど綺麗な、矛盾しちゃうくらい綺麗な青空がある。それが、当時の私にすごく似ているように思えて嫌だった。
それでも夕日が好きだった。青い空が赤い火を灯すその景色が、たまらなく好きだった。
中学に入って早々、私は冴島友里としてデビューした。けれど、始めはやっぱり売れなかった。でも、小さい子が『頑張れ!』と応援してくれた。中学校に入ったばっかりの私を。いや、『彼』はそこまで小さくなかった。小学生くらいだろう。それもそこそこ低学年じゃないかな?けれど、明らかに私より小さい子が、私を応援してくれたんだ。
そこからだ。私は次々に人気子役として売れ、今の場所まで上り詰めた。
あの子は私のことを見ているんだろうか。あの子が大きくなったら、どんな人になるのかな…と。その情景に焦がれていたそんなある日。
その日に私は夜遅くに散歩に出かけていた。昼間だと『冴島友里だ!』と指さされてサインを強請られるから出られないし、かと言って早朝だと変なおじさんに絡まれることがあった。だからこんな深夜に出歩くことが増えたんだ。
近くには母校がある。いつも通り、『生徒が家に押し寄せてきて近所に引っ越しをして無理やり黙らせたんだよな…。』という思い出に浸っていると、誰かが学校の敷地に入ったところで倒れていた。
しかも、少し焦げ臭い。コートは水に濡れていて、着膨れした格好に小さい箱を持っている。
息がなく、背中が動いているというのも視認できない。
「だ、大丈夫ですか?もしもし!…もしもし!」
肩を揺すってみるも、彼は目を覚まさない。手を触ってみると、氷に触れた方がまだ温かいんじゃないかと思う程度には、冷え切ってしまっていた。
すぐにインターホンで用務員さんを呼び、AEDを用意してもらう。その間に服を脱がせて、偶然バッグに入っていた鋏で服を切っていく。コートだけは脱がせた方が早かったため脱がせた。
そして、保険の授業で習った心臓マッサージを施していく。ためらいがある場合は人工呼吸はしなくてもいいと言われていたため、圧迫だけで。
用務員の若い男性がヒョコっと一メートルほどある扉を飛び越えてAEDを使う準備に取り掛かる。それがすごく早く、見る見るうちに取り付けられ、機械的な声の後、『ボンッ』という音と共に気を失っている男性の体が打ちあがる。
しばらく対処は彼に任せ、私は何か温められるものを探した。家にたくさんカイロがあったことを思い出し、それを手に取って用務員さんと気を失っている彼に使った。
「これで一応心肺機能は大丈夫ですね。でも、こんな濡れたコートを着て、大丈夫なんでしょうか?」
「いや、大丈夫じゃなかったからここに倒れていたんだと思いますよ?」
「とにかく、本当はこの学校に泊めたかったのですが、これ以上私が残ると上層部に『労基引っかかるから帰れ!』って言われてて…。いくら何でも泊められなくて…。」
「なら、うちの家が近所にあるので、そこで一応引き取ります。救急車は…。」
「どうにも、呼んだら嫌な予感がします。あ、私の予感は結構当たるんですよ。それに、このコート急いで乾かしてあげてください。さっきこんなものが見つかりまして…。」
そこにあったのは、小さな鎖と何かの欠片だ。
「彼、家庭で何かあったんでしょうね。まあ、ネグレクトだの家庭内暴力だのに関しては私の専門外なので分かりませんが、そういう施設に連絡出すと場所バレる危険性もありますし…。」
「分かりました…。」
私の予定は急遽変更となり、彼の容態のチェックとなった。彼の持ち物は小さな箱とコートに入っていた小さな欠片。でも、それが大切なモノであろうことはよくよく理解していた。
彼は寝言で、『指輪…………………………壊さないで……………。』と言っていたからだ。寝言を言えるほどに回復したことを喜んだらいいのか少しわからない。でも、カイロで体を温めながら、彼の胸に手を置いた。
ゴツゴツしていないけれど硬い。寒い環境にいたからか鳥肌を立てていて、それでいて苦しそうだった。胸から手を放し、頭を軽く撫でる。すると、少し落ち着いたような顔になって寝息を立てた。
そんな姿が、小さい頃の私と重なって少し悲しくなった。母さんが言うには、私が小さい頃は頭を撫でるとすぐに寝ていたそうだ。とはいえ、何故頭を撫でていたのかは自分にもわからない。でも、特に考える必要なんてないんじゃないかと思い、私は少しだけ彼から離れ、ソファに横になった。
少し時間が経ち、彼が目を覚ました。
「やっと目が覚めたみたいね。」
一言声をかけると、少しだけ間が空き、ハッとしたような顔をして一言、ボソッとした声で彼は問い返した。
「…冴島さん?」
私は別に自分の名前を言われても大して驚きはしない。けれど、そんな感じで男性が私の体を見ず、目をはっきりと見て話してきたことに驚いた。その驚きを知られないように咄嗟にキャラを作る。
「あら。私の名前を知っているのね。」
「…噂で聞いて少々情報収集したので。」
「そう言うことね。」
その声を聞いて、『ああ、彼はアイドルとかに興味を持たない人間か』と少し安心した。同時に、小さなプライドのようなモノが傷ついたような気がした。けれど、まずは彼がどうしてあそこに倒れていたのかということを聞くことが重要と判断し、質問を繰り返す。
しかし、そこで分かったことは私が考えていたことよりも大分重いことだった。昨日はかなり近い町で大量放火事件が発生していた。彼はその被害者の一人で、家が燃え、さらに母親が交通事故に遭ったかも知れず心配していたら、母親が自分を殺そうとしていたことが判明して逃げてきたと…。
今は彼が住む家はなく、帰れば母親に殺される危険性が高い。そこで私はこの家に匿う決断をした。彼はスキャンダルだのを心配していたが、私からしたら自分のことより他人のことの方が重要だ。長年積み上げて見たものが一度で消し飛ぶことを私は知っている。けれど、私は一方的な彼のその話を全て信じていた。そもそも、嘘をつくためにわざわざ凍死する寸前まで追い込まれる人間がいるかと言えばいないだろう。実際、彼はあの時処置をしていなければ死んでいた。メディアから褒められこそすれ、叩くことはできないだろう。
彼は鏡を見て、げっそり痩せたような顔に涙の痕を見て何かを思ったらしく、私の提案を受け入れてくれた。その時に名前を教えてもらった。
『影山健也』
その名前はどこかで聞いた覚えがあるし、その姿もどこかあの子の面影がある気がして一瞬固まってしまったが、何とか『いい名前だね』と繋げることが出来た。そこで彼の家の情報も知ることが出来た。
彼のコートに入っていた物が彼の亡き父親の遺品の指輪で、母親に踏み壊されてしまったということ、彼自身は本当は母親のことが好きだったが、この一件の所為で親愛の情をすべて捨ててしまったことなんかが聞いていて分かった。
料理が出来るということを知り、夕飯が何が良いかを聞かれたときに『ハンバーグが良い』というと影山君が少し悲しそうな顔をした。地雷を踏んでしまったのかと思ったが、すぐに気を取り直したのか先ほどのように戻ったためあまり考えないことにした。
影山君が普段利用している肉屋に移動している時に彼の母親に見つかると大変な目に遭うかもしれないため、私が同行することにした。彼は何も言わなかった。いや、ただ一言『ありがとうございます』とだけ言った。
影山君が向かった肉屋はごく普通と言える場所だった。とくに有名なわけでもないが、ただただ美味しそうな肉がいくつも並んでいた。綺麗な肉と、その中で話し合う筋肉隆々の親父さんと影山君。親父さんは私を一瞬見てから何かを言い、影山君がそれを否定するような感じで話していた。親父さんは私が店内に入るように促し、私はそれに従って入る。そこで彼と影山君の会話が始まった。
影山君はハンバーグに合う肉を聞いて、親父さんはその肉を見せ、影山君は値札を隠されたことに文句を言いながらもそれを購入する。その値段が五千円に迫る値段で少し驚いたが、私はそれを見て『彼らがそれぞれ信頼し合える人間である』と分かり、少し嬉しくなった。
親父さんは私を呼び、コソコソと話をし出した。なんでも、影山君の秘密に関してらしい。
親父さんは店主らしく、影山君は小さい頃からここに通っていたそうだ。影山君は本当はお母さんっ子で、小さい頃にあったいじめなんかについても母親に黙っていて心配させないようにする程度には母親好きだったらしい。それがここまで母親に対して無関心を貫くようになってしまったことから、恐らく彼に遭ったことは本当であったこと、彼の非常に高いスペックとそれに合わない興味関心の無さが常識との乖離を生んでいること。それを出来れば正して欲しいということを言われた。ついでにこのあたりが非常に物騒な地域であるということも知り、冷や汗をかいた。
影山君と共に帰宅している途中、彼に対して好意的な視線を向けている女性がたくさんいることに気付いた。逆に、敵対心丸出しの男性も多く見た。彼はどうやら自然と多くの女性を魅了してしまうタイプの男らしい。でも、今少し話しただけだが、私のカラダには全く興味を示しておらず、ただ私の内面を見て話そうとする。性格はきちんとできているようだが、私に対して大分距離を感じてしまうところはある。
帰る際に見えた夕陽は私のことを緋色に照らして、彼のことは暗く照らしていた。どうしてそう見えたのか分からない。ただ、緋色に照らされた私は怒っていたのかもしれないと帰り道に思うようになった。彼は悲しんでいた。それに対して怒りがわくのだろうか?怒りの発生源は分からない。でも、彼のことを守らないといけないという衝動には駆られている。それだけは間違いない。
彼自身の母親に命を狙われている。そんな彼をこの家に雇い、これから先どんな未来が訪れるのか、今の私には分からない。でも、それは決して悪いものではなく、かと言って良いものとも言えないのかもしれない。
後悔はするかもしれない。でも、始まってしまったからには仕方ない。
こうして、母親から命を狙われている高校生、影山健也君との、実質的な同棲生活?(共同生活?それともただの生活?)が始まった。
タイトルは過去の嫌悪の感情と、健也の境遇を知っての怒りを表しています。
周りの人との距離が掴めず独りになった時、自分と青空の美しさを重ねてしまったことで青空が嫌いになった友里、つまり蒼。
健也が実の母親に命を狙われていることと過去の父親の行為に対する怒りがリンクしてしまった結果、自身でも分からない怒りを抱えることになっていた、つまり緋。
女性の思考が良く分からないのでクラスメイトなんかの行動パターンやセリフなどからキャラづくりをしていますが、キャラ設定的なものとキャラの本質はすでに出来上がっております。この基本一人称視点で作品は進めていきます。




