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アルフェ·ドワーズ


 六時間ほどの道程でドワーズ子爵家がある町ミフェールに着いた。


 町の門で兵士が受付を済ませ、馬車のままドワーズ子爵家に向かう。

 人口百人程度の村に居たせいか、町の活気に気圧される。流石は領主が住んでる町と言ったところか。

 町の緩やかな坂道を上っていくと、貴族の屋敷の見本の様な豪華な屋敷が目の前にある。

 屋敷の門番に許可を貰い、庭を馬車で通り、屋敷の入口の前で馬車は停止する。


 「着いたぞ、出ろ」


 馬車を降りると、目の前に豪華な扉。思わず息を飲む。

 偉そうな兵士が扉をノックすると、内側から扉が開く。


 「お帰りなさいませ、ボムス様。旦那様が執務室でお待ちです」


 「うむ、わかった」


 十代前半に見えるメイドが偉そうな兵士に話しかける。この兵士はボムスというのか。


 ボムスは二階に上がっていくので付いていく。


 二階に上が部屋がいくつもあるが、一番奥の扉に向かいノックするボムス。


 「ビルマ子爵、ボムスで御座います。噂の子供を連れてきました」


 「おお、誠かっ!? 入るが良い!!」


 「失礼します」


 ボムスがいつもと違い丁寧な口調で喋りながら扉を開ける。

 中を見ると、壁に絵画やツボなどが飾ってあるが華美すぎない美しさがある。部屋の主も仕立ての良い洋服を着ているが無駄な装飾は付けておらず、落ち着いた服装だ。その部屋の主ビルマ子爵はツルツルの頭にふくよかな体型が印象的な初老で俺に熱い視線をぶつけてくる。


 「おおっ!! な、なんと美しい。我が領地の村に天使の様な子供が居るという噂は本当であったか!!」


 手をこちらに向けながら俺に近付いてくる。

 その手は俺の頬をスリスリと撫でる。何これ気持ち悪い。


 「おお!! なんときめ細やかな白い肌だ。髪はシルクの様な手触り。瞳も翡翠の様な美しい碧眼。完璧だ、完璧な美がここにある!!」


 めっちゃベタベタ触ってくる。えっ? まさかショタって奴か!?

 だから村の皆は引き止めていたのか。


 俺はあまりの気持ち悪さに身体が固まってしまう。


 「おい、ビルマ子爵にご挨拶しないか!!」


 「は、初めまして。タルガ村から来ました、アルフェと申します。側仕えとして精一杯働かせて頂きますのでよろしくお願いします」


 ボムスに肩を叩かれ、顔ををベタベタ触られながらビルマ子爵に向けて挨拶する。


 「おお、なんと声も美しい。それに挨拶もしっかりとしておる。決めたぞ、ユランゼ! この子を養子にする」


 後ろに控えていた中年の執事に向かって嬉しそうに告げる。しかし養子? どういう事だ?

 

 「左様で御座いますか。それはおめでとうございます」


 「アルフェよ、今日からお主はアルフェ·ドワーズだ」


 何か知らんがいきなり貴族になりました。


            ◆◆◆

 

 ――コンコン。ガチャ。

 

 「坊ちゃま、朝で御座います」


 「···んぅ? おはようございます、ナターシャさん」


 十代前半に見えるメイド――ナターシャさんは、俺の専属メイドだ。

 

 「坊ちゃま、本日の朝食は白パン、カボチャのスープ、スクランブルエッグ、サラダとなっております」


 俺の服を着替えさせながら朝食の説明をしてくれる。うん、今日も美味しそうだ。


 「うわぁ、美味しそうですね」

 

 「それと坊っちゃま、敬語とさん付けはやめてくださいと何度も言ってるじゃないですか」


 「そう言われてもなかなか難しくて」


 「もうしょうがないですね」


 ナターシャさんは苦笑いしながら俺の髪を整える。

 

 準備が出来たのでダイニングに向かうと、執事――ユランゼさんを付き従えてビルマ子爵が先に席についていた。


 「お父様おはようございます」


 上着の裾を手で摘み、足をクロスさせて会釈する。貴族の挨拶だ。


 「おお、私の可愛いアルフェ!! 今日も天使の様な愛らしさだな!!」


 食事の手を止め、俺を見て毎日の日課の様に今日も俺をベタ褒めする。



 「大げさですよ、お父様」


 そう言いながらビルマ子爵の対面の席に着く。すぐに朝食が運ばれてきた。


 「今日も神の恵みに感謝します」


 ビルマ子爵はオルベール教の教徒なので俺もオルベール教の祈りをする。


 朝食を食べるとしよう。まずはカボチャのスープから。うん、よく濾してあるから非常に滑らかだ。味付けは塩だけみたいでカボチャの甘さが際立っている。 

 続いて白パン。手で一口大に千切って口に入れる。うん、柔らかい。うん、小麦の甘さも感じる。村ではカチカチの黒パンしか食べてこなかったから何度も食べてるのに食べる度に感動する。

 サラダの野菜もスクランブルエッグの卵も新鮮なのがよくわかる。ああ、今日の朝食も美味しい。


 美味しく朝食をいただいてると、俺が食べている所を見てニコニコ笑うビルマ子爵。


 「今日も美味しそうに食べるなアルフェは」


 「だって本当に美味しいですもん」


 「そうかそうか。嬉しそうで何よりだ。ところで今日の授業は何だったかな?」

  

 「午前中はダンスの授業と食事のマナーの授業で、午後は国の歴史の授業と魔法の授業です」


 「そうかそうか。今日もしっかりと励みなさい」


 食事を終えたビルマ子爵は俺の所に来て頭を撫でるとダイニングを出て行く。今から執務なのだろう。


 さて、俺がドワーズ子爵邸に来て二週間経った。

 最初のニ、三日はいきなり貴族の養子になって混乱したが、今は貴族の生活に慣れてきた。

 ショタの変態貴族だと思っていたビルマ子爵だけど、時折顔や髪をベタベタ触ってくる以外は優しい好々爺である。

 ドワーズ邸には子供のメイドや料理人見習いや執事見習いがいるが、彼らに対しても優しい。

 変態的な行為をされると思って最初の頃はビクビクしたもんだが、その心配も無さそうだ。

 

 それにドワーズ邸には図書室があるし、魔法の授業もある。はっきり言ってめっちゃ充実してるよ貴族生活。


 無理矢理村から連れてこられたのは含む所があるけど、今はとりあえず貴族生活を楽しむ事にする。



 午前中はまずダンスの授業だ。

 貴族ともなるとパーティーなどで踊る機会が多いらしく、身につけるのは必須項目らしい。

 だが、前世ではリズム感ゼロだった俺にとっては、社交ダンスは難しい。


 ダンスの授業が終わると、昼食も兼ねての食事マナーの授業。

 ハッキリ言って食事はマナーなど考えず食べるのが一番美味いと思う。

 だが、食事マナーがしっかり行き届いているかで家の品格を問われるらしく、これも貴族としては必須項目らしい。貴族って堅苦しいね。

 食事マナーに気をとられたせいか昼食は味を楽しめなかった。


 午後からはまず俺が住んでいる国――レルベール王国の歴史の授業。

 昼食を取った後なので非常に眠いが、頑張って聴きます。


 歴史の授業が終わると待ちに待った魔法の授業である。

 正直他の授業はオマケである。

 なんと魔法の授業では焦がれていた初級魔法を覚える事が出来るのだ。

 教えてくれるのは元宮廷魔導師のエルドレッド·グラス。

 現在はドワーズ子爵家の食客をしながら余生を過ごしているらしい。

 そんなエルドレッドに基礎魔法は光と闇属性以外は使えると言ったら怪しまれたが、すぐに使って見せた事により疑心は驚きに変わった。

 エルドレッドは「五歳で基礎魔法を五属性も使えるとは天才じゃ!! これは教えがいがあるわい」と熱く魔法を教えてくれている。

 二週間で初級魔法をいくつか覚えたのは熱血指導のおかげだろう。

 学校に行かないと覚えられないと思っていたのでラッキーである。

 魔法の授業が終わると夕食の時間まで少し時間があるので、魔法の復習や図書室で本を読む時間に当てている。


 夕食も大変美味しく頂き、お風呂に入る。

 お風呂は専属メイドのナターシャさんが身体を洗おうとしてくれるのだが、恥ずかしいので断っている。


 風呂から上がりビルマ子爵にお休みの挨拶をしてから自室のベッドに横になり眠りにつく。


 これが貴族――アルフェ·ドワーズの一日である。

読んで頂きありがとうございました。

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