第1章「夜鷹の男装、爛れた終幕」
地下の娼館の真夜中は、いつもと同じ悪臭が立ち込めている。
濃い阿片の煙、床にこぼれた安酒、そして客たちが転げ回る腐った藁の寝床で乾いていく、あの生臭い精液の匂いだ。
私は湿った石の床の上に跪いている。
息が詰まるようなボロボロのコルセットを締め付けられ、泥に汚れて破れた安物の絹のスカートを穿かされている。
私はこの国境の街の、最も歪んだ兵士や傭兵たちのために女装を強いられている「男」だ。
この程度の不潔さはもう、私の肌を震わせることもない。ただの日常になってしまったからだ。
隅に溜まった冷たい尿のたまりに、自分の顔を映す。その瞬間、水面が揺れて現実が突きつけられる。
安物の白粉と紅を塗りたくられたその顔は、ただの地獄だった。
血の滲む膿疱が顔中に広がり、過去の激しい暴力のせいで顎は不自然に歪み、裂けた上唇の隙間からは、歯が一枚もない黒ずんだ歯茎が覗いている。
この出来損ないの肉体に生まれたその日から、痛みと屈辱だけが私の唯一の居場所だった。
その時、重苦しい音が響いた。
木製の扉が乱暴に蹴破られ、天井から煤と埃が舞い落ちる。
通路から、獣のような下劣な笑い声がなだれ込んでくる。それは前線から戻った三人の傭兵たちだ。
酸っぱい葡萄酒に泥酔し、生臭い汗と、戦場の乾いた血、 shreds(肉片)やあらゆる体液の臭いを撒き散らしている。
最も肥満した男が、汚れた手で革ズボンの前をはだけながら、殺意とサディズムだけを湛えた血走った目で私をねめつけた。
「おい、見てみろよ。隅っこでスカートを穿いた出来損ないが、まだ息をしてやがるぞ」
男の下卑た笑い声とともに、鉄の鋲が打たれたブーツが容赦なく私の腹部を捉えた。
ドスッ、という鈍い音が体内に響く。
私は一瞬で息を詰まらせ、湿った床の上で丸くなった。
安物の絹が、太ももの開いた傷口にべっとりと張り付き、激痛が走る。
脳の奥底では、私は狂ったように叫び、抗い、逃げ出そうとしていた。
だが、この肉体の麻痺が、脳からの命令をすべて遮断してしまう。
真っ刻な紅を塗られた私の指先は、泥の中で死にかけた芋虫のように虚しく震えるだけだ。
乾ききった舌は上顎に張り付き、割れた唇からは、ただ淀んだ唾液と、幼児のような知性のない叫びが漏れる。
「あ……ぐ……ば……う……」
「黙れ、この欠陥品が! 声を聞くだけで吐き気がする!」
痩せこけた二人の兵士が怒鳴り声を上げながら、私に襲いかかった。
男は汚れ果てたかつらごと私自身の髪を鷲掴みにし、力任せに石床の角へ私の顔面を叩きつけた。
グシャリ、と鼻骨が砕ける生々しい音が響く。
溢れ出た熱く濃厚な血が口内と紫の瞳を塞ぎ、安化粧のすべてを赤くドロドロに汚していく。
「ほら、明日のパンの耳が欲しいなら、俺のブーツについた泥を舌で綺麗に舐めとれよ」
三人目の男が私の手を踏みつけ、細い指を石床に押し潰した。
その間も、残りの二人は私のあばら骨をリズムを刻むように蹴り続けている。骨の軋む音が、彼らの残虐な笑い声と混ざり合う。
だが、この激痛の中心で、私の精神はおぞましい変容を遂げていた。
この暗闇の穴ぐらで過ごすうちに、私の脳は異常な「耐性」を形成してしまっていたのだ。
私は、この絶対的な調教と、屈辱の味を脳内で貪り始めていた。
ブーツの泥を舐め、彼らの体液をすすることに、精神が病的な快楽を見出している。生き延びるための執着が、狂気へと反転していく。
顔を泥とし尿の中に押し付けられ、肉体を破壊されているその瞬間、私の理性は完全に消滅した。
血塗れの唇から、不意に、幼児のような、愚かで、狂気に満ちた笑い声が漏れた。私の意識が拒絶したはずの、自発的な発狂の音だ。
「あ……ガ……はは……う……あははは!」
痩せた兵士が引きつった顔で髪を放し、嫌悪感を剥き出しにして一歩退いた。
「おい、頭、もう行きましょう。こいつ完全にイかれちまった。自分の血と泥を舐めながら笑ってやがる。見てて吐き気がしてきた」
「そうだな。あの赤い疫病が、とうとう頭まで回ったんだろ」
肥満した頭が私の銀髪に向かって汚い痰を吐き捨て、背を向けた。
鉄の扉が乱暴に閉まり、通路の光が消える。
闇の中で、錠が一つ、また一つと閉まる音が遠ざかり、私は完全に暗闇の底へと置き去りにされた。
だが、本当の地獄は、彼らの暴力が去った後、衣服の下で咆哮を上げていた。
下腹部の奥深く、まるで赤く焼けた炭を直接埋め込まれたような、激しい灼熱感が私の内臓を秒単位で焼き尽くしていく。
この娼館の夜で感染した魔法の性病――「紅い疫病」が、私の肉体を終わらせようとしていた。
生殖器官は内臓の奥からドロドロに崩壊し、腐臭を放つ緑色の膿が、絹のスカートを濡らしながら床の血溜まりへと溢れ出していく。
毒と化した黒い血液が、血管を逆流し、容赦なく私の脳幹へと駆け上がっていくのがわかる。
もう回復も、救いもない。
私は激しい痙攣の中で、床の冷たさを感じながら、自分の惨めな末路をただ見つめていた。
自分が生きるために売り飛ばし、弄び続けたその性病そのものが、私の命の灯火を消し去るのだ。
呼吸が、ゼイゼイと湿った音に変わっていく。
高熱が最後の思考を焼き尽くし、砕かれたあばらの痛みも、阿片の匂いも、傭兵たちの顔もすべて消し去っていく。
私の紫水晶の瞳は光を失い、完全な狂気の薄闇を見つめたまま、最後の息を吐き出した。
地下娼館の、最も深い闇の底へと、私の歪んだ存在は溶けて消えた。




