戻れないけれど、帰りたかったあの時 (episode)
いつも一緒だった空間に、今は僕ひとりだけがぽつんと残った。
机に座って、ボールペンを取り、ノートを取り出した。
僕に残せるものは、これしかなかった。
ボールペンを握って、ノートにかろうじて文字を書こうとしたが、
ボールペンからはもうインクが出なかった。
なんとかしてノートの上に、一文字一文字、必死に書いた。
ひなた…
その上に、乾いたボールペンが置かれていた。
今になって思うのは後悔だったのか、それとも未練だったのか。
傾けた椅子に腰を掛け、窓辺に映る月明かりを見ながら、考えに沈んだ。
人は誰でも後悔をする。
後悔をしないというのは、矛盾であり、嘘だ。
選択に伴う結果。
結果に伴う後悔。
それは当然の流れだ。
僕もそうだった。
あの時を、狂おしいほどに後悔している。
もしもう一度戻れるなら、たった一度でいいから戻れるなら。
後悔という漢字はこう書く――『後悔』。
過去の過ちを悔やみ、反省せよという意味だ。
でも、僕が考える後悔は違う。
僕が思う後悔は『後回』。
どんなに自分の過ちを認め、反省しても、彼女が戻ってこないのなら…
それがいったい、何の意味があるというのか。
僕はもう一度過去に戻って、同じ過ちを繰り返して、そして今と同じように後悔するとしても――
ひなた
彼女にもう一度だけ会えるのなら…
傾いていた椅子をまっすぐに戻し、出ないボールペンを握りしめて、
名前の後ろに残りの文字を、一文字ずつ丁寧に書いた。
春に咲く桜は珍しくないけれど、僕は蕾からいちばん美しく咲く瞬間を見たようだった。
あなたを見たときが、そうだった。
夏の梅雨でも、あなたと一緒にいれば、それは僕にとっては夕立だった。
だからどうか、僕のそばにいてほしい。
やがて彼の目から涙が一粒、また一粒と落ちた。
ノートに落ちた涙はインクを滲ませ、内容は読めなくなっていった。
だけど最後の文だけは、はっきりと残っていた。
ひなた、愛したし、愛しているし、これからも愛する。
この文を残して、僕は古びた木の椅子に登り、自ら首を吊った。
なんと不思議なことだろう。
愛が何だというのか――命まで捧げる価値があるのか…
締めつけられるように息が詰まっていくのを感じながら、彼女との思い出をゆっくりと思い浮かべた。
生きるためにもがいてみても、変わらない現実は大して変わらない。
僕はゆっくりと目を閉じ、彼女との最初の出会いから思い返していった。
さあ、これから甘くて、ときに薬のように苦い、僕たちの物語を語っていこう。
これから新しく連載する作品です
多くの関心とよろしくお願いします




