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第71話

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「皆、何とか間に合ってくれっ!」


 フォードンが思いを馳せた頃、ケイブは疾走していた。雷魔法による電磁力を使って移動のスピードを上げている。


 ケイブの願いはただ一つ。それはこの無益な戦を止めることだった。


「『あいつ』が出てくる前に戦争を止めないと、何もかも手遅れだ!」


ーーーーーー


 ナホーティアを倒した魔界四将筆頭のヴィータは、注意深く歩みを進める。激闘の末、地に倒れたナホーティアを捕縛する為だ。


「ダメなのよ……」


 意識が無いはずのナホーティアの口から突如発せられた言葉に、ヴィータは歩みを止めた。


「ダメなの、ダメ、ダメ……」


 ゆらりと地面から起き上がる。極端な猫背で、足元はふらふらと覚束ない。異様な雰囲気に、さしものヴィータもぞっとした。


「降伏しろ、娘よ! 命までは取りはしない!」


「皆の為に、戦えるなら、ここで、終わっても、良、い」


 ヴィータの言葉がまるで聞こえていないかのように、ナホーティアはぶつぶつと独り言を言っている。


「皆のお荷物は、イヤ。ケイブくんのお荷物は、イヤっ……イヤっ!…………イヤなのよーーーーっ!!」


 天使のように華奢な体のどこから発せられたのか、分からないほどの轟音。


 同時に、ナホーティアの体から膨大な魔力の塊が放出されている。闇より暗く、沼より深い。そんな底知れなさを感じさせる、どす黒い何か。


 プラチナブロンドの髪は逆立ち、目付きは聖女とは似ても似つかないほど凶悪だ。身体に棲む魔物の開放。そんな表現が似合う。


 ヴィータは身体中に魔力を巡らせ、闇魔法を放った。


「仕方あるまい……『魔を喰らう足枷(ダーク・バインド)』!」


 殺傷力は無いが、触れた者の魔力を封じ、完全に行動を束縛する高等闇魔法である。


「……『狂化』40%」


 ナホーティアは素手で闇魔法を弾き、ヴィータに向かって突進する。


「あ、ありえん! 化物め……」


 手に膨大な魔力を通わせれば理論的には可能。だが、それほどの魔力を集め、また一点に凝縮させるのは尋常な技量では不可能だ。


 ナホーティアは四つ足で、獣のようにヴィータへと迫る。疾い。狂化スキルは30%を超えると破壊的な力を得る代わりに破壊衝動に飲み込まれ、理性を無くしてしまう。


「くっ、来るな!」


 ヴィータが次々と魔法を放つ。確かに命中し、傷を負ってはいるのだが、ナホーティアは一向に意に介さない。


「ああああああっっっっ!!」


 ヴィータへ向けてナホーティアが拳を突き出す。ヴィータは魔力の通った鎧に身を包んでいる為、並の攻撃は効かない。たちまち、ナホーティアの拳が割れ、血しぶきが飛んだ。


 しかし、それでもナホーティアの拳は止まらない。なんと、手首の骨を折りながら、ナホーティアの拳は鎧を貫通した。


「ぐふっ!」


 ヴィータは吐血し、数メートル吹き飛ばされる。それでも、ナホーティアの攻撃は止まらない。


 素早くヴィータの背後に回り込み、蹴りを放つ。ナホーティアの足の骨が折れる音、鎧が割れる音、ヴィータの背中が砕かれる音が、同時に響く。


「くそっ……!『闇の帳(ダーク・コルセット)』」


 闇に紛れたヴィータは、突如瞬間移動した。片手を上げ、莫大な魔力を集結させる。


「これで決めてやる! 『闇の帝王への悔悛(ヘルズ・レペンタンス)』」


 ヴィータが直径十メートルはあろうかという闇の球体をナホーティアに投げつけた。


「ギャハハハハハハハハッッッ!!」


 ナホーティアはけたたましく叫んだかと思うとおよそ地上の物とは思えない言語で高速詠唱を始めた。彼女の回りに、漢字とアラビア語が混じったような、奇異な文字の魔方陣が次々と浮かぶ。


『豁サ縺ュ縲ょ悄縺ク縺ィ蟶ー繧』


 おぞましいオーラを纏った魔法がヴィータ目掛けて放たれた。本能的に危険を感じたヴィータは、ギリギリの所でナホーティアの攻撃を避けた。


 一方、ナホーティアにはヴィータの闇魔法が直撃した。『闇の帝王への悔悛(ヘルズ・レペンタンス)』は闇魔法の中でも最高位の一つ。命中した相手の時間を止める効果をもつ。


 狂気に満ちた笑みを浮かべたまま、黒い球体の中でナホーティアは停止した。


「はぁ、はぁ……これで、一番の厄介者は止められたか。あと残る七列卿は、確か二人」


 ふと、ナホーティアが放った魔法が直撃した地面を見た途端、ヴィータは恐怖を覚えた。


 何と、辺り一面の地面がドロドロに腐食し、異臭を放っているのだ。見たことも聞いたこともない効果。恐らく、遠い古代に使われた魔法の一つだろう。


「話が違うぞ、ケイブ! 七列卿の次期当主がこんなに手強いとは……他の魔界四将は大丈夫なのか!?」


 ヴィータは一人呟き、ナホーティアを凝視して歯ぎしりをするのだった。


「人間のご都合主義の為に、どうして私達魔族が血を流さねばならないのだ!!」



《ナホーティアが持つ狂化スキル、呪術士スキルの概要》


【狂化Lv3】

・知性、幸運を除く全てのステータスを10倍化する。

・理性を失くし、欲望に忠実になる。

・破壊衝動、殺戮衝動が大幅に増加する。

・聖女スキルの支配下にある時は封印される。

〈スキル特性〉

・補食

対象の身体を補食することで、体力や魔力量を吸収する。まれにスキルを奪うことが出来る。


【呪術士Lv1】

・古代の禁呪魔法が行使可能。

Lv1:滅尽魔法、腐食魔法

・敵を呪い、憎む感情が増加する。増加すればするほど魔法攻撃力が増す。


・全ての魔法属性の適正を得る。

・聖女スキルの支配下にある時は封印される。

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