第57話
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英雄『白鳥のリーフェ』が誕生してから数ヶ月が経った。王国全土へリーフェが出向くことにより英雄人気は否が応にも高まっていく。
そして、魔王に対抗し得るリーフェの人気が上がれば上がる程、魔界へ侵攻すべきとの民意が高まっていくのだった。
俺とナホーティアは王都を歩いていた。あちこちに魔族征伐を煽るポスターが貼られている。勇ましいリーフェのデザインを添えて。
「王都は開戦ムード一色だな」
「そうねぇ……リーフェちゃんが良いように利用されているような気がするなぁ」
キングウェル王国は魔族や魔物を正式に『敵』として定めている。国教であるリーヴェンレイル教の教義にも、そのような記載が認められる。さらに、教義を拡大解釈して亜人すら敵視する者もいるのが現実だ。
「七列卿はリーフェを王国全土へ派遣しているらしい。リーフェを使って、ありとあらゆる場所で魔族への敵愾心を煽っているのだそうだ」
「ミファイルトスさんが言った通りになっちゃってるね」
「そうだな。ただ、奴らの狙いはまだ漠然としていて解らない。魔界へ侵攻することによって、何か利があるのだろうか」
その辺りはいくら考えても見当がつかない。ミファイルトスが言及していた『人間の悪意』が関係しているのかもしれない。
「でも、実際に魔界への侵攻が始まったら魔王さんも大変だねっ」
「その通りだ。人間など我輩の敵ではないが、配下が多く死ぬのは心が痛い」
「「……え?」」
後ろを振り返ると奴がいた。そう、魔王である。身長を二メートルくらいに縮めてはいるが、相変わらずの威圧感だ。
「フハハハハッ! 驚いたであろう! まさしく我輩は魔王である!」
「な、なんで王都にいるんだよ! 大胆にも程があるだろ……」
「まあ、敵情視察という奴だな。人間共が無謀にも我が魔界に攻め入ろうとしているようなので、偵察に来たのだ」
「魔王さん……王都にいて大丈夫ですか? 背後から突然襲われて殺されたりしませんか?」
ナホーティアは心底心配しているようなのだが、天然の為か失礼な質問をしてしまっている。そこがまた可愛いのだが。
「フン。我輩に対抗出来る人間など、この時代にはおらぬ。だが、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすもの。今回はその為の王都潜入だ。既に段取りは済ませてある。折角なので、お主らもついてくるが良い」
「お、おう……」
魔王と一緒に往来を歩く。魔王の身長は二メートル。高く尖った耳に三つある目。黒いマントを羽織る威容は悪目立ちしている。周囲の人々の視線が痛い。
「到着したぞ。今、最も我輩が関心のある施設だ。偵察部隊を幾度となく派遣したのだが、未だに機密を盗めていない。なので、我輩自身で向かうことにした訳だ」
「そうか。王国の重要な軍事施設か何かか……?」
しかし、目の前にあるのはどう見ても女性で賑わうスイーツ店である。魔王はマントを翻して店内に入っていく。
「いらっしゃいませ! わくわくスイーツパラダイスへようこそ!」
「予約をしていた者なのだが」
「あいにく、当店は事前予約は承っておりません。現在満席となってますので、こちらの紙にお名前をご記入頂いてお待ち下さい。順番にお呼びします」
「予約不可とは聞いてないぞ……使い魔に予約を任せたのが失敗だったか」
ブツブツ言いながら、紙に名前を書き込む魔王。
「おい、魔王。本当にこの店で間違いないのか?」
「うむ。この店のフルーツパフェが絶品でな。レシピを盗もうと試みたのだが、成功に到っていないのだ。かくなるうえは、我輩自身の舌で確かめる他はあるまい」
「なんだそりゃ……」
「魔王さん、なんか可愛いですねっ」
ふふふと笑うナホーティア。
「可愛いだと?! これも王国侵略の一環である。笑っていられるのも今のうちだ……」
順番を待つ間、三人で椅子に座っているのだが、魔王が注目を集めてしまっていて恥ずかしい。
想像してみて欲しい。若い女子で賑わうスイーツ店に、堂々たる魔界の覇者が腕組みで順番を待っている光景を。こいつの連れだと思われるのは完全に羞恥プレイだ。
「大変お待たせ致しました! 三名様でお待ちの、魔王様~! 魔王様~!」
「いかにも、我輩が魔王である!!」
大声を張り上げる魔王。って言うか、紙に『魔王』と名前を書くなよ……。
店にいる全ての客が視線を注ぐ。俺とナホーティアは魔王のお供と思われているだろう。店のあちこちからクスクスと笑い声が聞こえる。
もう、本当に帰らせてくれ……。
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