表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

番外編1 藤本武人の場合

初めは、本当に恋愛に関しては初心者だった。


「あのっ…


あなたが好きです」


一つ下の水森沙菜から告白された時は、俺にも彼女が出来るんだと、本気で思ったくらいだった。


大学時代にもゼロ、会社に入って1年目もそんな予感すら無かったのに。


それで北川とか橋下さんに飲み会で童貞いじりされるレベルには、無縁だった。



沙菜とは休憩ルームで出会った。


新入社員で不安で落ち込んでた沙菜に、たまたま北川に頼まれて買った午前ティーのミルクティーを渡した、


それだけだった。


それに感動して俺に惚れたって言ってんだけど…


正直、そんなに惚れられる要素か?とか、不思議しかなくて。


こんな風にモテるのだってこれきりだと思った俺は、もちろんオッケーした。


…この後、俺の女癖が悪くなるなんて、思いもせずに。








それは、大学時代のダチに久しぶりに飲みに誘われた時だった。


「は…!?」


行ったところで開かれてたのは、どう見ても合コンだった。


「んだよ藤本ぉ〜お前にどうせ彼女なんていねーって話でわざわざ開いたのによぉ〜


大学時代も合コン誘っても来なかったし、黙ってねーと来ねーってことで隠して連れてきたんだぜ〜?」


「そうだぞ〜それにお前の会社、一部上場の有名企業だし、モテるぜ〜?」


確かに俺のダチは揃いも揃って中小企業で働いてる。


そんな肩書きだけで、本気でモテると思ってんのか?


「別に彼女とか…」


こいつらに言うのは恥ずかしいし、沙菜には彼女いるって言えって言われてるけど、人に知られると変に突っ込まれるのが嫌で黙ってたし…


彼女がいるとは言わずに、彼女いらないアピールしてる俺、カッコ悪いな。


それでもやめられないんだよ。


「んだよノリ悪いぞ〜


まあさ、今回だけだと思って!人数合わせんの大変なんだぞ!」


半ば強引に参加させられたものの、確かに来てよかったのかもしれない。


「へぇ〜藤本さんてぇ、DRWの社員なんですねぇ〜!


IT企業ってぇ〜、年収いくらくらいなんですかぁ?」


ダチが言ってたように、本当に肩書きを気にするタイプもいるのがわかった。


「思ってるより貰ってねーと思いますよ。


それでも聞きます?」


「えぇ〜?それならコッソリ教えて〜?」


耳を俺の方に向けてくる女。


おっぱいもでけーし、沙菜とは正反対だ。


沙菜は素朴すぎて、つまんねー。


あいつにも可愛いところもあるっつーのはあるけど、やっぱりこういう尻軽系の女の方が俺は好みだ。


どこかのAVにいそうな体型で、妄想が捗る。


「ねぇ、


この後、私達だけで抜け出さない?」


その日の夜、俺はその女とラブホへ直行した。








それから、一夜限りの関係に味をしめた俺は、そういう女が来そうな合コンに参加するようになった。


女の方は俺のことを捕まえる気満々なんだろうが、悪いが俺はお前のような女とは付き合いたくない。


所詮、遊びの関係だ。


だから、沙菜は保険としても、キチンとした彼女としても手放す気はなかった。


「…、ふじもん、ねえ、聞いてる?」


「あ、悪い、聞いてなかったわ」


北川が仕事の話してたのを完全に上の空で聞いてたわ。


最近気付いたけど、北川は割となんでも出来て、頼りがいのある、いわゆる『カッコいい女』だ。


沙菜が北川の話をしてたのを聞いたことがある。


北川のことを憧れてるとか、そんなことを零してたよな。


あいつら仲がそれなりにいいらしくて、もしかしたら北川は沙菜と俺の関係を知ってる…かもしれねぇ。


それは避けたいな。


どうすれば沙菜は黙ってるだろう。


「それでさ、ふじもんは…


…って、また聞いてないね?もういいわ」


北川がそう言ってサッサと帰っていった。


ごめんな、北川。


後からお前の好きな午前ティー、奢るからな。










「藤本、ちょっといいか?」


俺だけが残業してるある夜に、話しかけてきたのは大学の先輩、沢渡龍也だった。


同じ研究室に通ってて(俺は学部生、沢渡さんは院生)、それで一緒にDRWの就職を考えたということもあって、未だに親交がある。


ただ単に同期になったっつーこともあるんだけどな。


「何すか?」


「北川さんの件で…」


ああ。


なんか沢渡さん、前から北川のこと気にしてんだよな。


「この間は北川の好きなものとか俺に聞いてましたよね?」


「そうだったな。


今度はそろそろ慰安旅行の話、出ると思って。


北川さん、慰安旅行に来たことないだろ?」


当然俺とか仲良い人なら北川の出欠とか知ってるが、まさか沢渡さんまで北川のことそんなに見てるとは。


沢渡さんは院生の頃から密かに色んなところでイケメンと噂されてて、すっげー人だなーとか思ってたのに、


まさかそんなすげー人に、北川は気にしてもらえてんのは、友達としてすげー嬉しいというか、誇りだよな。


「確かに北川はそういうの面倒とかよく言ってますしね」


今年も来るとは思えないんだよな。


「今年藤本が慰安旅行の幹事だろ?


どうにかして北川さんを呼んでくれよ」


ええ…あいつ結構頑固なんだぞ…?


「一応頑張ってはみますけど…


沢渡さん、どうしてそんなに北川にこだわるんですか?」


ずっと聞きたかった言葉。


大体察しはつく。


それはわかってても、本人が言うのと予想とは重みが違う。


「北川さんのこと気になってるんだよな」


ま、マジか…


本当に言ったぞ…


「…それなら、北川と出来るだけ一緒になるようにセッティングとかされたい感じですか?」


俺の恐る恐る言った言葉に、沢渡さんは嬉しさが隠しきれないような顔をしていた。


その顔を見て、何故か俺は胸の辺りがモヤモヤするような気がした。








「え、慰安旅行?」


「そうそう。北川、同期会兼ねてさ、行かね?」


沢渡さんが言ってたことがまだ頭から離れないまま、俺は北川を誘った。


「んー、いつも行ってないのに今回だけ行くのもなぁ…」


思った通り、北川に行く気なんてなさそうだ。


「北川いねーとマジエンジニア枠からの女子ゼロだぞ!?!?


部署ごとのレクでいっつも華がねえったらありゃしねーんだわ」


本当に毎年思ってたことを言いながら、俺は何とかして誘う。


そうでもしないと、沢渡さんに失礼な気がした。


…俺、やましい気持ちでもあるのか…?


…わっかんねー。


「…ま、今回の日程的に何も入ってないし、私も行こうかな」


え、マジで。


「よっしゃー!」


「ふじもん喜びすぎでしょ…」


沢渡さんからのお願い、何とか叶えられそうだ!


そんなことを思いながら北川の顔を見る。


…あれ、気のせいだよな…?


北川の顔が、いつの間にか女らしい顔___前から女だとは思ってたに決まってるけど、そうじゃなくて、異性として___そんな顔に___


…いや、気のせいだ!絶対に!




まさか、この時から北川のことを気にするようになるなんて、思ってもいなかった。








「タケ君〜?もう行っちゃうの〜?」


今日も出会い系アプリで引っかけてきた尻軽な女と寝た後、ベッドの上でチャットをしていた。


「んー仕事関係で連絡が要るからな」


相手は北川。


慰安旅行の後に俺は沢渡さんと北川を2回引き合わせたわけだけど、北川が沢渡さんと仲良くなってるのを考えると、どうしてもモヤモヤした。


だからなのか、俺からわざわざアイツに連絡したくなって、いつの間にか結構長い間チャットが続いてる。


…ちょっと可愛げのある宇佐美さんの名前を出して北川に探らせてたり、俺って何してんだろうな…


宇佐美さんのことは結構好きではあったけど、付き合いたいタイプではなかった。


宇佐美さんとワンチャンを狙って近づいたら、向こうにかなり酷い言われようしてて引いた記憶は割と新しい。


「ええ〜?絶対に仕事じゃないでしょ〜!そんな顔しちゃって〜」


「俺、そんなに仕事好きなのか…?」


「どうしても否定する気ね」


北川に連絡するのにそんなに喜ぶわけねーだろ!


…ま、でもアイツと一緒にいると楽しいのは本当だ。


向こうもそう思ってるのか、最近色々休日に誘ってくる。


楽しいからいいんだ。


…いいんだ。







『たっくん、最近何で私と会ってくれないの?』


やべ。


沙菜と最近会うの忘れてた。


北川と遊んだりとか出会い系で知り合った女達と寝てるだとかしてる方が多い。


最近になって、出会い系の人の方はあまり釣れなくなった。


俺がとんでもない奴だって、もしかしたらどこかの界隈で広まってんのかもしんねぇ。


「ごめん、忙しくて」


だから余計に沙菜を手放すつもりだってない。


『今度うちに来てデートしよう』


「いいぜ」


よかったー、俺の家に来られたら…もしかしたら、何かバレるものがあるかもしれないしな。




そんなことを思いながら沙菜の家に行ったら、沙菜が俺のことを外に出て待っていた。


「外寒いだろ?どうして出てきてるんだよ」


「…だって、会いたかったんだもん」


そんなことを言った沙菜の顔を見て、俺はハッとした。


北川の最近の顔。


沙菜みたいな表情。


____もしかして、俺はとんでもねーことを北川に…


友達だと思って北川と遊ぶつもりが、向こうとしては俺のことを好きで誘ってたりしてたら…?


俺には沙菜が居るし、流石に泥沼にするつもりはないから会社で寝るだけの女を作るつもりはないし、二股するつもりもない。


勘違いかもしれない。


それでも、北川を傷つけてたら…


それより、俺の気持ちは?


「…たっくん?」


いや、俺には沙菜が。


…俺には頭を冷やす時間が要るな…


そんなことを思って、俺は沙菜の家に入った。


…この時、まさか今までのラブホのレシートが全部沙菜に見られて、浮気が疑われたなんて、思いもしなかった。








あれから数ヶ月が経った。


北川との接触が少なくなったら、そのうちに北川が出世してプロジェクトの中心人物になるだとか、そんな噂を聞くようになった。


北川からの誘いはもうなくなった。


沢渡さんはうちの部署に来る頻度___というより、北川に会いにきてる頻度もまあまあ増えた。


少し後悔してんのは、女友達が他の男に取られたからか?


それとも、俺が北川を?


そんな悩みなど無視するかのように、時間は経っていく。


そんなことを考えてるうちに長期休暇を申請して高校時代の男友達との旅行が待っていた。


北川が釜山に行ってるとかいうSNSでの呟きに、ついうっかりDMで連絡をする。


…その時は普通だった。


あいつにしてみれば連絡は遅かったし、でも旅行中だし当然か、とか考えてた。


そして、甘く見ていた。


…俺、もしかしたら北川のこと、好きだったのかもしれない。


北川は結構男慣れしてない女だ。


俺のこと、まだ好きでいてくれてそうだよな。


どこから湧いたのか、そんな期待は、次に送られてくるチャットで見事打ち砕かれる。








『彼女を大切にね』


いきなり北川から送られてきたチャットは、俺にとってかなりのショックな出来事だった。


…沙菜!


沙菜が北川に話したのか!?


北川、俺が彼女いるってわかって、失望したのか?


いや、でも沙菜と別れてすぐ北川への気持ちを確認するくらいなら、セーフだよな…?


そんなことを考えてると、沙菜からのチャットが来た。


『別れたいから一度会いましょう』


…は?


もしかして…?


浮気がバレた?


浮気というか、他の女と寝てるって…?


沙菜は俺にゾッコンだっただろ?


いきなりどうしたんだよ。


両方に既読を付けたまま、俺は動けなくなっていた。








__________


_____


__


「おめでとう!」


「沢渡さんとお似合いだよ!」


「なっつん〜〜〜〜!」


今日は北川と沢渡さんの結婚式。


沢渡さんから結婚式の招待状が送られてきた。


北川から送られてきた、とは考えられなかったし。


_____『彼女を大切にね』と送られてきたチャットから3日くらい経った後、北川だけにはチャットを返信した。


あの当時の俺は、北川をキープにして、沙菜と別れても困らないようにしたかった。


でも、既読すら付かなかった。


未だに、北川とのチャットの最後は未読のままだ。


そして沙菜にその後会ったものの、ラブホのレシートを突き出され、バレて言い訳も出来ずに別れた。


そんな沙菜にも彼氏が出来てたとかいうことは、俺の部署までも噂が入ってきた。


____あの頃の俺は馬鹿だったな。


今更後悔しても、俺の手の中にあるのは何もない。


北川のことだって、今思えば俺の独占欲だったと思う。


今まで仲良かった女友達が、目の前で取られる気分が最悪だった。


___多分、それが俺の答え。


そして欲張った結果、友達ですら居られなくなったとか、ホント俺は馬鹿だ。


誓いのキスをしている2人を遠くで見つめる。


_____幸せになれよ


俺はそう心の中で呟いて、北川に姿を見られないうちに式場を去った。



fin.

次回の更新は7月31日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ